クラウン*ベスのアメリカ体験記 vol.35
米国で”地上最大のショウ” リングリングサーカスのブルーユニットに入団したエリザベス! 今回はサーカスを盛り上げるバンドのメンバーについてつづります。
リングリングサーカスはいつでも生演奏
リングリングサーカスを初めてみた時にすごくいいな〜と思ったのは、サーカスバンドのライブ演奏でした。それ以前に私が働いた日本の木下サーカス、アメリカのテントのサーカスなどでは音源はテープやCDなど自分のアクトに編集したものを音響担当に渡してショーで流してもらいます。スリリングなアクトのシンバルやドラムロールなどもシンセサイザーを使ってボタンを押すだけです。そのような録音または人工的な音源でのショーに慣れている私には、楽器から直接出る楽器本来の音を演奏者が実際にその場で演奏している現実的でエキサイティングな雰囲気がとても新鮮でした。
128thエディション「サイドショー」ツアーでのサーカスバンドは9名のミュージシャン達で構成されています。ドラマー1名、トランペット奏者2名、キーボード奏者2名、サックス奏者1名、トロンボーン奏者1名、リードギター奏者1名、ベースギター奏者1名です。
「サイドショー」の音楽の楽器の音はマイクを通してあるしギターやキーボードは電気楽器なので、昔のサーカスのようなマイクなしのアコースティックな演奏の雰囲気とは違います。しかしシンセサイザーのように全ての音楽を電気で作った人工的な楽器の音のみで演奏しているわけではないので、私にとってはまさに生演奏でのライブショーの雰囲気満々です。
私が入団した年は「サイドショー」ツアーは2年目の最後のツアーとなります。同じツアーでも毎年バンドメンバーは何人か去り新しいミュージシャンがその穴埋めに加わります。私とスティーブもクラウンのメンバーとして「サイドショー」の2年目に加わり、クラウンで初めての夫婦のカップルだと言うことで独身クラウンより少し大きい部屋を二人で住むよう割り当てられた部屋は列車の独身バンドメンバーが住んでいる車両の一部屋でした。バンドのメンバーは一人に一部屋割り当てでしたが、その同じ部屋に私達二人のクラウンと犬2匹が住むことになりました。この車両には8部屋あり、入り口に積み重ね式の洗濯機と乾燥機、車両の真ん中にはトイレとシャワーがあり、これらは皆共同で使います。クラウン達が住んでいる車両、通称クラウン・カーは隣の車両でした。(ちなみにクラウン・カーには10名の独身のクラウンが一人一部屋住んでおり、一部屋の大きさはバンド列車の部屋の半分くらいです。)
バンド・カーに住むことになったことでミュージシャン達と知り合うきっかけになりました。
ショーが終わって列車の部屋に帰ってきても部屋から音楽が聞こえてきたり、練習している音が聞こえてきたり賑やかです。私は仕事が終わり列車に戻るとすぐプーさんのパジャマに着替えて過ごしていました。そのパジャマしか着るものがないと言うくらい最後には擦り切れるまで着ていたのを覚えています。バンドメンバー達も列車での私のパジャマ姿を見て話のネタにしていました。
バンド・カーに住んだミュージシャンは、まずリードギターのジミー。一番年上でとても話しやすいリラックスした性格。よくジャズギターを弾いていて物悲しいメロディが部屋から聞こえてきてそれを聴きながら眠りました。トランペット奏者のティムはすでに何年もリングリングサーカスで演奏していて、演奏以外にもパートタイムで列車の食堂で料理を手伝ったりいろんなことをしてきた人。サーカスのことならなんでも聞いてね、とフレンドリーで動物ハンドラーのジェイミーとデート中でした。キーボード奏者のポールはベテランのピアノ奏者。確か片親がアジア系で幼少にピアノを始め厳しい練習を乗り越えてきた真のピアニスト。普段はもの静かでいつも部屋で小型のキーボード弾いていました。部屋が隣で時々スティーブがウクレレの練習をしたりすると、翌日「昨日引いていた曲いいね。」とかいつも声をかけてくれました。私たちの反対側の隣はもう一人のキーボード奏者、ステファニー。彼女はこの年の新メンバーで自分のパートを覚えるのに大変そうでした。いつも笑顔を絶やさず休みの日に街に出て歩くのが好きだったのを覚えています。ドンはトロンボーン奏者。怒ったり不機嫌な顔を見たことがない話しやすい人。夏には元気いっぱいの小学生の娘が来て彼とサーカスで一緒に過ごします。サックス奏者のジョッシュはペンシルベニア州出身でジャズサックスに惚れた人。小柄で思ったことをそのまま口にする素直な性格。スティーブはジャズのサックス奏者が好きでよくジョッシュとマイルズ・デイビス、チャーリー・パーカーなどについて話しました。ドラマーのサムはいつも体のどこかでリズムを刻んでいる人。人と接するのが大好きでダンサーのアネッサと結婚したばかり。映画「ロッキー」の大ファンで毎週列車の移動日には既に何度も見たVHSビデオの「ロッキー」を見ながら「ロッキー、負けるな!頑張れ!」とまるで初めて「ロッキー」の映画を見た人かのように大声で応援していたような面白い人でした。ベースギターのイタリア系のスティーブは新しく入ったメンバー。自分のバイクを持参してどこへ行くにもオートバイ。よく休みの日にイタリアのデザート、カンノーリをたくさん買ってきて、「味見してみない?」とみんなにお裾分けしてくれました。ところで、バンドの指揮者兼トランペット奏者のデイヴィッド・キリンジャーは結婚していて指揮者だったこともあり他の車両の大きな部屋に住んでいました。同じショーで約2年間パフォーマンスをしたにも関わらず一度も言葉を交わしたことがありませんでした。大柄でどちらかと言えば可愛らしい感じのベビーフェイスでしたが、バンマスの風格で貫禄がありました。彼はもの静かで小柄な奥さんとよく一緒に歩いていました。彼とは同じ列車に住まなかったこともあり個人的な思い出がなく少し残念です。
続く。。。
書いたのは、
エリザベス
1990年クラウンカレッジジャパン2期卒業生。7年間日本でクラウンとして活躍後、渡米。アメリカとカナダのサーカスで10年間クラウニングを続行。その後10年間マクドナルドのクラウン、ロナルドのアシスタントを務める。現在アメリカのサウスキャロライナ州在住。