〔38〕白頭狸の時務随想 3/11
〔38〕白頭狸の時務随想
目下、政界を騒がせているのは、八年前に二三の総務官僚が作成した「行政文書」が総務省内から国会議員小西ひろゆきに流出した問題である。
小西議員は現内閣の閣僚高石氏に、自分が入手したこの文書(原本でもコピーでもない内容の要旨)を突きつけ、当時の安倍総理と高市総務相が放送法の運営に関して放送会社への規制強化を企んでいた証拠として、責任を追及したのである。
これを巡って、いままさにメデイアは百花繚乱で、その有様を本稿でこれ以上語る必要はないが、聞いていた白頭狸が注目したのは、高橋洋一の解説である。
高橋はこの文書を、郵政省と自治省及び行政管理庁という三つの旧省庁の寄り合い所帯が未だに一本化されてないことから生じた極めて低俗な権限争いが表面化したもので、行政文書に編入したとしてもまともな政治家が見向きもせん下らない紙切れ、と断じた。これぞプロの見識であろう。
高橋は論及しなかったが、この「行政文書」に潜む本当の問題は、官僚が加担した、というより官僚が積極的に行った情報漏洩である。現在の報道でも、公文書の内容を捏造し当路の官僚が、それを恣意的に漏洩したたことが外見的に察知される。
もう一歩掘り下げると、上念司によれば、漏洩疑惑の中心にある三人の総務官僚はすべて小西議員の旧同僚ということである。ウクライナ情勢を巡っては国際情勢とロシア・ウクライナ歴史に関する無知をさらけ出している上念であるが、これは正しい。
知識と情報の境界が個人によって異なるのは自然現象で、白頭狸も例外でない。そもそも小西ひろゆきという議員が存在すること自体、今まで知らかったのである。
たった今知ったが、米紙ニューヨーク・タイムズによると、シリコンヴァレーの新興企業を主たる取引先としてきたシリコンヴァレー銀行が倒産した。シリコンヴァレーの新興企業に他行より高い金利を提示して集めた預金を米国債などに振り向けて運用益を得ていた同行が、一年前からFRBが急ピッチで行った利上げによる長期金利の上昇で評価損が発生した保有国債をやむなく売却したのは、金融引き締めで事業環境が悪化した取引先企業が相次いで申し込んできた預金の解約に対応するためである。
この損切りで約十八億ドルの損失が発生した同行の持株会社が三月八日に損失と増資計画を発表したことで預金引き出しが加速したが、救済する金融機関は現れずに、昨日この措置となった。
さて日本国債を大量に保有する本邦の大小銀行は、日銀が利上げすれば、それに伴う保有国債の評価損に耐え切れず、経営破綻するものが続出するのが眼に見えている。
これぞ昨日退任に伴う記者会見を行った日銀総裁黒田東彦の異次元緩和が遺した負の遺産である。退任に当って黒田は、異次元の金利政策を自ら高評価したが、未曽有の利下げは必ず利上げによる評価損発生のリスクを含んでいるから、黒田の遺した遺産の価値はマイナスと言うよりないのである。
改めて言うが、常軌を逸した低金利政策や、これに対応する国債の過剰発行とそれを支えにする円安政策はいずれも、企業と債務者を不必要に甘やかす麻薬であるから、過剰摂取は必ず後遺症をもたらすのである。