クラウン*ベスのアメリカ体験記 vol.32
米国で”地上最大のショウ” リングリングサーカスのブルーユニットに入団したエリザベス! 今回はダイナミックな象のショーについてつづります。
128thエディションの象のショー
私が初めて入団したリングリングサーカス128thエディション「サイドショー」ツアーで、初めて象のショーを見た時は、鳥肌が立つほど感動したのを覚えています。
前に働いた木下サーカスではタイの象が2頭。その後アメリカに渡ってから参加したテントのサーカスでは象は多くて4、5頭。簡単な芸はするけれどメインのアトラクションはショーの前やインターミッションでのエレファントライド(Elephant Ride)でした 。
128thエディションのメインの象のアクトは、2頭の子象の芸を除いて、前半の終わりのプロダクションナンバーと言われるキャスト全員でアリーナ中を練り歩くパレードと、後半の象のアクトの2箇所です。
スペックと呼ばれた前半最後のプロダクションナンバーは、キャストや小動物、馬に乗ったコサックライダー達がきらびやかな山車と共にアリーナを練り歩き、皆が最終位置のポジションに到着する頃、13頭の象達が13人のダンサーを背中に乗せて、鼻先で前にいる像の尻尾を鼻つなぎしながら入場します。その時点でお客さんは大興奮。そしてドラムロールに合わせて1頭ずつ前にいる象の背中に前足をかけ後ろ足2本で立ちます。この象が整列した状態をサーカス用語では「Long Mount」(長い山)と言います。地上で一番大きい哺乳類動物が目の前で13頭並んで立っている姿はまさに象の山脈のよう、圧巻としか言いようがありません。まさに3リングサーカスいっぱいに素晴らしいキャスト達や動物達が埋め尽くす「地上最大のショー」と言われる理由がわかる気がしました。
後半の象のアクトは、3リングを4頭、5頭、4頭の象達でそれぞれ同時にパフォーマンスをします。象のアクトのメインパフォーマーは、タイガーアクトでお馴染みのダニエル・ラフォー(Daniel Raffo)です。ブルタブ(Bull Tub)という円形のスタンドをクルーが並べ、その上に象が乗ったり、あるいは座ったり、乗りながら他の象に寄りかかったり。4つのブルタブにそれぞれの象が二本足でのり他の像に前足をかけトンネルを作りその間を何頭ものポニー達が1列になってくぐっていったりします。ダニエルは象のアクトをプレゼンテーションしているけれど、ブルタブをセッティングしたり象の糞の後始末をしたりクルーなしではとてもスムーズにショーをしていくことはできません。逆立ちやお座り、二本足で立ったりする象の芸のディスプレイをサーカス用語で「Menage」と言います。意味は「家族」。う〜ん、象さん家族みんなで芸をディスプレイするって言う意味なんでしょうか?
観客のリアクションは大です。ダニエルはリング2でパフォーマンスをしていますが、リング1とリング3はそれぞれのプレゼンターが象と演じています。そのプレゼンターの一人、 サニー・リドリー(Sonny Ridley)は57歳。象のカレンのハンドラーです。口数が少ないがカレンのハンドラーになってすでに30年。リングリングサーカスではサニーとカレンは人間と動物の親密な関係を最も長い間続けていると言われています。彼はいつもカレンと一緒。ある時サニーがサンドイッチをカレンの横に座って食べているところを見ました。カレンは大きな体をゴロンと横になってサンドイッチを食べている隣にいるサニーに向かって長い鼻を伸ばして彼の頭や足を触ろうとしたり、まるで恋人同士のようでした。二人の間にとても密な愛情があるのは言うまでもありません。
いつも真面目そうな表情のサニーから今まで話しかけられたこともなかった私とスティーブが、一度だけ話しかけられたことがありました。私たちの犬、ジャックラッセルテリアのグロックが膝の靭帯を切って手術をするために一夜入院し、私とスティーブはルーシーをショーをする練習をしていました。帰りがけにサニーはスティーブに駆け寄り、「グロックはどうしたの?何かあったのか?」ととても心配そうに聞いてきました。カレンの世話でいっぱいのサニーがまさか私たちのグロックがどうしたのか気になっていたなんて思いもよりませんでした。事情を話すと黙って考えこむようにして、術後の経過とかちゃんと知らせて欲しい、と言われ、彼の動物に対する優しい思いやりを感じました。
サーカスは約300人の人達と関わり毎日仕事をしますが話したことがない人でも遠くからみんな元気でいて欲しいとお互いを思いやる人たちの優しい気持ちに触れることが時々あってジーンとしました。サニーの人柄を表すとても忘れられない思い出です。
続く。。。
書いたのは、
エリザベス
1990年クラウンカレッジジャパン2期卒業生。7年間日本でクラウンとして活躍後、渡米。アメリカとカナダのサーカスで10年間クラウニングを続行。その後10年間マクドナルドのクラウン、ロナルドのアシスタントを務める。現在アメリカのサウスキャロライナ州在住。