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ゲノム編集の基礎(まずは遺伝の仕組みから)
ゲノム編集についての書籍がいろいろ出ていますね。
凄く興味はあるものの、年寄りで初学者の私には難しいものばかり。
そんな中で、宮岡祐一郎先生が書かれた「トコトンやさしいゲノム編集の本」という書籍を見つけました。ゲノム編集の基礎から学べる書籍ですが、私のような者にはそれでもハードルは高いかな。でも、向学のため、自分のため、目次に沿って少しずつまとめてみようと思います。
1:世界が変わる?ゲノム編集技術
遺伝子は、私たちの細胞の中のDNAに含まれています。ある生物のDNAが持つ全ての遺伝情報のセットを「ゲノム」と呼びます。つまり、ゲノムが私たちヒトを含め、生物の特徴を決めています。
生命科学研究者たちの長年の夢でもあった「あらゆる生物種の遺伝情報を自由自在に操るゲノム編集」、この研究は2012年終わり頃から現在にかけて、文字通り「爆発的」に発展しました。
ゲノム編集は、基礎研究はもとより、医療、農業、畜産など多岐にわたる分野に革命をもたらしています。
2:遺伝と遺伝子について知ろう
親から子供に「何か」が受け継がれている、ということは古来より明らかでしたが、その「何か」を「遺伝子」と定義し、その伝わり方をエンドウマメの実験で詳細に調べ、1866年に発表したのがメンデルです。
メンデルは、エンドウマメの形を決める遺伝子の存在(概念)を示しました。
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次の大きな発見は、1903年にサットンによってなされました。
彼はメンデルが提唱した遺伝子の特徴を、細胞の中にある染色体が備えていることを見出し、染色体に遺伝子があることを提唱しました。
しかし、染色体は主にDNAとたんぱく質から出来ており、どちらの物質が遺伝子なのかはなお不明でした。
次に、1944年にアヴェリーらは、肺炎双球菌を使った研究で、遺伝子はたんぱく質ではなく、DNAに含まれていることを見出しました。
そして、1953年のワトソンとクリックによるDNA二重らせん構造の発見を契機に、DNAという物質が「遺伝子」として親から子供に伝わり、親の特徴が子供に「遺伝」する仕組みが次第に明らかになってきました。
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3:DNAって、どんな構造?
日本には「数珠つなぎ」という言葉があります。数珠には似た形の玉が一列に並びます。実は生物の持つ分子の多くは数珠つなぎ構造で、DNAもその一つです。
(ただし、DNAは基本的に両端のある紐状)
DNAを数珠に見立てると、玉に相当するのがデオキシリボヌクレオチドと呼ばれる分子です。デオキシリボヌクレオチドには4種類あり、全てに共通の骨組み部分を使って数珠つなぎ構造を作りますが、塩基と呼ばれる部分に違いがあります。
この塩基には、アデニン、チミン、グアニン、シトシンがあり、その頭文字を取って、4種類のデオキシリボヌクレオチドをよく、A、T、G、C と省略します。
A、T、G、C が繋がる際に、大切なルールが二つあります。
一つは、結合には向きがあり、必ず一方向にしか繋がらないこと(デオキシリボヌクレオチド同士は必ず足を手で掴んで繋がる)。
もう一つは、枝分かれしないことです。(3本の手足を持つデオキシリボヌクレオチドは存在しない。)
A、T、G、C の4種類の玉からなるDNAの数珠つなぎ構造は、鎖に例えられ、DNA鎖とも呼ばれます。
しかし、これではまだDNAの構造は完成ではありません。
実は通常DNAは、1本の鎖(1本鎖DNA)ではなく、2本の鎖のペア(2本鎖DNA)として存在します。
2本のDNA鎖は互いに反対向きに対合し、互いの数珠の玉一つ一つがペアを形成します。
ここで最も重要な対合のルールとして、片方の鎖のAはもう片方の鎖のTと(TはAと)、GはCと(CはGと)必ずペアを組みます。水素結合と呼ばれる力が、これらのペアを引き寄せるためです。この塩基同士のペアを塩基対と呼びます。
対合した2本鎖を上から見て反時計回りにひねると、かの有名なDNA二重らせん構造の出来上がりです。
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4:DNAの複製:
親子が似るのは、同じ遺伝子を共有しているからです。
また、たった一つの受精卵から生まれた、約37兆個もある私たちの身体を作る細胞は、基本的に全て同じ遺伝子を持っています。
このように、遺伝子、つまりDNAは複製されるという大きな特徴を持っています。
ヒトの場合、全てのDNAを構成するデオキシリボヌクレオチド、A、T、G、C の数は両親由来のものを合わせて、実に約60億個に及びます。
細胞はこの膨大な量のDNAを、正確に複製しなくてはいけません。
DNA複製は、二重らせんの鎖を1本ずつ引き剥がし、それぞれに新たに1本ずつ鎖を作ることで達成されます。
新しい鎖は元の鎖に対し、必ずAとT、GとCがペアになるように合成されます。
このように、元のDNAの半分を保持しながら、もう半分だけを新たに合成することから、DNA複製は半保存的複製と呼ばれます。
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5:たんぱく質ってどんな分子?
