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【映画感想】『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』(2024:監督・阪元裕吾)

※ネタバレしかありません

殺し屋女子ふたりぐみがゆるゆると暮らし殺す『ベイビーわるきゅーれ』とうとう3作目。ドラマの『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』も殺し屋自炊グルメドラマとして毎週楽しみにしています。1話目のサブタイトルがかわいすぎてしびれた。「10年後も一緒に死体凍らせよ」だよ、こんな約束、このふたりにしかできない。

1作目、2作目を後追いで配信で観て「めちゃくちゃおもろ!」となって何度かリピしていたので『ナイスデイズ』が楽しみでならなかった。

こんなビジュアル事前に見せられたら高まるでしょ

予告編で観たふたりの新たな敵、史上最強の殺し屋:冬村かえで(池松壮亮)、こう……ターミネータータイプのタフなサイコ殺し屋かなと勝手に予想していた。

ぜんぜんちがった。
「冬村かえで」という生物について語ると長くなるので後述します。

『ナイスデイズ』のトータルな感触

「気持ち悪いところがなかった」のが女性の観客からよくあげられているし、実際、私もそう感じた。
開幕海辺でキャッキャしているふたりから始まる。でもそこに性的な視線がなくてただただ楽しそうな女子ふたり、というだけの描写で、そこに湿度がない。からっからである。

この監督には信頼がおける。勝手においている。
実際、見ていて「ンンッ」となるポイントがほぼほぼなく、ストレスなしで観ることができる。
(コンテンツを楽しむのにストレスってなんなんだよ!と思うけれど、実際誰とは言わないけど鈴木おさむとか大根仁の書くねっとりした感じが私は苦手です。誰とか言ってた。でもこのふたりがネトフリだとマシになるの、ネトフリスタッフってめちゃくちゃ優秀なんだなあとつくづく感じる)

ストレスなく、ただただ、信頼関係のある、ちさととまひろ、そしてふたりを支えるキャラクター達を楽しむことができる。いやー、この人たち殺し屋なんですけどね(現役じゃない人を含め)

前田敦子すごいな
正直、予告とか事前情報で予想してたのと全く違う先輩殺し屋だった。
最初の方のやたらとげとげしいの、拗れた灰原哀だと理解するとわかりやすいツンデレ……。

しかもその、ちさととまひろに対する序盤の態度に、「若さに嫉妬するお局感」を全く含んでいなかった脚本も演じ手もほんとよかった。
あとだいたいAKB卒業組とか出てくると「BBAキャラ」にしたがる日本のエンタメ(というか一部のテレビ関係)はほんとにKUSOだなって実感しました。ちさまひも彼女に対して間違っても「ババア」とか言わないのほんとにいい……。

20代~30代でそんなくだらん競り合いをする時代じゃないよなあ。
おもむろに自分の過去を語りだすかと思ったら、親に虐待されたとか孤児とかそういう話では全くなかったのも笑った。劇場一体になって笑ってたよあそこ……。しかもこう……堪える感じの笑い。
ちゃんと謝ったりするところとか、飲みに来るときのかわいさとかもよかった。おまえただのツンデレだな? 灰原だもんな。
前田敦子にマシンガンを持たせた監督にお金を振り込みたい。口座番号をスタッフロールに書くべき。

七瀬さまのバブみを言語化できない
性的描写がどうとか自分で言っておいてこれだよ。
七瀬さま ×((ちさ+まひ)+入鹿)=つよい
ってくらい七瀬さまがいないと話にならないでしょこの案件。

最初出てきたときはただのマイペースな筋肉馬鹿かと思ったら、友人のために殺し屋やってるし、起業する脳みそも手腕もあるし、力こそパワーな信念も「いいから武器持て」って言われたら素直にそうするし、入鹿をなだめたうえで無軌道なちさまひを統率するし、このかたは大いなる母神では……? こういういい映画に対して「この男のママみが最高」という雑な言葉を使いたくなくてすごい悩んだんだけど、今の世において『母性愛』をポリコレ配慮して表すのどうしよう……とりあえず最強の保父さん(兼殺し屋)だった。

七瀬と入鹿ちゃんがただただお互い自分の言いたいことしか言ってなくて噛み合わない飲み会してる様を眺めたい。飲まないっていってたけど七瀬最後酔いつぶれてたよね? 寝ただけ? 個人的にすごい好きなキャラだった。

