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2022.8.17/19 劇団チョコレートケーキ 『帰還不能点』/芸劇シアターイースト

2022.8.17~9.4の19日間、《生き残った子孫たちへ 戦争六篇》と銘打ち、東京芸術劇場・シアターイーストとシアターウエストの両劇場を使って公演をする劇団チョコレートケーキ。
最初この企画を知った時は色々な意味で「なんて無茶な!」と驚いたと同時に、スケールにワクワクしたので、ほんと無事に開幕してよかったです。
その開幕作となった『帰還不能点』を17日の初日と、急遽アフターアクトが追加された19日夜回を観劇してきました。

初演は劇場で2回、配信でも何度か観ているのに、今回もまた発見がある。
脚本、演出、照明、音楽、衣装、そして役者。すべてに演劇でしか成しえないアプローチが詰まっていて、観劇の醍醐味を味わえる。

もう、ほんとこの作品大好きー!
(声を大に)

基本的に演劇は生なので「同じものはない」というけれど、この作品ほど日時となにより座席位置によって顕著に見どころが変わるストプレの作品は珍しいのでは?と思います。(ミュージカルはガヤの部分で遊んでるアンサンブルさんがいたりするので、そこも見どころの一つになってますが)
前方席だとガヤ時の会話を拾えたり、サイド前方だと劇中劇に参加している役者さん以外の表情を垣間見ることができたり、中間より後方席だと照明の効果を十分に楽しめる。どこで観ても楽しいし、むしろ色々なとこで見たくなる中毒性がある作品です。
そんな『帰還不能点』は去年の2月の初演時、その年の読売演劇大賞の優秀作品賞と優秀演出家賞を受賞しています。
(初演時の感想とアフターアクトの感想はこちら↓)

演劇に造詣が深い方でしたらもっとアカデミックな解析と分析でこの作品の魅力を文章化できるのでしょうが、自分は残念ながらそうではないので
「『帰還不能点』のここが好きだ」
と心の赴くまま感想をnoteに久々にぶつけてみます(笑)。

【戯曲について】
劇団チョコレートケーキといえば「歴史上の事実を参考にしたフィクション」でおなじみの劇団(パンフレットにあるおなじみの古川さん挨拶より)。
『帰還不能点』も実在した総力戦研究所に近衛文麿・松岡洋左・東條英機など実在する人物や出来事がバンバンでてくるけれど、この作品がいつもの作品と違うのはそれらの史実が劇中劇で進む事。
しかもそれが、酒席中の戯れという斬新な設定!(驚)
一つの事件や出来事に対してガッツリと掘り下げるのとはまた違ったアプローチで戦争を紐解き、
複合的な要素が絡まって戦争に突き進み“ポイントオブノーリターン”な地点を軽く超えてしまったのだ
という歴史の事実をダイジェストで流れで見せてからの、
「私たちはどうすべきだったのか?」
そして
「(もし今後同じような出来事が起こったとき)私たちはどうすべきなのか?」
という観客への問い。
劇のラストの彼らの姿は希望と願いが込められていて、胸が締め付けられます。
余談ですが
岡田の「久米首相!」に続いたのが、戦後官職を辞した城・市川・吉良(彼らは戦後の生活でエリート以外の人々と接しているので色々あったのかと考えたり)なのもグッときますが、その次に劇中最もエリートな外務省の千田が加わるのが個人的胸熱シーンです。同じエリート街道にいる大蔵省の泉野が、逡巡しつつも最後に参加する対比も面白い。あそこの泉野の心の内がとても知りたいです。

