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愛され男が「大嫌いな大会」のラストイヤーで悲願の優勝/「R-1グランプリ2022」個人的まとめ

 こんにちは!
 今回は今年で20周年を迎えたピン芸人日本一決定戦「R-1グランプリ2022」の決勝戦について書きたいと思います。少し長くなるかとは思いますが,最後までどうぞお付き合いください。それでは参ります!

はじめに


 今年は20周年記念大会ということで,大人気アニメ「東京卍リベンジャーズ」とコラボしたり,「R-1フェス」と題した歌とお笑いのイベントを開催するなど,いつも以上に事前プロモーションが盛り上がっていたように思います。
 そんな今年の大会は,2年ぶりに決勝戦が東京開催となりました。
 東京・お台場のフジテレビV4スタジオから生放送された今年の決勝戦。
 決勝戦のMCは今年も昨年に引き続き霜降り明星のお二人と女優の広瀬アリスさん。粗品さんは3年連続,せいやさんと広瀬さんは2年連続の決勝戦MCとなりました。
 審査員は今年から新たにバカリズムさん,小籔千豊さんが加わり,以下の5名となりました。

【R-1グランプリ2022 審査員】
・ 陣内 智則
・ バカリズム
・ 小籔 千豊
・ ハリウッドザコシショウ
・ 野田クリスタル (マヂカルラブリー)

画像3今年の「R-1グランプリ」の審査員席。

(「R-1グランプリ」公式Twitterより引用)

 特に,今回の審査員の中で注目されていたのはバカリズムさんでした。「R-1ぐらんぷり」4年連続決勝戦進出の経験を持ち,ブレイクするきっかけとなった伝説の「都道府県の持ち方」のネタ(地理の先生)は,今でもなお,バカリズムさんのネタを語る上で外せない代名詞として語り継がれているいわばピン芸人界のレジェンド的存在で,過去のファイナリストや,今大会のファイナリストからも「バカリズムさんの審査が楽しみ」という声が多く上がっていました。
 個人的には,今回のバカリズムさんの審査は辛口だったように思います。90点台の点数を付けたのが吉住さんと渡部おにぎりさんの2人だけだったというのからも,バカリズムさんの審査の厳しさが窺えます。予想としては,小籔さんが持ち味の毒舌で辛口の審査をするかと思ったのですが,逆に小籔さんは全体的に得点が高かったように感じました。
 そして,全国3,199人のエントリーの中から熾烈な予選を勝ち抜き,決勝戦へと駒を進めたのは以下の7名でした。

【R-1グランプリ2022 ファイナリスト】   ※ ☆は,ラストイヤー。          ・ kento fukaya (吉本興業) ☆
・ お見送り芸人しんいち (グレープカンパニー) ☆
・ 吉 住 (プロダクション人力舎)
・ サツマカワRPG (ケイダッシュステージ)
・ ZAZY (吉本興業) ☆
・ 寺田 寛明 (マセキ芸能社)
・ 金の国・渡部おにぎり (ワタナベエンターテインメント)

 これに決勝戦前日の3月5日に行われた敗者復活戦「復活ステージ」で視聴者投票1位となったYes!アキトさん(サンミュージックプロダクション)を加えた8名で優勝の座を争いました。
 ちなみに,皆さんもご存知の通り,サツマカワRPGさんとYes!アキトさんはお笑いユニット「怪奇!Yes!どんぐりRPG」のメンバーであり,同じユニットのメンバーが決勝戦で相対する格好となりました。
 決勝戦では,ファーストステージ終了時点の点数が463点でお見送り芸人しんいちさん,吉住さん,渡部おにぎりさんが並ぶという波乱の展開に。得点が並んだことから2007年,なだぎ武さんとチュートリアル・徳井義実さんが優勝をかけて臨んだファイナルステージ以来となる同点決勝が行われ,審査員5人による投票でファイナルステージ進出者を決めることに。投票の結果,

お見送り芸人しんいちさん:3票
吉住さん:2票
渡部おにぎりさん:0票


で,お見送り芸人しんいちさんがファイナルステージに進出。吉住さんと渡部おにぎりさんは同率3位という結果になりました。
 ファイナルステージは,お見送り芸人しんいちさんらと1点差の464点でファーストステージ1位となったZAZYさんとお見送り芸人しんいちさんの対決となり,お見送り芸人しんいちさんが最終審査で,審査員5名中3名の得票を得て優勝。見事,20代目王者に輝きました。

画像1優勝トロフィーを受け取るお見送り芸人しんいちさん。 (© カンテレ)

画像2優勝が決まり涙ぐむお見送り芸人しんいちさん。

 ここからは,そんなファイナリスト達のネタを細かく見ていくことにしましょう。

※ ここから先はネタバレを含む要素が多く含まれます。決勝戦をまだご覧になっていない方は,決勝戦をご覧になってから読まれることをおすすめします。

※ ○数字は,ネタの披露順。芸名のあとの括弧は所属事務所,時刻はネタの開始時刻。

ファーストステージ

① kento fukaya (吉本興業)

