2.豊作貧乏と学割
豊作貧乏
作り過ぎた野菜は潰すのが最善?
教科書やニュースで、折角育てたキャベツやレタスをトラクターで潰してしまうシーンを見たことがあるだろうか。恐らく毎年結構な量の野菜が、そんな感じで誰に食べられるでもなく処分されている。
実際、Googleで「トラクター キャベツ 潰す」で検索すると、動画や写真が結構でてくる。聞いたことないという人は是非検索してみてください。
さて、このような行為を聞けば、「捨てるくらいなら自分にくれ!」とか「食事に困っている人もいるんだから、そういう人たちに配るとか動物の餌にするとかしろ!」という意見は当然でてきます。
このような意見は非常にもっともだと思えますが、実際には現状のシステムでは、「出荷も配布もせずに、廃棄するのが最善」である場面が多くあります。なぜそんなことが正当化されるのか、その理由のひとつを説明していきます。
豊作貧乏について
農家の立場で考えると、豊作であれば収入が増えるように思えます。しかし実際には豊作によって収入が減る場合があります。それを豊作貧乏といいます。
とある農作物を考えます。
例年の収穫量をQ、
今年の収穫量をQ’
とする。
すると、例年の収入は価格$${\times}$$需要量なのでPQ、つまり赤い四角の面積になります。
一方で、今年できた量を全て出荷したとすると、供給量が増えたため価格がPからP’に減ります。
よって価格$${\times}$$需要量なのでP’Q’、つまり青い四角の面積になります。
例年の収入:PQ(赤い四角の面積)
今年の収入:P’Q’(青いい四角の面積)
これらの大小関係を調べれば、どちらの収入が大きくなるかが分かります。グラフを見れば、明らかに赤い四角の面積の方が大きいため、今年のできた量を全て出荷してしまうと、なんと損をするということになります。
損をしないためには、どうすればよいか。それはでき過ぎた分であるQ'-Q分の作物を出荷せずに処分すればよいのです。
そうすれば多少肥料の代わりになって役に立ちます。ここで、冒頭の意見について答えていきます。
・「捨てるくらいなら自分にくれ!」
⇒あげると受け取った人はその分買わなくなる、つまり需要量が減少し、結局価格が下がるため論外
市場影響する類の行動はこれに限らずほとんど同じ理由から除外されます。
では、市場に影響しない(受け取らなくとも買わない)場合である次の意見はどうでしょう。
・「食事に困っている人もいるんだから、そういう人たちに配るとか動物の餌にするとかしろ!」
⇒運搬や収穫にお金がかかる。そもそも収益性が無いため革新的なマネタイズシステムがないと結局経済的に損になる。
以上のような理由から、時としてキャベツは、誰の手にも渡ることなくトラクターに潰されるのです。
学割
安くすることで逆に収入が増える
次に紹介するのは、「安くすることで逆に収入が増える」ケースです。
この代表的な例は学割というシステムです。
学割と聞くと、学生限定の割引が適用されるだけなので、企業側の優しさ的なものにも思えます。ただほとんどの場合、実施する企業側にもメリットがあるんです。
左のグラフはとある財に関する社会人の需要曲線です。需要量が価格の上下の影響をあまり受けないことから必需品や通信費などでしょうか。
一方で、右は同じ財の学生の需要曲線です。ここでP''は、学割適用後の価格で、Q’’はそのときの需要量です。そもそも、社会人のものとは需要曲線の傾きが大きく異なることが分かる事でしょう。これは、学生の資本力の無さに由来します。
要は、本当は価格が上がっても買いたいけどそもそもお金がないということです。一般的に社会人よりも学生は働いていない分お金がない傾向にあるのでこのような需要曲線になりがちです。
社会人と学生が同じ価格の場合
企業の収入・・・赤の①+②の四角の面積の合計
学生が社会人よりも安い価格の場合
企業の収入・・・青の①+②(もしくは赤の①+青の②)の四角の面積の合計
今回の場合
赤の①+②の四角の面積の合計<青の①+②(もしくは赤の①+青の②)の四角の面積の合計
になるので、学割を適用したほうが企業の収入が大きくなります。つまり、学割で学生に優しくした方がお得ということです。win-winだー。
まとめ
・農作物を流通させずに、処分してしまう方がお得なことがある→豊作貧乏
・学割は企業にとっても学生にとってもおいしい