2022.8.26 劇団チョコレートケーキ“ろ組”・短篇二編/シアターイースト
夏の劇団チョコレートケーキ祭。『帰還不能点』『無畏』に続き、短篇二編『○六○○猶二人生存ス』『その頬、熱線に焼かれ』を観てきました。
こちらは劇団員による公演ではなく、劇チョコさんの18-25歳限定長期ワークショップに参加したメンバーによる公演。後で知った(照井健仁さんのスペース)ことですが、照明デザインも今回他の劇団員公演の作品を手掛けていらっしゃる松本大介さんのお弟子さんである長谷川楓さんがデザインされたそう。
会場内に足を踏み入れてステージを見ると、中央に漂流物のようにポツンと置かれた木材だけというシンプルな舞台。
それを出てきた人物が移動し、スノコ状のものを背景にセットし、ステージ上に海が生まれ、『○六○○猶二人生存ス』が始まりました。
『○六○○―』は人間魚雷・回天の訓練中に亡くなった二人の最後を描いた物語。
(回天はかなり以前に靖国神社の遊就館で実物を見ましたが、想像していた以上に小さく、それゆえにこれに乗ってガムシャラに死へと向かった若者の胸の内を思うと恐ろしくて悲しくて、黒光りする艦体を前に立ちすくんでしまったのを思い出しました)
登場人物は回天を発案した黒木大尉と樋口大尉、そして整備員・後藤というシンプルな会話劇です。
なのですが、この戯曲に唸るところは亡くなった二人のやりとりを悲劇としてないところ。回天の実現を熱願しながらも事故で亡くなった若者とその同乗者の極限の最後の時間、となるといくらでもドラマ的な盛り上がりで書けそうなものなのに、あくまでも淡々としていて。
後藤も、特攻作品で多い「生き残ってしまった」ではなく、「生き残らせることができなかった」後悔を二人に語りかける……。
2年前のYouTube配信で観た作品ですが、劇場で観るとよりズシンとくる作品でした。
また、黒木役の今井公平さんの22歳の青年でありながら、有無を言わせぬ圧のある声が良くて。己に酔う狂気感ではなく、静かに狂ってる様がとても素晴らしかったです。
樋口役の宮崎柊太さんもまたいい。黒木のような狂信とはまた違う、同性同士の社会的なつながり(ホモソーシャル)と同調圧力で己の気持ちを自縛して「生きたい」と言えなかった当時の大多数の青年たちの代表のように感じました。
整備員・後藤役の谷口継夏さん。まだ少年のようにも聞こえる声で語られる言葉が胸を打ちます。
カテコで3人が登場して彼らの顔が照らされたとき、思った以上に若くてあどけなく見え(そりゃ息子みたいな年齢ですもの/笑)、なんだかより胸が詰まりました。
余談ですが、最近『ベルサイユのばら』と『傾国の仕立て屋ローズ・ベルタン』という漫画を読んでいてルイ15世の公妾デュ・バリー夫人が気になって色々検索したのですが、デュ・バリー夫人もフランス革命時ギロチンで処刑されていたそうです。
でも、今まで他の貴族たちが毅然とした態度でギロチンの露と消えていったのに、デュ・バリー夫人だけは処刑台に立っても泣き叫び命乞いをしたそうで(もともと庶民の出ですし)、「処刑された人々の全員が、彼女のように命乞いをしていれば、あの恐怖政治はもっと早くに終わっていただろう」と評されておりました。
『○六○○―』を観て、ふとその事を思い浮かべました。もし発案者の黒木があんな遺書ではなく、「回天は構造的に無茶な兵器だった」や「死にたくない」と残していたら……。
そして10分間の休憩後、『その頬、熱線に焼かれ』に。
先ほどまで海だったスノコ状のものが組み換えられ、原爆雲と雨のように。
限られた予算で最大の効果、素晴らしいです。
『その頬―』は日本では原爆乙女、アメリカではヒロシマガールズとよばれる原爆でおったケロイドの治療を受けることになり渡米した25人の乙女の中の6人と亡くなった1人の会話劇。
不条理に受けた顔や身体の傷から、そして日本にいた時に理不尽に向けられた好奇で心にも傷を負った彼女たちの、「同じだけど違う思い」の吐露が切ないとともに彼女たちの希望に勇気をもらえる作品です。
こちらは以前On7のお芝居で拝見していたのですが、今回短篇のために半分ほどの長さになっていました。
前回拝見したときは、個人的に「すごく良い戯曲だし、感動もしたのだけれど、登場人物が昔の朝ドラの主人公みたい」と感じていたのですが、短くなったことによりその点が薄れていました。
でも、薄れたのは短くなったからだけではなく今回演じられたワークショップの若い力によるのも大きかったと感じます。
私が拝見した“ろ組”回に出演されている7人は椎木美月さん・蓑輪みきさん・本宮真緒さん・谷川清夏さん・中野亜美さん・中神真智子さん・柳原実和さん。
劇中の会話なので、戦後すぐの昭和の広島弁だったりするのですが、会話している様が等身大の乙女たちの空気があって、なんとも瑞々しいのです。良い意味でこなれ感のなさが、とてもいいなぁと思いました。
「舞台上では何歳にでも、どんな性別にも生き物にも、なんなら無機物にもなれる」
のが演劇の魅力の一つですが、同世代が同世代を演じるという等身大の感性から溢れる魅力もあると、この二篇を拝見して感じました。
この戦争六篇という企画ではなく、ワークショップメンバー公演単独だったら、半休して時間をつくって(どうしてもこの日しか空いていなかった)まで観に行こうとは思わなかったかも。
なので、本当にこの企画に感謝します。