わたしの呪い。

新作のタイトルが発表されたとき、たまたま手にした雑誌に彼の名前を見つけて、わたしはとてもうれしかった。わたしなりの仁義というか、一線をおく意味として、彼の現在の情報を積極的に入手しようとは思っていないから、ほんとうに偶然だ。

彼はわたしの元同居人で、数年同じマンションの一室で暮らした。彼は仕事をとても愛していたし、わたしも彼と同じ業種で違う職種、彼の仕事をわたしはとても好きだった。

こだわりを強く持つクリエイターなのに、我を通すということが滅多にない。無口で人見知り。だが仕事は一流。彼は上司たちの受けもよかった。媚なんて必要ないのだ、彼は会社員だったけれど、職人なのだから。
わたしは彼の全部が好きで、好きすぎて、彼との暮らしをぶちこわした。わたしが転職して違う会社に勤めても、わたしと彼はしあわせに暮らしていた。
そのはずなのに、不安に追い立てられるようになった。壊れていたんだろうと今は思う。でも、そのキズは、彼がずっとそばにいたからといって治癒するものではない。わたしがずっと無理を重ねて働いてきて、電池がきれて壊れただけのことだから。性格的に向いていない、渉外の仕事をつづけたツケだ。

彼と別れて何年になるだろう。
もう会えないけれど、今だって彼が好きだし、死ぬまで好きなままでいると思う。
だから彼がいつもどおり、ブランドタイトルのスタッフに抜擢されていたのを見つけてうれしかった。彼ならきっと最高のものを作る。たとえそれが数百人単位で製作する作品であっても。

発売されたタイトルのスタッフ一覧に彼の名はなかった。
別のタイトルのしりぬぐいのために、移動させられたらしいと人づてに知った。彼らしいと思った。得を求めて、ガツガツしない。作れれば幸せ。だからいまだにフリーになっていないんだろう。そう考えていた。


ある日、わたしは知人の女性とお茶を飲んでいた。彼女はSNSでは、かよわくて愛らしくてきれいな女の子を演じている。そのせいで、彼女をフォローしている男性たちは、必死に彼女に気に入られようとしていた。
「あたしも前の彼氏が忘れられないんですよ。彼は結婚しちゃったけど。でもたまに連絡をくれるの。だから、もう、不倫でもいいかなって」
のろけとも相談ともつかない彼女のことばを受け流しながら、わたしは思うのです。
会わなくてもいいや。会えなくてもいいや。

わたしはもう、二度とあなたと会えないだろうけど、でもぜったいに幸せでいてね。
これがわたしからの、あなたへの呪いです。


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