【演出・照明・音楽・衣装について】
『悲劇喜劇2021.5月号』に戯曲が掲載されているので初演を観劇後に読んでますが、やはり演劇になると何倍も膨らむなぁと。
昭和16年の総力戦研究所の教室が、舞台の照明の色が変わり、カウンターの照明が灯り、道子さんが縄のれんをハラリと解いた瞬間、戦後の居酒屋に早変わりする。
たったあれだけなのに、でまるでセットチェンジしたかのような空間の変わりっぷりに毎度脱帽します。
劇中劇も、酒席の戯れでわちゃわちゃしてる場面あり、片方は酒席中の遊びでも片方は回想シーンだったり、全員が回想シーンだったりとバリエーション豊か。その変化をつけているのは役者さんはもちろんだけれど、照明の効果を改めて実感しました。
(これまで観劇中に照明が綺麗とは思っていても効果まで意識が回ってなかったのですが、今年の4月に劇チョコさんが参加したJDC-Jのワークショップで目から鱗がおちたのですw)
音楽も良いのですよね。
ラストで流れると、希望と願いを感じさせつつも過去は変られない苦い切なさ、そして良い作品を観たという感嘆が合わさって、深く息を吐いてしまいます。
で、次観たときは最初でウルっときてしまうという。

良いと言えば、衣装のアイディアも素晴らしい。
居酒屋に集まったメンバーが着ていたマフラーやジャケットやコート、これがまさか劇中劇の登場人物のトレードマークになるとは。
久米の赤いマフラーを斜めにたすき掛けし近衛文麿のサッシュに、吉良のジャケットの襟を立て東條英機の詰襟に見立てたのを初見で観たとき「天才か!!!!!」となりました。

【役者さんについて】
みなさん手練れの役者さんばかりなのですべての場面が見どころすぎて……。なので、個人的に印象が強かったところなどを。

・岡本篤さん(岡田役)
和やかに宴席に参加しつつ、一歩引いたところでは「あいつが悪い」「これがダメだった」と人ごとのように興じている仲間を冷めた目で見つめているあの姿が見るたび印象に強く残ります。目で語るとはあのことかと。
そしてアフターアクト。こういう酔っ払いいるいる」と笑いで観客をひきつけてからのあの展開。吉良役の照井さんがご自身のTwitterのスペースで「完全に劇場の空気を操っている」と評されましたがまさにその通りでした😊

・今里真さん(久米役)
赤マフラーをサッシュにした芝居がかった近衛と中盤の第二次近衛内閣時の劇中劇の近衛の演じ方の違いがとても好き。
あと、ずっと穏やかだった久米さんが「久米首相と呼ぶな!」と激高する場面が感慨深いです。あの一言で久米の内面の葛藤を感じられました👏

・東谷英人さん(千田役)
台詞を発しているときはもちろん、ガヤ時の立ち姿だけでとてもクレバーな人物だという事が伝わってくる佇まいが素敵です😊 脚本のところでも書いてますが、ラストの場面で千田が参加するところ、特撮系作品で今まで敵味方どちらの立ち位置か不明だった追加戦士がヒーロー側に加わった時のような胸熱さがあります。(オタク的感想w)

・粟野史浩さん(城役)
ある意味空気クラッシャーで宴席を和ませる、こういう体育会系で声がデカいオジサン、昔の会社によくいたよなぁ……とシミジミしてしまいました。(自分、粟野さんと年齢は殆ど変わらないのですが💦)
でも劇中劇で東條や近衛を演じているときはその印象をガラリと変えてきて。その変化の差に惚れ惚れです😊

・青木柳葉魚さん(市川役)
青木柳葉魚さんが劇チョコメンバーと一緒に舞台上にいらっしゃると何か落ち着くというか、シックリくるのは私だけではないはず(笑)。あまりハッチャけた役を演じられているイメージがなかったので、あの近衛のデフォルメはとても新鮮でした。
演じていて楽しそうだし、観ていて楽しいです😊

