「刑事物語」シリーズその一

 第一回目は日活が1960-61年に公開した警察捜査シリーズである「刑事物語」を取り上げてみた。所轄署の老練刑事である父親と警視庁の部長刑事である息子がコンビを組んで、犯罪事件の捜査に携わるというのが、全編を通じてのコンセプト。息子の方が位が上という設定で、一緒に家を出ても父は電車、息子は急いでいるのでタクシーで捜査本部に向かうというシーンがあり、父がぼやくシーンがほほえましく、ユーモアと親子愛が込められていた。名前を呼ばれて、父親が振り向くと、「いや、ジュニアの方」と言われることもあった。監督は全作小杉勇(勇の字の横に、、がつく場合とつかない場合がある)、音楽は息子の小杉太一郎(こちらも全作)が担当。益田喜頓が父親の佐藤源造役をつとめ(所轄署は一定せず)、息子は一作目だけ待田京介で、二作目以降は青山恭二が扮している。ロケ地情報は日活のデータベースより。
 なお、ストーリーは最後まで紹介し、犯人の名前も書いているので、ご注意を!! かつて、私は映画雑誌で映画紹介欄を長らく担当していた。実際に見て書ければいいが、時間的制約から見ないで書くこともしばしば。その際には映画会社から提供されたプレスシートと呼ばれる宣伝材料に記されたストーリーを参考にした。おそらく宣伝部も時間的余裕がないのだろうが、このストーリーはシナリオを基にしていることが多く、完成した映画とはかなり違ってくるケースも少なくない。このストーリーにしたってよくて半分、普通は三分の一ぐらいのところで終わっている。ミステリーだから犯人は書きません、後半部分は見る人の楽しみにとっておくというのでは時がたってしまうと、その作品の全貌が不明のままになってしまう。たしかに現在では、映画館だけでなく、TV、DVD,配信でも映画を見ることができるが、全作品を網羅しているわけではない。見たい作品が必ず見られるわけではないのだ。というわけで、ネタバレ注意の表示をつけて書き進んでいくことにする。ネタバレ部分は前後一行あきにした。もっとも、このシリーズは最初に犯行シーンがあり、犯人が顔見せしているケースが多い。こうした最初からネタバレの際には注意喚起はしない。惹句だって映画の内容とは乖離した紋切り型のものが多い。「東京の迷路」のように、“老いたソフトを鞭うって”なんて意味不明なものもある。普通は老骨に鞭打つんじゃないのか! 

①「東京の迷路」(1960年1月3日)50分
原案:大和田健二 脚本:野々晃、小杉勇
〔惹句〕老いたソフトを鞭うって、都会のカスバに殴り込み、犯罪の匂いをつきとめる、人情刑事涙の捜査陣!!

 夜、みどり橋の上で城南署の南刑事が殺される。南とは警察学校同期で警視庁の部長刑事をしている佐藤保郎が、所轄の老練刑事で父の佐藤源造とともに捜査に当たる。橋の向こう側はドヤ街で、ここにはかつて南刑事が補導した工員君塚もいたし、株で儲けている水田という男もいた。佐藤源造刑事は情報屋小淵から君塚が怪しいという情報を得た。現場に落ちていたイヤリングからバー女給マリが割り出され、マリは「南刑事に君塚との結婚を反対されたから殺した」と自白。だが、君塚も犯行を自白し、佐藤源造刑事は二人は互いをかばい合っているのだと見た。君塚はやくざだった時に入手していた拳銃コルトを売って結婚資金にしようと、小淵に仲介を頼んでいた。

〔以下ネタバレ〕小淵は取引相手に会って金を貰おうと指定された線路近くの掘っ立て小屋に行く。そこにいたのは水田であった。彼は株で儲けているのではなく、ペイを売って儲けていたのだ。それを南刑事に知られて口封じに殺害したのだ。水田は小淵を射殺するが、警察が駆けつけてきた。操車場での追いかけの結果、水田は逮捕された。