20:16

【審査員の得点】

陣 内  93点
バカリ  84点
小 籔  92点
ザコシ  90点
野 田  90点

合 計 449点

個人採点:94点

 2年連続の決勝戦進出で今年がラストイヤーとなるkento fukayaさんがトップバッター。
 そんな彼のネタは,昨年の「トリプルフリップストーリー」から趣向を変えて,「合コン」をテーマに次々と展開するイラストにfukayaさんがツッコミを入れるという漫談スタイルのような新ネタ。トップバッターの運命ではありますが,あまり点数が入らなかったのが残念。
 ネタ後の「(フジテレビに向かう時に)ゆりかもめに乗ってるときから心臓がランダムに動いている」という言葉から,トップバッターとしての緊張感が伝わってきました。

② お見送り芸人しんいち (グレープカンパニー) 

20:24

【審査員の得点】

陣 内  92点
バカリ  89点
小 籔  94点
ザコシ  93点
野 田  95点

合 計 463点

個人採点:95点

 「僕の好きなもの」をテーマにした歌ネタ。最初は優しい入りなのに,徐々に毒を入れてくるところでネタに抑揚が付いていましたし,その毒の例えが「試験に落ちたのに『もう一度見て来い』という親」「しつけしすぎて面白味のなくなった犬」など,どこか共感できる例えで面白かったです。
 審査員のバカリズムさんもおっしゃっていましたが,平坦になりがちな歌ネタに見事な歌唱力で緩急を付けたのは素晴らしいなと思いました。

③ Yes!アキト (復活ステージ第1位・サンミュージックプロダクション) 

20:33

【審査員の得点】

陣 内  88点
バカリ  87点
小 籔  92点
ザコシ  90点
野 田  90点

合 計 447点

個人採点:92点

 復活ステージを勝ち抜き,決勝戦最後の切符を手に入れたYes!アキトさん。
 代名詞とも言える「ダブルパチンコ」など,怒涛のギャグの手数と声量で会場を盛り上げました。
 ただ,ピンギャグ芸人の難しいところでもありますが,終始ネタがギャグ一辺倒になってしまったので,何かどこかでガラリと流れを変えるような笑いどころが1つ欲しかったように感じます。

④ 吉 住 (プロダクション人力舎) 

20:41

【審査員の得点】

陣 内  91点
バカリ  91点
小 籔  97点
ザコシ  91点
野 田  93点

合 計 463点

個人採点:96点

 今大会のファイナリスト唯一の女芸人で,2020年の「女芸人No.1決定戦 THE W」(日本テレビ系)との二冠を狙って挑んだ吉住さん。
 ネタは「正義感暴れ」というネタで,吉住さんは,芸能人の不倫が許せなくてぶちギレてしまう女を得意の憑依型コントで熱演。ぶちギレるところと落ち着いているところの切り替えが絶妙で,昨年のネタ「祠」の反省を生かし,狂気じみたネタの中にもしっかりと笑いどころとどこか共感性のあるネタに仕上げました。
 個人的には,その吉住さん演じる女性が「不倫した芸人の謹慎期間をエクセルでまとめてネットに公開している」というくだりが面白かったです。

⑤ サツマカワRPG (ケイダッシュステージ) 

20:52

【審査員の得点】

陣 内  90点
バカリ  88点
小 籔  94点
ザコシ  91点
野 田  96点

合 計 459点

個人採点:96点

 普段の「怪奇!Yes!どんぐりRPG」で見せる逆とは全く違う落ち着いた一人コント。体育館裏に呼び出した同級生の女の子・神宮寺とのやり取りを描きます。神宮寺さんはとある大会が近いという理由から,サツマカワさんのあらゆる提案を断ります。その度にサツマカワさんの「……そうだよな……大会,近いもんな……」という台詞が。この台詞が鍵となって話が進んでいくネタで,今まで見たことない新しいサツマカワさんの一面が垣間見られるネタでした。面白かったです。
 それに審査員の野田さんもおっしゃっていましたが,「大会近いもんな」という一言の台詞だけで,あれだけの笑いを重ねられるのは演技力あってこそのものだなと思いました。
 最初は,ネタ順的に一人コントが連続するので,胸焼けしないかなと思いましたが,吉住さんの比較的激しめのコントサツマカワさんの落ち着いたコントという趣向の違うコントが並んだことで絶妙にバランスが取れており,ちょうど良かったです。

⑥ ZAZY (吉本興業) 

20:59

【審査員の得点】

陣 内  86点
バカリ  89点
小 籔  98点
ザコシ  95点
野 田  96点

合 計 464点

個人採点:95点

 昨年大会準優勝で優勝候補筆頭に挙げられていたZAZYさんのネタ。まず,ZAZYさんはお馴染みのピンク色の衣装に金色の羽を付けて登場。恒例の「ZAZYに見慣れる時間」があった後,ネタに入りました。
 ネタは,「デジタル紙芝居」というモニターに絵を投影する新しいスタイルで,恋愛番組に
出てくる個性的な男性をZAZYさんのネタの醍醐味であるリズミカルさと独創的な世界観で紹介していくというもので,最後には,中島みゆきさんの「ファイト!」を歌う場面も。終始,会場を「ZAZYワールド」に包み込んだネタでした。
 個人的には,ZAZYさんといえばフリップをめくる紙芝居のイメージがあったので,どこか今回の「デジタル紙芝居」は新鮮に感じました。

