
【短編小説】支柱 (742字)
俺はとなりにいるあさがおを横目で見て舌打ちをする。
今日もきれいに咲いていやがって。一体誰のおかげでここまでこれたと思っているんだ。
いつも注目の的は、あさがおだ。
支柱である俺にはだれも見向きもしない。
この前、子どもが熱心に書いてた絵日記には、やっぱりお前しか描かれてなかった。
きっと、俺はこのまま誰の記憶にも残らず一生をおえるんだろう。
ある日、あさがおに異変が起きた。
鮮やかな色は褪せ、しなしなっとして元気がなくなってきている。
なんだなんだ、調子が狂うな。
3日後。
あさがおは自分で立っていられなくなるほど弱ってきた。
俺に力なくもたれかかってくる。
「おい、元気だせよ」
初めて声をかけた。
朝顔は俺をまぶしそうに見た。
「……ありがとう。僕はもう長くはない。……僕も君みたいに一人で堂々と立ちたかった。正直、君と自分を比べて優越感に浸ることがなかったといえば嘘になる。でも、今は君がうらやましい」
……言葉を探した。でも、出てきたのはいつもの俺だった。
「チッ。しんきくさいんだよ。そんな目でみんなよ」
あさがおはなぜか笑顔になった。
そのまた3日後。
あさがおは弱々しい声で言った。死期が目前だと分かった。
「……頼む。虫のいい願いだと思うんだけど、僕の種が芽を出したらまた支えてやってくれないか。きっとまた病弱だと思うんだ」
本当に虫のいい願いをしやがる。
「……仕方ないな」
それを聞くと、あさがおは嬉しそうに微笑んで俺を見た。
「……その顔、やめてくれないかな。あと、俺からしたらお前の生き方もそう悪くないと思うぜ」
あさがおは笑って、その生を全うした。
それから俺はただ、ぼーっとして無為に日々を過ごした。
ある日。
芽が、出た。
弱々しい、今にも死にそうな芽だ。
ふん、上等じゃないか。支柱として生き抜いてやるぜ。
(終わり)
……目立たないモノ達も自分らしくこの世界を生きれますように。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
いつもスキやコメントをいただき、本当に感謝いたします。今日がみなさまにとってよい一日となりますように!