遺伝子には、複製されることに加え、何らかの方法で情報を次世代に伝え、生物の特徴や生命現象のあり方を決めるという大事な性質があります。
DNAが二重の数珠つなぎ構造であるように、実はたんぱく質も数珠つなぎ構造からなります。DNAの数珠の玉はデオキシリボヌクレオチドでしたが、たんぱく質の数珠の玉はアミノ酸と呼ばれる分子です。
デオキシリボヌクレオチドの場合と同様に、アミノ酸も枝分かれせずに、方向性を持って連結します。
しかし、2本鎖であるDNAとは異なり、たんぱく質は決まった形に折り畳まった1本の紐として機能します。
また、デオキシリボヌクレオチドは4種類だけですが、アミノ酸は20種類もあり、かつ化学的に非常に多様な機能を持ちます。したがって、たんぱく質はDNAよりもはるかに複雑な構造や、化学的特性を得ることが出来ます。
そのため、たんぱく質は食物の消化などの化学反応、筋肉の繊維の形成、体から異物を排除する免疫反応など、実に多様な生命現象を司っています。多くの生命現象を直接担うのは、たんぱく質なのです。
したがって、遺伝子であるDNAは、何らかの形でたんぱく質の性質を決定しているはずです。
実は、DNAのA、T、G、C の並び順が、たんぱく質のアミノ酸の並び順を決めるのです。DNAの並び方が変われば、アミノ酸の並び方が変わり、ひいてはたんぱく質の性質が変わります。
つまり、遺伝子はたんぱく質のアミノ酸の順番を決めることで、生物の特徴を決めているのです。
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6:DNA鎖を転写する?
もしデオキシリボヌクレオチドが20種類あったとしたら、それらをアミノ酸と1対1で対応させることで、簡単にたんぱく質を構成するアミノ酸の順番を決定出来ます。ところが、デオキシリボヌクレオチドはA、T、G、C しかないのです。
実は、A、T、G、C からなる3塩基の並びを一つの単位(これをコドンと呼びます)として、アミノ酸1個の種類が決まります。
例えば、TCT、GGTというコドンは、それぞれセリン、グリシンというアミノ酸を規定します。もし遺伝子にTCTGGTTCTという並びがあれば、それはセリンーグリシンーセリンという順番にアミノ酸を繋げることを指示しています。
コドンには64種類がありますが、その全てにアミノ酸(一部にはここでアミノ酸の連結を終了するという指示である終止コドン)が割り振られています。
DNAのデオキシリボヌクレオチドの順番を、たんぱく質のアミノ酸の順番に変換していく過程には、順に「転写」と「翻訳」という二つの大きなステップがあります。
まず転写では、DNAの情報がDNAにとてもよく似た分子であるRNAという分子に変換されます。RNAも数珠つなぎ構造からなりますが、今度は数珠の玉が、4種類のリボヌクレオチドという分子になります。DNAの場合と同様に、リボヌクレオチドも共通の分子骨格を使い、方向性を持って連結します。
また、塩基の部分だけが4種類で異なり、それぞれ、アデニン、ウラシル、グアニン、シトシンの頭文字を取り、リボヌクレオチドもA、U、G、C と省略されます。
DNAではTだった塩基が、RNAではUに変わりますが、それ以外は同じ構造です。
転写において、DNAのA、T、G、C の順番は、RNAのA、U、G、C の順番にコピーされます。
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転写で合成されるRNAは、伝令RNA(mRNA)と呼ばれ、一本鎖として機能します。この伝令RNA(mRNA)が、たんぱく質合成ステップである翻訳へと、DNAのヌクレオチドの順番を伝達する役割を果たしています。
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7:RNA鎖を翻訳する?