⑦ 寺田 寛明 (マセキ芸能社) 

21:09

【審査員の得点】

陣 内  90点
バカリ  86点
小 籔  94点
ザコシ  90点
野 田  92点

合 計 451点

個人採点:93点

2年連続決勝戦進出,昨年大会最下位の現役塾講師芸人・寺田寛明さんのネタは「始まりの歴史」をテーマにしたフリップ漫談。さまざまな物事を始めてやろうとした人の苦労や葛藤とそれに対する周囲の反応を面白おかしく考察するというもので,最終的には「理解できないものでも理解する姿勢が大切」という塾講師らしいメッセージを伝えて終わるというネタで,面白かったのですが,全体的に爆発的な盛り上がりというのが無くてどこか単調で平坦なネタだったのが少し残念でした。

⑧ 金の国渡部おにぎり (ワタナベエンターテインメント) 

21:17

【審査員の得点】

陣 内  93点
バカリ  90点
小 籔  93点
ザコシ  93点
野 田  94点

合 計 463点

個人採点:94点

 ファーストステージ最後のネタは今大会のファイナリストで唯一のコンビ芸人・金の国の渡部おにぎりさん。昨年大会は準決勝でネタを飛ばしてしまい,悔しい思いをしました。
 そんなおにぎりさんのネタは,公園でサンドウィッチを食べていたら,鳶に体ごと持っていかれしまった人を高い演技力で演じる一人コント。
 個人的には,ネタの終盤に空を見上げて「……虹」という時の言い方が抜群に良かったですし,そのタイミングで,2番手のお見送り芸人しんいちさんが毒づいたAqua Timezの「虹」が流れるというなんともいえない偶然の伏線回収があったのが面白かったです。

ファイナルステージ

①⑨ お見送り芸人しんいち (グレープカンパニー) 

21:36

「応援するよ」と題した歌によるギター漫談。1本目より温かみが増しましたが,相変わらず毒は健在。絶妙に毒のある歌詞を抜群の歌唱力で歌い上げ,会場がまるでライブハウスのようになる素晴らしい歌ネタでした。

②⑩ ZAZY (吉本興業) 

21:42

「寿司屋のネタ」を題材にしたデジタル紙芝居。笑えるイラストとリズミカルさで会場は大笑い。最後には,フリップで自分の幼少期の頃の写真を出すなど……最後の最後までZAZYさんらしさ全開の奇抜なネタでした。

総 括

 『「R-1」という大会が大嫌いで……本当に嫌だった。芸人を辞めようと思っていたところをサンドウィッチマンさんに拾ってもらって……見捨てないでくれた家族やマネージャー,今まで色んな人に迷惑をかけてきたけど,こんな僕がここまでやれているんだぞ,というのを見せたい。』


 と事前のファイナリスト紹介VTRで語っていたお見送り芸人しんいちさん。優勝が決まった午後9時51分。スタジオに紙吹雪が舞うと,膝から崩れ落ちて涙。MCの粗品さんにコメントを求められると,

「2017年の決勝でネタを飛ばしたブルゾンちえみにありがとうと言いたい。芸歴10年目以上でも面白い人はたくさんいるので,是非ライブに来て欲しい。」

と毒っ気を交えながらコメントしました。
 多くの人に愛された孤高のミュージシャン芸人がこれから歩む道にたくさんの光が差すことを願いたいですし,今後の活躍を楽しみにしたいと思います。優勝おめでとうございます。

 話は変わり,昨年グダグダだったと批判を浴びた進行面。今年はファイナリストの数も減ったせいか,全体的に穏やかに安定した進行だったように思いますし,目立った放送事故も起きませんでした。特に,同点決勝となった場面での咄嗟の連携と対応は,流石でした。
 優勝者の優勝コメントも余裕をもって聞くことが出来ましたし,敗者コメントや暫定ルームとの中継を挿入する時間も充分ありました。
 昨年と違って落ち着いて見ることが出来ましたし,普段はボケに徹するイメージのせいやさんが粗品さんにツッコむという場面が見られたのも面白かったですし,進行が安定している証拠だなと感じました。

 話は早いかもしれませんが,今年敗れた芸人たちは来年に向けて己の芸をさらに磨いて再び決勝の舞台で天賦の才をバラしてほしいですし,また新たな芸人の天賦の才がバレるのが今から楽しみです。
 今年の大会のキャッチコピーは「たった一人で未来を変えろ」でした。たった一人で未来を変えようと挑んだすべての芸人たちに最大の敬意を表したいと思います。本当にお疲れ様でした。そしてありがとうございました。

 長くなりましたが,そろそろこの辺でおしまいにしたいと思います。徐々に近づいてきた春が待ち遠しい今日この頃。皆さん,お体には充分お気をつけください。それでは,また次回。


 

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