『BANANA FISH』の時系列について

※当然ながらネタバレだらけなので未読の方は要注意。


2018年にアニメ化されたせいもあり、最近『BANANA  FISH』の文字がネットで目につくので、約30年振りに読み返しました。

記憶の中より、ずっとBL寄りだった(連載時の扉絵が)。
記憶の中より、ずっとアッシュの境遇が過酷だった(作者は鬼だな)。

連載時も、アッシュの助命嘆願がたくさん届いたそうですし、アニメから入った人たちも、アッシュの死で病んでしまうくらい、ショックな結末でした。

でも、考えてみるに、アッシュが死んだから、この作品はこれほど多くの人々の心に残ることになったのだと思うと、完璧な終わり方だったと思います。

まあ、それは置いておいて。

ところで、アッシュは英二とどのくらい一緒にいられたのか? と連載当時は考えていなかったことを、30年後に思いまして、色々考察してみました。

すると、時系列で明らかにおかしな箇所が。

それは、番外編の『Private opinion』のアッシュの年齢です。このお話はブランカがアッシュと初めて出会った時のエピソードが描かれているのですが、この時のアッシュの年齢が14歳なのです。

本編は、1985年3月からストーリーが始まり、1987年で終わってます。

そして、アッシュの生年月日は1968年8月12日と明記されています(復刻版:第6巻P6)。

これから逆算すると、ブランカとアッシュの出会いは1982年になりますが、本編の中でブランカが登場したとき(1986年)、ゴルツィネに「4年ぶりになりますね」と言っています(第11巻P183)。そして、アッシュがブランカのことを英二に説明する場面で「2年間、あいつは俺の教師だった』と言ってます(第15巻P113)。

おかしいでしょ?

もし、『Private opinion』の時系列で行くと、ブランカがアッシュに殺人術を教えていた期間が1982年から1984年、つまりアッシュが14歳~16歳までになってしまい、全然久しぶりではない。しかも、ゴルツィネに会ったのは2年振りになってしまう。

もし、『Private opinion』のアッシュの年齢が12歳であるなら(つまり、1980~1982年のあいだ教えてもらった。ショーターと少年院で出会ったのはその後の14,5歳のとき)、すべて整合性がつくのに、なんで14歳にしたんでしょうね?

何か意図があったのか、単なるミスか。
ミスであれば、気づかなかった担当編集者の責任は重いですよ。

連載が長期にわたると、設定に不整合な点が出て来るのはよくあることですし、作中、1985年のハロウィン以降、年月日の明確な記述はなく、服装もずっと同じようなままなので、どの事件がいつ起きたかを曖昧にしてありますが、これも、時系列の不整合性を目立たせないためでしょうね。

という点を踏まえて次に、「アッシュはいつ死んだのか?」について。

2001年に発売された、たぶん編集プロダクションの持ち込み企画っぽい『BANANA  FISH:オフィシャルガイドブックREBIRTH』では、アッシュの死んだ時期を1987年の秋と
考察してます。その理由を「セントラルパークの木々が落葉していないから」とありますが、だったら春先でもいいじゃん。なんでいきなり秋になる? という万人が思う疑問が。

フォックスが部下に作戦を説明しているシーンで「1982年―-今から5年前」と言っているので(第16巻P8)、フォックスとの闘いは1987年になります。ムートンジャケットを着ていたり、ホットウォーター飲んでいることから寒い時期と想定され、前回の事件からの経過を鑑みると、1987年の2月~3月と推測されます。

この頃、英二は襲撃に遭って腹部に銃弾を受ける重傷を負います。

もしオフィシャルブックの推定のように事件から半年以上も経っているなら、英二はいくら重症であったとしても、車椅子が不要になるくらい回復しているはず。でも、番外編『光の庭』でアッシュの訃報を聞いた英二は「傷もよくなっていないのにNYに行った」とあります。

集中治療室に入るほどの銃創であったのなら、飛行機に乗れるようになるまで2か月ほどと見て、英二の帰国は4月~5月頃、つまり、アッシュの死は1987年の4月~5月ではないかと推測します。

この頃でしたら、セントラルパークの緑も芽吹いているし、まだ寒い日もあるので、服装もムートンジャケット着ていてもおかしくない。

余談ながら、NYの冬の気温は0度前後なので、非常に寒いです。夜はマイナスになるので、半袖Tにジャケットだけで走り回っているシンや英二は元気ですね(アッシュは天与呪縛キャラなので論外)。

そうそう、オフィシャルブックでアメリカのビザについて、「90日以上の滞在に必要」とありましたが、1985年当時、アメリカに入国する場合は1日でもビザは必要でした(ビザ免除プログラムの適用開始は1988年12月15日から)。

オフィシャルブックといえば、考察ページの注釈に『マックス・ロボの手記』(KSS出版 :1998年6月1日刊)が引用されていますが、この本って果たして作者の許可を得て出版されたものなのでしょうか? KSS出版って今はもうないし、なぜ原作者の名をアルファベット表記にするのか? そんな怪しい本を引用元にしちゃっていいのですかね?

でもこの本のレーベル名「KSS comic novels」で出されている書籍の原作者がみな小学館の漫画家なので、元小学館で働いていた編集者が伝手で出したのかもしれない。そして、その編集者がオフィシャルブックを請け負った編集プロダクション(奥付を見ると由木デザイン)のスタッフなのかな。

いずれにしても、今だと色々アウトな気がします。

話が逸れましたが、時系列がおかしかろうと、設定に不整合な点があろうと、『BANANA  FISH』が漫画史に残る名作であることには異論はないですし、30年後も嵌らせてくれた作品を生み出してくれた吉田先生に感謝を。


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