 親子刑事コンビの肉親ならではのやりとり、勤続30年のベテランの酸いも甘いもかみしめた刑事の勘と、科学的捜査を標榜する息子との対立。勿論、ものをいうのは刑事の勘の方で、彼の人柄のよさが人情刑事の味をだしている。正確には出しすぎの感もある。待田京介扮する息子は蝶ネクタイをしていて、少々気障な雰囲気を漂わせていた。50分という短い時間ながら、人情とペーソス、人間関係の生み出すドラマ、そして最後のアクション場面と、きちんと収まっていて、とてもいい出来だった。君塚に青山恭二、水田に浜村純。小淵役の松本染升はその後も別の役で二本このシリーズに出ている。
 ロケ地【東京都】江東区(ドヤ街)/荒川区(南千住)【神奈川県】川崎市(新鶴見駅貨物操車場)

②「殺人者(ルビ・ころし)を挙(ルビ・あ)げろ」(1960年2月14日)53分
脚本:松村基生
〔惹句〕凶行の謎ひめる血染めの名刺!非常手配を冷笑する兇悪犯に挑む熱血の親子刑事!!

 勝鬨橋の橋げたが上がり、三味線の音が聞こえてくる下町。しもた家に入りこんだトレンチコートにソフト帽の男が、佐藤保郎刑事の名刺を出して女主人を油断させて射った。中に入って家探ししそうな様子だったが、外の物音に気付いて逃走する。その時、少年少女とすれ違ったのだが、なぜか彼らから警察が情報を得たシーンはなかった。はっきり顔を見ていたのだから、犯人逮捕の一番の手掛かりだったはずなのに、目撃者はいないと警察は言う。被害者の由利江は金貸しだったが、一命をとりとめた。帳簿にあった債務者をあらい、東和燃料の原社長にも話を聞いたが、「恋路の果て」という映画を見ていたと証言。このアリバイ調査が電話で映画館に問いただすだけというのには驚いた。佐藤保郎刑事は名刺を渡した相手を調べ、所持していない男から電話ボックスに置き忘れた手帳に入れていたと聞かされ、がっかりする。

〔以下ネタバレ〕原が抵当物件として由利江に銀座のバー、ドモンジョを示していたと知り、保郎はにわかに張り切りだす。手帳を忘れたという電話ボックスがドモンジョのそばにあったからで、聞き込みをすると、手帳を見つけた女給がバーに戻ってきて、原が手帳に保郎の名刺を見つけると、「俺が届けておくというので渡した」という。父親は拳銃のブローカーを調べていた。元ハジキの売人で今はバーのマダムというお時に若水ヤエ子。殺し屋丈吉は原との間を仲介した島尾(オフィスに週刊銀座とあった。広告代目的の赤週刊誌か?)がピンハネしたことを知り、彼を射殺。情婦マリとともに由利江殺しを完遂するために病院に行き、まんまと警護の警官をおびき出し、残った警官一人と由利江を射殺。警官隊に追われて下水道に逃げ込むが、結局、海に流れでる排水口には鉄格子があり、逮捕されてしまう。佐藤源造刑事は丈吉に右肩を撃たれる。

 前作では前科者で、明らかに銃刀法違反の罪に問われるはずの君塚を演じていた青山恭二が、源造の息子保郎に扮し最終作まで勤めている。彼の恋人役として女医の久美子が登場し、彼女が源造の治療を担当していた(ただし、久美子の登場は本作のみ)。父の勤め先は三原署。原を松本染升、島尾を野呂圭介、丈吉を深江章喜、マリを筑波久子、久美子を稲垣美穂子といつものタイプキャストだが、安心して見ていられる。
 ロケ地【東京都】中央区(築地勝鬨橋、銀座、聖路加病院、本願寺)/千代田区(日活国際会館地下4階ボイラー室、日本テレビ、東京駅)/港区(新橋)/台東区(吾妻橋、上野駅)/板橋区(戸田橋)/▲(第二京浜国道)

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