そそわSSレビュー3
「いいな」と思ったSSのみレビューします。
☆★★:よく楽しめた
☆☆★:非常に楽しめた、あるいは好きだった
☆☆☆:非常に楽しめ、好きだった
※作者名敬称略
作:正邪はお家に帰りたない
著:石転
星:☆☆☆
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/234/1609719776
読みやすくて面白い。オーソドックスな二次創作といった感じ(ありきたりという意味ではない)。この作者の著では結構露骨な解釈説明タイムが入っている場合が多いのだが、この作品にはそれもない。あるいは、その辺の臭み消しが上手くいっていると言うべきか。というかそれくらいしか強いて言うほどの難点はないので信頼して読めるのがこの作者という感じ。そそわでは鬼形獣勢がまだまだレアキャラだからこの調子で増えてくれると嬉しい。そもそもの話の発想が良い。
作:一番、隣に相応しい
著:奈伎良柳
星:☆☆★
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/234/1609410032
この作品の丁寧さの象徴的なのは「妖夢が幽々子の軽口や態度に本気で困窮しているわけではないことが明記されている」ところだ。素晴らしいと思う。個人的には「自分がいなくとも淀みなく回る状況を想定して、その場合どうすればよいのか」の答えが結局「そんなことはありえないから安心していい」だったのだけは如何なものかと思った。もちろん展開としてはこれでよかったと思うしあれ以外の結末など望んではいないのだけれど、それはそれとして、その命題に対する答えは作品として必要だったのかなと。というか幽々子が最後にしたり顔でその辺の答えを提出してくれるのだとばかり思っていたので、肩透かしを食らった感がある。まあ、彼女は最初の方、「良い皿ともっと良い皿を出されたら、ありがたくどちらも頂く」と言っていたのだし、それで良しとするか。溜飲溜飲。
作:『水底のラフィア』より
著:真坂野まさか
星:☆☆☆
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/234/1612014678
本作品集の潜在的一位がこの作品であることは疑いようがない。東方二次を摂取する「活字好き」は本作を読んでしかるべきである。散々他の人が褒めているし私が同じことをなぞって言う必要はないと思うので、感じたことだけを書く(本当、コメント欄の熱量がすごすぎる)。私は活字が嫌いであり、故に「全ての活字狂いに捧げられている本作」に対しては複雑な心境がある。そそわに居ながら活字嫌いを公言しているなんて馬鹿げているが、故に本作は私だけをスルーしみんなの心に突き刺さっている。本作に掲げられた、そういった明確な「テーマ」はさておき、この作品は本当に誰も傷つけぬように作られているように思う。登場するいずれのキャラクターもぞんざいな扱いを受けないし、思慮深い。疲れた心に染みわたるような優しい口どけの作品だ。ただ、途中まで読んでいて、期待していた答えが得られない可能性が多少なりともあるという点は無視できないかもしれない。所謂「ほしかった真実じゃない」という。しかしそれすらも、わかさぎ姫の感じたであろう僅かな失望が読者とシンクロするための欠かせないファクターであり、感情移入させる著者の巧みな技と言える。そこまで読むとわかさぎ姫と読者の気持ちが一体となるように書かれているのだ(そして、すべての物語はそうなるべきである)。本作において重要なのは「本作は書に対する愛そのものである」という点であって、特に他のことは重要ではないからこそ、過剰なまでに丁寧で優しい世界でそれを語っているのだとも言える。仮に少しでも胸糞の悪い要素が含まれればこのテーマは濁るはずであるから。