冬村かえでという生物
異世界転生とかでいうなら、ステータス画面に「殺し」しかスキルのない男。それが冬村かえでで、神様のお告げなんかなくても自分の才能に気づいちゃって、それをストイックに現代日本でレベルアップさせてしまった。
ストイックすぎてメンタルヘラりぎみなのを、仲介屋がコントロールしてたのも面白かったな。あの仲介屋を殺さないかと思ったけど、そうしなかったのがやっぱコミュ障というか感情の動きがおかしい生物でよかった。

かえでは、ちさとに出会わなかったまひろだ。そして殺し屋組合にも入る機会がなかった(そうそうあるのかそんな機会)
だからたったひとりで、殺しを重ね、それを記録し、殺しの技術を高めていくことに専念してしまった。
才能を磨くことの引換えに、殺し屋の仲間を得ることも、信頼できる裏方を得ることもできなかった。
だから本来、まひろはかえでに勝てないのだ。
実際、戦いにおいてのかえでは無敵だし、もう本人もその確信を得ている。
したがって「誰も俺に勝てないのだ」と宣言するし、ファームの残党も彼にしたがう。仲間がいなくてさみしいかえでが求め、得たあたらしいなかま! しかしそれをあっさり捨て駒で死なせるのが冬村かえで。コミュ障な部分もまひろと同じ。

負けられないと理解しているから決戦時にヘルメットかぶってめちゃダサジャンパー着てくるし、ほんとうに泥臭い男で、お箸がもらえない場面なんか、もうかわいそうでかわいくてしかたなかった。実直でまっすぐで、けなげなのに、たまたま所持スキルが「殺し」だから、感情がちょっとでも汽水域からぶれると殺してしまう。なんなの、このかわいそうな生物。
まひろとのアクション部分ほんとにすさまじくて、本人が演じているのが驚異だった。あの、誘って誘ってかわすみたいな肉弾戦すごすぎませんか。
池松壮亮はどこの戦場で学んできたの? 宮崎?(宮崎は戦場じゃないんだよ!)
かえではたくさんを殺すし、まひろを躊躇なく殴打するけど、そこに性的興奮が一切なさそうなのがいいよね……。べびわるの戦闘は女も男もないところがいい。入鹿さんは男の股間けってたけどまあ人体の急所ですし。

最後まで冬村かえではさみしく気持ち悪い生物で、でも最後にまひろに自分の名前を言えたことが、彼の人生でのいくつかの幸福な事象のひとつだったんじゃないだろうか。確実にあとひとつはハンカチ。
かえではこのスペックとこの風貌でお名前がひらがなの『かえで』なのがすごい最高天才命名と思っている。

まひろとちさと
このふたりの殺し屋が、出会って、組んで、一緒に暮らしているのは奇跡。
という証明をおこなったのがこの「ナイスデイズ」だと思う。
臆病で人見知りで世間になじめないまひろにとって、ちさとは唯一の外界との接触溶媒。
ちさとはそんなまひろを見守り、仕方ないなと許容し、ときにはまひろよりも沸点が低いバトルをする。
まひろの対人格闘で「男に銃をとられる」の部分、伏線かと疑ってたら普通にまひろとかえでが殴り合ってて笑った。
ちさとがナイフの刃をにぎりしめたアレですが、最後ひきはがすところまで描いたのが生々しくてヒエーってなってしまった。
このふたりがただただ強いだけじゃないのがいいよね、ほんとに。

忘れないこと
まひろが「あの兄弟」との戦いを振り返って「楽しかった」「名前聞いとけばよかった」と思ってくれて、2がとりわけ好きな私は嬉しかったです。丞威さんのアクションて、見栄えがすごくいいんですよね。だからかわからないけど、今作のリアル寄り戦闘の方をほめる人がよく見られますが、ストーリーとしては私は断然2が好きです。

彼らとの楽しかった記憶にある後悔をうめるために、まひろがかえでの名前を聞く。

殺しても、(あなたの名前を)忘れない。

何なの、うつくしすぎないか。
最高だろベイビーわるきゅーれ。もっともっと続けてくれたのむ。
男だからとか女だからとか年齢差がどうとかなく撃ちあい殴りあう映画最高だよ。


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