クラウン*ベスのアメリカ体験記 vol.27
米国で”地上最大のショウ” リングリングサーカスのブルーユニットに入団したエリザベス! 今回は人間大砲(Human Canonball)アーティストについて綴ります。
「The Greatest Show On Earth」のフィナーレは、通常最後に観客をあっと言わせるエキサイティングなアクトで締めくくります。128thエディション「サイドショー」ツアーのフィナーレは、スタントアクロバットが大砲から発射される通称「人間大砲」。しかも普通の大砲と違い二つの大砲が横に並んで二人のアクロバットが同時に大砲から発射される、二連人間大砲(Double - Barreled Cannon)です。この二人の勇敢なスタントアクロバットは、世界で唯一の大砲のカップル、マーク・マイヤーズ(Mark Myers)とヴェスタ・ゲシコヴァ(Vesta Gueschkova)です。
マークは13歳からパフォーマンスを始め、元クラウン、アマチュアのアクロバットでもあるフロリダ出身のアメリカ人です。子供の頃は子役としてテレビ、映画、コマーシャルなどに出演。クラウニングに魅せられ、1989年にRBBBクラウンカレッジに入学して卒業後は、「アメリカンサーカス」のクラウンとして巡業します。1992年、人間大砲の世界第一人者である、伝説の元「命知らず」で名高いエルビン・ベイル(Elvin Bale)は、マークに人間大砲の可能性を見出し、弟子として勧誘しました。翌年1993年、マークにとって初めて人間大砲としてデビューします。マークは、二連人間大砲のことを聞いた時、これは僕の使命だ、と思ったそうです。
一方、ヴェスタは、ブルガリア出身です。彼女にとって危険に直面した時の優雅さは、新体操選手としての生涯のトレーニングと競技から得られたものです。1987年彼女が所属するブルガリアの新体操チームは、ヨーロッパ選手権で金メダルを獲得しその後チームは世界中をツアーしました。その後1990年初めに新体操のキャリアから方向転換しサーカスパフォーマーになることを決意します。アメリカやヨーロッパのサーカスで彼女はジャグリングやアクロバットのスキルを身につけていきます。1997年に「The Greatest Show On Earth」でオファーがあったとき、彼女は新たな挑戦の準備ができていたそうです。ヴェスタは笑いながら、「たとえそれが発砲して飛んでいくということだとしてもね。」
彼らは二連大砲からの飛行中、時速105km/hを超える速度で85フィート(約26メートル)の距離を移動します。その空間をうまく飛行するには、人間大砲エキスパート達が「空中感覚」と呼ぶ、「空中で地面に対して体がどこにあるかを知る能力」が必要になってきます。ヴェスタはこう言います。「大砲から撃ち落されるのは飛行中に宙づりにされるようなものだわ。」マークは「発砲する前に私の体の筋肉は硬くロックされている。発射時には何にも比べられない圧迫感を背中に感じるんだ。大砲の中では少し怖いと感じるくらいがいいんだ。集中力が研ぎ澄まされるからね」この二人は広大なアリーナを並んで飛び立つ時、どんな思いを抱いているのか?マークはこう言います.「僕たちはチームだ。安全や成功はお互い依存して合っているんだ。」
私の抱いたヴェスタの感想は、「ただただかっこいー」。128thエディションにはブルガリアの新体操チームもいましたが、仕事以外でヴェスタが他の新体操選手とオフの時間を過ごしているのはあまり見たことがありませんでした。休みの日も化粧なしでぼろぼろのジーンズに白いTシャツ。一人でコインランドリーで別行動していていつも颯爽としていたヴェスタ。若い女性が一人で行動していて大丈夫なのか男性のスタッフはいつも心配していました。どちらかというと年上の男性と一緒に過ごしているのをよく目にしました。集団の中ではとても口数が少なく、話力より観察力に長けている感じがしました。私よりずっと若かったけれど精神的にもとても大人びていたのはよく覚えています。
マークは1989年にRBBBクラウンカレッジ卒業で人間大砲の時以外はクラウンとしてパフォーマンスをしたのでよく話しました。とても気さく。彼がクラウンカレッジに一緒に行った日本人のクラウンの話をしたり、リングリングサーカスでは1年目同士の「ファースト・オブ・メイ」(First of May)のグループでも一緒で、シニアクラウンたちのサプライズパーティの企画を練ったり今思い出すと懐かしいです。
続く。。。
書いたのは、
エリザベス
1990年クラウンカレッジジャパン2期卒業生。7年間日本でクラウンとして活躍後、渡米。アメリカとカナダのサーカスで10年間クラウニングを続行。その後10年間マクドナルドのクラウン、ロナルドのアシスタントを務める。現在アメリカ在住。