生物学の翻訳は、RNAの持つ情報を、化学的に大きく性質の異なるたんぱく質に置き換える過程と考えることが出来ます。
伝令RNA(mRNA)の塩基の順番を確認し、それに対応する順番で、アミノ酸を繋げなくてはなりません。しかも、塩基の認識は3塩基ずつのコドンの単位で行い、20種類あるアミノ酸から正しいものを運んでこなければなりません。
この非常に複雑な化学反応を担っているのが、リボソームと呼ばれる巨大な分子です。そのあまりの巨大さから、リボソームは核や小胞体といった、細胞内小器官に分類されることがあります。
リボソームは、少なくとも50種類以上のたんぱく質と、3種類のRNAが集合して出来ています。(つまり、リボソームは自分自身を作るたんぱく質も自分で翻訳して作っています。)リボソームには、伝令RNA(mRNA)に結合し、コドンに対応するアミノ酸を転移RNA(tRNA)と呼ばれる分子を使って順番に運び込み、その順番通りにアミノ酸を繋いでいく機能があります。数珠繋ぎに伸長したアミノ酸は、最後は決まった形に折り畳まって、たんぱく質としての機能を発揮します。
このように、遺伝情報はDNAが必要に応じて複製しながら保有し、転写を介してRNAに、さらに翻訳を介してたんぱく質に伝達されます。
この一連の流れを、セントラルドグマと呼びます。
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8:遺伝子が変異するとどうなるの?
DNAのA、T、G、C の順番が、たんぱく質の20種類のアミノ酸の順番を決めることを学びました。
最後の章では、鎌状赤血球症という遺伝病を例に、DNAの4種類の塩基の順番がなぜ重要かという問題を考えてみます。
鎌状赤血球症は、アフリカを中心に見られる遺伝病で、通常は丸い赤血球が鎌状の形になるという特徴を持ちます。赤血球は全身に酸素を供給しますが、鎌状の赤血球は、酸素を運ぶ能力が低い上に、血管で詰まりやすいため、患者は重度の貧血に陥ります。
鎌状赤血球症は、ヘモグロビンβ鎖遺伝子DNAの20番目の塩基であるAが、Tに変異することで発症します。ヘモグロビンβ鎖たんぱく質は、赤血球の中で、酸素に結合し運搬します。鎌状赤血球症で起きるAからTへの変異は、ヘモグロビンβ鎖の7番目のコドンを、GAGからGTGに変え、本来の7番目のアミノ酸であるグルタミン酸を、バリンに変えてしまいます。
この二つのアミノ酸は、化学的性質が大きく異なるため、ヘモグロビンβ鎖たんぱく質全体に異常な形と性質をもたらします。
通常ヘモグロビンβ鎖は、ヘモグロビンα鎖と2個ずつの合計4個のたんぱく質が合体した粒として酸素を運びます。
ところが、この変異ヘモグロビンβ鎖は、自分たち自身で集合してしまう異常な化学的性質を持ちます。
そのため、鎌状赤血球症の患者のヘモグロビンβ鎖は、ヘモグロビンα鎖とともに、繊維状に結合・伸長してしまい、患者の赤血球の酸素を運ぶ能力を著しく損ない、また赤血球を変形させてしまうのです。
ゲノム編集技術により、こうした変異を修正することも原理的には可能であり、実際に、鎌状赤血球症治療のためのゲノム編集研究が世界中で進んでいます。
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グルタミン酸からバリンに変わってしまうことによって起きる。)
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