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#創作大賞2024 #漫画原作部門 仇討ちのその後 第1話

※創作大賞2024 漫画原作部門 に応募いたしました。第1話:約2700字、第2話:約3000字、第3話:約2300字の合計7000字です。お時間のある時にお読みいただけると幸いです。では、以下あらすじと本編です。どうぞよろしくお願いいたします!


あらすじ
 家族のかたきを討って空っぽになった「私」と、刺客に狙われ続ける男。2人が見出す「生きる意味」とは。



 

 ドサリ、と男は倒れると、もう二度と動くことはなかった。私が放った一撃は正確に、確実に男を死に至らしめた。

 (ついに、家族のかたきを討った……!)

 血が湧きたつような高揚感が体を駆け巡り、私は言いようのない喜びをかみしめた。

 その男を殺すことだけを日々考え、毎日鍛錬を欠かさず、男の情報を得るために奔走した。長く苦しい道のりだった。お金がなくてひもじいのは日常茶飯事で、日々をくいつなぐためにどんな汚れ仕事だって行った。

 ついにその苦労が実った。これでやっと家族に顔向けができる。その晩は嬉しさでいっぱいになりながら眠りについた。


 翌朝。ふと我にかえった。


 ……これから、私は何を目的に生きていけばいいんだろう。



  かたきを討つ、という目的がなくなった瞬間、まるで泡がはじけたようにこの世界は空虚なものに感じられた。もう、この世に身寄りはいない。

 (……私もみんなのところへいこうか)

 そんな思いが自然と足を崖に向かわせた。険しい山道を超え、高くそびえる崖までやってきた。

 岩でできた崖は絶壁になっていて、下に荒れ狂う川がごうごうと流れている。一歩前へ進むと、岩が一つ崩れて落ちていった。もう一歩踏み出すと、岩がもっと崩れ、音を立てて落ちていく。構わず足を踏み出す。もう一歩。あの岩と同じように、私も……

 「おい!」

 突然肩をグッとつかまれて後ろに引かれ、一気に現実に引き戻された。驚いてその力強い手の持ち主を見上げると、がっしりした体格の、3, 40代くらいの男が目に入った。

「何してるんだよ、にいちゃん。死ぬつもりか?」

「そうだ」

 回答が端的すぎたからだろうか、男は面食らったようだった。そしてなぜか興味深そうに私をまじまじと見つめると、陽気に言った。

「それならさ、おれの用心棒になってよ。どうせ死ぬんなら、その命、おれのために使ってくれないかな」

 断る理由は特になかった。「わかった」とだけ答えると、男は面白そうに私を見た。そうしてその男と一緒に旅をすることになった。

 
 男は国々を旅していた。そして、ありとあらゆるところで刺客に命を狙われた。刺客も強かったが、男はそれ以上に強かった。たいてい、私が気づく前に刺客に気づき、うまくまいた。仮に刺客と対峙することになっても、私には下がるように命じ、一撃で相手を倒した。

 私の出番などないのではないか、と男に聞いたが、男は静かに微笑んで「いずれおまえが必要な時がやってくる」としか言わなかった。刺客に狙われている理由を聞いても、「いずれ話す」としか言ってくれなかった。それと、男は刺客に致命傷を負わせることはあっても、決してとどめを刺すことはしなかった。

 男は稽古という名のもとに、毎朝私と対戦したがった。武術は好きだったから私もそれほど嫌ではなかった。最初の数か月は男に1回も勝てなかったが、次第にコツがわかってきた。半年後、初めて私が隙をついて勝った時、男は嬉しそうな顔をした。徐々に私が勝つことも多くなり、1年たつと5回に1回は勝てるようになった。

 それでも、男は私を刺客と戦わせることはなかった。刺客が5人同時にやってきたときも、「俺が危なくなったときに援護してくれよ」と笑いながら私の肩に手を置くと、次の瞬間には剣をひらめかせてあっけなく全員を倒した。私は不服に思いながらも、少しは男が認めてくれたことに嬉しくなった。


 旅を初めてから2年ほどたったある夜のこと。男は珍しく「酒を飲みに行こう」といった。酒場に行くと、男は1口だけ酒をうまそうに味わい、そのジョッキを私に差し出して「ほら、飲め」と笑顔で言った。

 私はそれを黙って一口飲んだ。初めて飲む酒だった。

 酒は思ったよりもおいしくなくて、思わず顔をしかめた。みながあれほどおいしそうに飲んでいるのはなぜなのだろう。酒場では、多くの者が酒をあおり、酔っぱらって賭博に興じていた。私はそれをぼんやりと眺めた。

 男はそんな私の様子に気づいたのか「おまえ、あいつらをどう思う?」と聞いてきた。

「……みんな、楽しそうだ」

男は「そのまんまの感想だな」と笑ったあと、静かに言った。

「みんな、何かに酔わないと生きていけないのかもな。俺も同じだ」

 どういう意味か分からず、思わず男を見ると、ハッとするほど寂しい横顔があった。私は何かを言わないといけない気がした。

「でも、あんたはみんなと違って、酒を一口しか飲んでないじゃないか」

 男はそれを聞くと、微笑んで私の頭に手を置いた。

「ありがとよ」

 それ以上詳しく聞くことはできなかった。

 ふと視線を感じて振り向くと、若い女の子たちが私を見て何やらひそひそと話していた。声を潜めているつもりだろうが、会話はぜんぶこちらに筒抜けだ。

「あの若い男の人、初めて見るわね」

「噂ではここらのゴロツキを全員倒したみたいよ。お父さんと二人で組合の用心棒をやってるんですって」

「まぁ! かっこいいわね」

 聞こえないふりを装っていたが、内心悪い気持ちはしなかった。最近は、刺客の気配がなさそうな場所では、小遣い稼ぎに私も用心棒として日雇いで雇ってもらったりしていた。このころには、稽古で男とほぼ互角に戦えるまでになっていたが、相変わらず刺客はすべて男が倒していた。

 あと、なぜか男が僕の父ということになっているが、放っておこう。

「でも私は隣のお父さんの方が男前で好きだわ」

「え、だいぶ年上よ? まあ、確かに魅力的なのは否定しないけど」

 私はがっくりした。確かに、男はよく女性に声をかけられることが多かった。あまり女性に興味がないらしく、のらりくらりとかわしていたが。内心羨ましく思いながら隣の男を盗み見る。たしかに、庶民には珍しく体格もよいし、目鼻立ちがすっきりしているから、女性の目には魅力的に映るんだろう。

 そんなことを考えていると、湯気を立てて熱々の料理がやってきた。私が酒を脇においやり、目を輝かせてがっつくのを見ると、男は苦笑した。そして、少しだけ真面目な顔になって言った。

「お前、もう死のうなんて思わなくなったよな?」

私は深く考えずにスープをかきこみながら言った。
「そうだね。今の暮らしに満足しているよ」

 男は満足そうに微笑むと、いつもの陽気な口調で「そいつはよかった」と言った。




 第1話、ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました。いつもスキやコメント本当にありがとうございます。

 次回、男の正体が判明します……

 以下、2話目と3話目のURLです。
 2話目…

 3話目(最終話)


 

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