自己紹介/20歳で社長③(最終回) 変化編
「自己紹介/20歳で社長」の3回目、最終回です。
1回目は、私が福祉職に就いたころは「先生」と呼ばれることが一般的で、私がそれを拒んだら「社長」と呼ばれるようになってしまったということを書きました。
2回目は、事業所で「社長」と呼ばれるようになって、いい気になっていたら、町中では恥ずかしいことがいろいろあったということを書きました。
私が「社長」と呼ばれるようになって30年以上が経ちました。いまでも細々と「社長」と呼ばれています。極数名の利用者が継承してくれています。3回目は、その継承について書きます。
利用者からご家族へ
社会福祉法人クローバーの事業所を利用してくださっている人たちは、言葉を文字で覚えるより、耳で聞いた言葉をそのまま覚える方が得意です。
「社長」の始まりは「先生」に変わる呼び名でした。利用者は、学校で「先生!」と呼ぶように、私のことを「社長!」と呼んでくれていました。しかし、そのころのご家族の多くは、まだ私のことを「先生」と呼んでいました。
やがて、新しい利用者さんが増えて来ると、そのご家族は、利用者同士が私のことを「社長」と呼んでいるのを見聞きして、私のことを「社長」と呼ぶようになりました。きっとその発端を知ることなく、ここでは「社長」と呼ぶことが当たり前だと思ったのかもしれません。また、中には、わざわざ「さん」をつけて、「社長さん」と呼んでくれるご家族もいました。
「社長」がより現実的に
ご家族から電話がかかって来たとき、私に用事があると「社長さんいらっしゃいますか?」と言います。すると、その電話を受けた同僚は、あたりまえに「社長」を「高橋」に変換することなく私を呼びます。
「社長ーお電話です」。
こうして「社長」という肩書だけがより現実的になり、まったく実態が伴わない社長が出来上がっていきました。
聞こえ方はさまざま
意味を持たない「社長」はどんどん広まっていきました。しかし、聞いただけの言葉は、伝言ゲームと同じで、変化をしていきます。
ある年に利用を始めた人には、「しゃちょう」が「ちゃちょー」に聞こえたようです。ただしそのご家族には「社長」と聞こえていました。さらにご家族は、ていねいに私のことを「社長さん」と呼んでくれました。そのためそれを聞いた利用者も、ていねいに「さん」をつけて私のことを呼びました。私は、「ちゃちょーさん」になりました。
接待を受けているような毎日に
やがて、異国の人が接待で呼ぶときのように「チャッチョさん」になりました。どうもその発音が楽しいのか、そう呼ばれたときの私の反応が楽しかったのか、一瞬にして「チャッチョさん」が広まってしまいました。
ご家族からは「社長さん」と呼ばれ、利用者からは「チャッチョさん」と呼ばれていました。私は、何だか、ゴマをすられているような気分でした。
朝、活動前のひととき、利用者が自分でコーヒーを入れたり、お茶を入れたりしているときのことです。ひとりの利用者さんが私に声かけてくれました。「チャッチョさんもお茶飲みます?」
30年以上経った今でも…
今でも、数人の利用者が私のことを「社長」と呼んでくれます。中には、30年、20年、私のことを「社長」と呼んでくれる利用者がいます。その利用者のご家族もご健在で、久しぶりに顔を合わせると「社長!」と呼んでくれます。
それが何よりうれしいです。そんな皆さんに支えれて30年以上が経ちました。
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