『星に願いを』誕生秘話として観る“WISH”-受け継がれるウォルトの志-
先週末に公開が始まったDisney Animation Studioの最新作"WISH"。日本語のキャッチコピーは「世紀のドラマティック・ミュージカル、開幕」。正直いって、ミュージカルという要素を入れる必要があったのか?入れるのであれば、もっとやりようがあったのではないか?と感じました。"Tangled(塔の上のラプンツェル)"や"Frozen(アナと雪の女王)"には肩も並べられないかと…
とはいってもDisney Animation Studio100周年記念とあって、様々な過去の作品へのオマージュが見られたことは、面白い点としてあげられます。その中でも今回注目したのは誰もが知る名曲“When You Wish Upon A Star(星に願いを)”の存在です。
「星に願いを」
それはディズニーの歴史そのもの
“When You Wish Upon A Star”は1940年公開のディズニー作品『ピノキオ』の劇中歌であり、この作品以降、作品が始まる前の導入部分(シンデレラ城が映るやつです)でこの楽曲が用いられています。常に新しい作品とともに歩み、その観客たちを迎え入れてきたこの楽曲。
あなたが星に願う時
あなたが誰であるかは、関係ない。
あなたの心が望むものは、
全てあなたにやってくる。
もしあなたの心が
夢に満たされているのであれば、それで充分。
夢見る人がするように、あなたは星に願うだけら。
運命は優しい。
彼女は愛する人にもたらす。
彼らの隠れた憧れの成就を。
なんの前触れもなく突然に、
運命は踏み入れ、あなたを見透かす。
あなたが星に願う時、あなたの夢は叶う。
このように丁寧に歌詞をみてみると、今回の"WISH"のストーリーそのものに見えてきませんか?
そう結論づけたのが、End Title後に出てくる、サビーノがマンドリンで“When You Wish Upon A Star”を弾く後ろ姿の画。星を眺めたサビーノが無言でメロディを弾いているのですが、もしサビーノが一連の出来事から“When You Wish Upon A Star”を作曲していたら。そう想像膨らませることができました。
アーシャが魔法使い研修生になるところで映画の幕はおりますが、もし彼女がその後修行を積んで、ブルーフェアリーになり、『ピノキオ』の世界に降臨していたら。“When You Wish Upon A Star”の歌とともに。なんてところまで想像が膨らみます。作中で『ピーターパン』や『メリーポピンズ』を思わせる願いが登場しますが、これらもアーシャがそれぞれに返したことで、映画で私たちが見てきた彼らの姿に戻った、とも解釈することもできます。
現代社会で夢を奪っているのは誰か?システムに組み込まれる人々への警鐘
願いを持たない方が、悩み事から解放されて、生きることが楽になる。このようにマグニフィコは説き、国民から願い(夢)を預かっている、という体裁で国を管理しています。
現代社会におけるマグニフィコは誰なのか。国や地域によっては、恐怖で人々を管理する支配者の姿がそのまま投影されるでしょうし、先進国等では、そこには人の姿はなく、ルールや空気というものなのかもしれません。
僕自身も相談を受けたこともありますが、少し前から「やりたいことが見つからない」という悩みを持つ人が少なくないようです。しかしその原因は、本当にやりたいこと、やってみたいと思っていたことが、何かによって薄められているために、自身でさえも探しにくくなっている、という風にも考えられます。
それは受験という制度かもしれないし、家族というコミュニティかもしれないし、年功序列型の会社体制かもしれない。システムにのかってさえいれば、収入は安定し、食っていける。資本主義社会のなかでは成功ともいえる姿ではありますが、本当にそれで幸せなのか。マグニフィコという力は、夢と現実という比較対象である夢を抜き取っているため、幸せか否かの判断軸を失わせています。現実社会の鏡といっても過言ではない、そんな作品のようにも感じました。
同時上映"Once Upon a Studio"のメッセージに感動
今回、100周年を記念した"Once Upon a Studio"という短編が”WISH”と同時上映としてラインナップされています。この短編の中にも様々なこだわりが見られましたが、最後映し出されるメッセージが素敵すぎました。
「共に想像し、笑い、夢を見てくれたみんなに。ありがとう。」ウォルトが、生きていて語りかけてくるようなメッセージ。そしてウォルト一人の想いを100年間受け継いてきた歴代・現役全てのスタッフに最大級の賛辞を送りたい。と感じました。
そしてこの短編"Once Upon a Studio"で印象的な楽曲が2曲流れます。まずは、"Feeds the Birds(2ペンスを鳩に)"。『メリー・ポピンズ』の劇中歌で、銀行家の父と初めて出かけることになった子供たちに、「お父様でも気づかないことが、たくさんある」と言って、メリー・ポピンズが歌う楽曲です。「耳を澄まして、小さな声を聞いて」と伝えるメリー・ポピンズ。対照的に父は、「お金の正しい使い方を教えてやる」と路上の鳩と戯れる女性には目もくれず行ってしまいます。
お金に塗れた資本主義思想への反抗。父バンクスの改心(というよりも思い出した)に繋がり、『メリー・ポピンズ』の核心そのものが反映されているともいえ、なによりウォルトが心から愛した"Feeds the Birds(2ペンスを鳩に)"が、ミッキーがウォルトの肖像を眺める時に流れてくるのです。
『メリー・ポピンズ』はウォルト存命中、唯一アカデミー賞にノミネートされた作品でもあります。原作者トラヴァース夫人への説得まで20年以上かけて創られた渾身の一作。その製作の裏側を描いた『ウォルト・ディズニーの約束(原題は”Saving Mr. Banks"。Mr.バンクスの救出といったところでしょうか。Mr.バンクスは劇中、代名詞的な働きをします。やはり邦訳でガラッと印象が変わる問題はどうにかした方がいいですね…)』では、ウォルトはこのようにいいます。
物語を語る者である私たちは、想像力で安らぎを与える。そして私たちは尽きない希望を与える。と。
ウォルト自身『メリー・ポピンズ』の小さな声に耳を澄ませて、トラヴァース夫人と向き合った。その教訓が"Once Upon a Studio"のたった数秒のシーンに込められていた気がします。
そして締め括りにキャラクター、一同が歌う楽曲。それが“When You Wish Upon A Star”なのです。”WISH"との同時上映。100年の歴史を繋ぐ調べ、であり、想い。みなさんはどう受け取りましたか?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?