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「名探偵を夢見て」第14話

「色々と教えてくれて、ありがとう。あなたには感謝してもしきれない」
 そう言って、深山は佐藤さんの手を握った。俺はさすがにそこまではしないが、自分にしては珍しく、頭を下げて謝意を伝えた。

「北川先輩のことは、叶課長や岩井さんたちに聞いてみるとしよう」
「あ……それはやめた方がいいかもしれません」
「ん? なぜだ?」
「多分みんなは……南さんのことで協力的にはなってくれないと思うんです」

 深山は「ふむ」と頷き、すっかり納得した様子を見せた。気に食わねえ。俺の姉貴はそこまで嫌われる人間じゃねえよ。なんか腹立つぜ。

「海斗。君の気持ちは察するが、とりあえず落ち着け」
「勝手に察するなよ。ってか、俺は落ち着いてる。大丈夫だ。そんで、どうする?」
「彼女たちから情報を得られない以上、我々は直接北川先輩を探し出して事情を確かめるしかない。そうだろう?」
「まあ、そうなるよな。佐藤さんは北川先輩の家とか転職先とか知ってんのか?」

「残念ながら……」
「まあ、そうだよな」
 知ってりゃもう教えてくれてるはずだ。こっからは自力で探ってくしかねえ。

「心配するな、海斗。人探しは探偵の十八番だ」
「……頼りにしてるぜ」
 頼りにするしかねえ。この状況じゃ、俺は深山に任せる以外に術がねえ。だが、それだけじゃなくて、なんかこいつは頼れるやつだって思えてきた。

 こうして、俺たちは解散した。

・・・

 辺りはすっかり真っ暗だった。深山は今夜も翔太から喧嘩レクチャーを受けると言って、俺たちとは別方向に去って行った。翔太のやつはまだバテてるみてえだが、深山に喧嘩テクを教えるっていう約束は律儀に守ってるらしい。

 俺と佐藤さんは同じ駅まで一緒に歩いた。

「深山さんって変わった子だね」
「ああ、俺もそう思う」

 うん。あいつは変なやつだ。それは間違いねえ。

「でも、すごく良い子だよね」
「………俺もそう思う」

 そうだな。それもまた確かなことだ。

「最初、いきなり声をかけられたときはびっくりしたけど、彼女の声や表情から、まっすぐな思いみたいなものが伝わってきたんです」

 あー、わかるかも。数日前にあいつが俺に喧嘩を教えてくれって言ってきたときも、なんか妙な真剣さがあった。あいつはいつも本気なんだ。

「なんっつーか、姉貴のこととか会社のこととか、色々教えてくれて、協力してくれて、ありがとうございます」

 佐藤さんは微笑みながら、「いいんだよ」と言って、俺から目を逸らせた。

「南さんのためというのももちろんあるんだけど……本当は自分のためなんです。自分のために、あなたたちに協力しようと思ったんです」

 ん? どういうことだ?

「今の状態だと雰囲気悪すぎて、私も仕事しづらいというか、息苦しいんです。何かのきっかけで、みんなが打ち解け合えればいいのにって思うんだけど、自分では何もできなくて」

 だから、あなたたちが現れてくれて感謝してるんだよと、佐藤さんは言ってくれた。

 駅に着いて、俺たちは階段を降りた。ホームは同じだったが、俺は急行、佐藤さんは各駅停車に乗る。

 ホームに着くと、ちょうど急行が来たところだった。

 車両に乗り込むと、私も頑張るからねと言いながら、佐藤さんが手を振ってくれた。俺はそれに応えるように、力強く頷いてみせた。

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