・西尾友樹さん(泉野役)
東條役時で近衛に詰め寄るの際の体の斜めっぷりが毎回角度を増してるのが気になっております。(痛風の足、大丈夫かな?とも😅)
余談はさておき、今回の再演で一番印象が変わったのが泉野でした。前回は気の弱さと優柔不断さを全面に感じましたが、もっと複雑さを増したというか……。
(ご自身も照井さんのスペースでおっしゃってましたが、初演時に書いたアフターアクトは再演の泉野像とちょっとズレた感は確かにあったかなと。それでもやっぱり“山崎=パン”と“おにぎり=久しい米の集合体=久米”はつい笑ってしまいますw ただ隣に座っていた方にはウケなかったようで温度差を感じました😢)
「ここが!」とはっきりとは言えない自分の感性の鈍さが辛い💦
ちなみにですが、岡田が一旦劇を止めてのちの再開の場面。音楽が鳴りスポットが当たった一瞬で泉野から東條へと表情が変わるのがとてもとても格好良くて素敵なのです。あそこの場面、TikTokで保存したい(笑)。

・照井健仁さん(吉良役)
初演時には劇団員の浅井さんが演じていて、今回の再演で唯一違うキャストのこの役。年齢がお若いので見た目が浮くかな?と思っていたのですが、「ごめんなさい」と全力で土下座させてください🙏 更に、稽古が2週間と聞いて驚愕です。浅井さんの吉良を踏まえながら、また違う人生を感じさせる照井さんの吉良。
同じ役を違う役者で見るのも楽しいです😊

・緒方晋さん(庄子役)
劇中でも言われてますが、関西弁といい佇まいといい、まさに「長老」然とした緒方さん。そのどこか飄々とした存在と喋りになんだか和み、西尾さんの泉野との平沼首相・板垣陸軍大臣漫才で更に和んでからの、東條。いきなりの豹変は、切れ味の鋭い刃を向けられたようでゾクッと。あの場面、何度観ても鳥肌立ちます。

・村上真基さん(木藤役)
村上さん演じる木藤は、ガヤの場面で一番見ていて面白い役だと私は思っていて、つい注目してしまうのです。総力戦研究所時代からの性格の変化、旧友との現在の関係性(特に同じ外務省の千田との距離感)、シニカルさと劣等感が入り混じった内面は、もし外部アフターアクトがあったら見てみたいキャラクター個人的ナンバー1だったりします。

・黒沢あすかさん(山崎道子役)
道子さんも初演時と比べて印象が変わったと感じました。初演ではごっこ遊びに興じている男たちをにニコニコとしながら見ている姿に、どこかモヤモヤしたところがあったのですが、今回は劇中劇中に不快感らしき表情をハッキリわかるように出してる箇所が何か所もあり、「ああ、道子さんは聖人じゃなかった」と。
私がもし道子さんの立場に置かれていたら、戦争の責任について他人事のように笑いながら話す彼らを叩き出して、開始20分で劇が終わるわ(笑)
そして、後半の松岡夫人と近衛夫人、道子さんの過去のやさぐれ感の変化。素敵です✨


最後になりますが

泉野「戦争はこりごりだよ。今は国民全体がこれを共通の認識として持っている。これがある限り、問題はない」
庄子「そこに関しては日本人を信じたいねぇ」
城 「自分自身の失敗をよそに転嫁する限り、真の反省にはつながらんと思うけどな」

悲劇喜劇2021.5月号掲載『帰還不能点』古川健

という箇所が、世界情勢や日本の内政のグダグダさをリアルタイムで経験している今、初演時以上に深く刺さりました……。


毎度毎度のこととはいえ、思いつくまま書き出していたらエライ長文に。
ほどんど自分のために書いた感想ですが、もし読んでくださった方がいらっしゃったらありがとうございます。

そして万が一、未見だけど観てみたくなった方がいらっしゃいましたら、明日21日の千秋楽の当日券があるっぽいのでお勧めいたします。
(私は明日『アリラン』を狙っていたけれど難しそうなので、結局『帰還』を追加してしまったw 『アリラン』は来週行きます)
あと、9月17日から映像配信もありますので、ぜひ。
■映像配信日程
2022年9月17日(土)10:00~10月16日(日)22:00


#観劇 #観劇記録 #観劇感想


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