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張作霖問題(6)1/15

〔118〕張作霖問題(6)
 ここで〔115〕の末尾を再掲します。

 陸軍大臣は、十年近く就いていた寺内正毅が朝鮮総督専任になったのを機に次官であった士官学校旧1期の石本新六と交代したが、石本は二個師団増設の政治工作という激務のための疲労で急逝し、その跡を旧3期の上原勇作が継いだ。

 この人事が陸軍省のアルジであった寺内正毅によることは、今考えれば間違いないことだが、その昔に寺内正毅を山縣長州閥の巨頭と観ていた白頭狸は、当時まだ大東社を知らなかったので、陸軍改革運動を推進していた田中義一(旧6期)と宇垣一成(新1期)が長州閥を駆逐するために、反長州派の象徴として上原勇作を担いだのと旧著で説明したのが誤りであった。
 今になって、「陸軍改革運動を裏で糸を引いていたのが、誰あろう寺内正毅その人であった」と白頭狸が思うのは、大東社の存在を知ったからであるが、大東社にこついてここで繰り返す必要はなかろう。
 寺内が陸相に就任した明治三十五年三月の翌月、石本新六は陸軍総務長官を拝命する。この職名は陸軍次官と陸軍法務長官の職務を合併したことから改称したもので、すぐに陸軍次官に戻したが、要するに寺内陸相は自分の補佐役として石本を選び、九年間も据え置いたのである。
 二人の関係を辿れば、陸軍フランス留学生の第一期として明治十二年からフランスに滞在した石本新六中尉は同十五(1882)年に帰朝するが、これと入れ替わりにフランスに到着したのが、閑院宮戴仁親王と随従の陸軍少佐寺内正毅(すぐに中佐進級)であった。
 石本が明治十二年、上原が同十四年にフランスに軍事留学を命じられたのは、「大東社加盟が第一の目的」であったことは諸般の状況からみて間違いない。そもそも二人のフランス留学を決めた陸軍大臣大山巌(草創期)は明治三年に自ら陸軍少将を辞任してフランスとスイスへ私費留学した。その意味を明快に説明した史家を寡聞にして知らぬが、白頭狸は京都皇統から伝授された國體秘事を基に洞察して、その真相をおおよそ突き止めた。
 大山巌の私費留学は幕末に偽装薨去して渡欧した島津斉彬から、大山に対して来欧命令が来たからで、目的は斉彬と同じく大東社に加盟することであった。
 その大山が陸相となり、第一回陸軍フランス留学生として選んだのが石本新六で、姫路酒井藩士の実家は國體奉公衆である。第二回留学生の上原勇作は、國體奉公衆の頭取ともいうべき公家堤哲長の妾で堀川御所の老女となった吉薗ギンヅルの甥であった。
 両人派遣の目的はもとより大東社加盟にあり、アルザスのポンピドー家の娘と秘密結婚してハプスブルク大公一族の女婿となった上原はアルザスに女子を遺して帰国するが、石本も子孫の動向からみて、あるいは同様のことが現地であったのかも知れない。石本の嗣子で男爵を継いだ恵吉が欧州で行方不明になるのも訳がありそうである。 
 明治十五年、フランスに軍事留学する閑院宮戴仁親王に随従して渡仏した寺内正毅は、翌十六年に田島應親中佐(幕臣)を継いで駐仏公使館付武官長となるが、親王と共に大東社に加盟したのはいうまでもない。
 この時寺内は三十一歳、石本は二十九歳と二歳しか違わないが、何しろ寺内は奇兵隊の出身で、維新の志士は政体創業者として格別に待遇されたから士官学校出の石本とはスタートが違い、石本が少尉に任官した時にはすでに少佐になっていた。少尉と少佐では新入社員と課長以上の階級差があったから、その差は半永久的に縮むものではない。
 寺内と石本のフランス滞在はすれ違いになるから、フランスにおける両人の交際については未詳であるが、そもそも戴仁親王と寺内少佐の訪仏目的の一つが大東社加盟とみられるから、寺内と石本は同志として緊密の仲になったことは間違いない。
 明治四十三年八月まで陸相を勤めた寺内は同年十月から朝鮮総督を兼ねたが、翌四十四年八月に朝鮮総督専任になり、後継陸相に次官の石本新六が就いたのは当然の人事である。
 当時の陸軍省は二個師団増設という大問題に直面していた。伊藤博文の暗殺を機に大韓帝国を併合した日本は、朝鮮半島のロシア南下に対する防衛と治安維持のために二個師団を必要とし、陸軍の長老山縣有朋元帥が提出した「帝国国防方針」も二十五個師団体制を主張していた。
 第二次西園寺内閣の陸相となった石本が内閣の方針と陸軍の調整に腐心する激務に堪えず急逝したので上原勇作が後継陸相に就いた。
 明治十四年に第二期フランス留学生として渡仏し同十八年まで滞在した上原は石本とも寺内ともフランス滞在の時期を共有したが、ことに明治十六年から在仏公使館付武官長となった寺内中佐の監督下に入ったから、大東社員の両名に同志的関係が生じたのは当然である。
 石本の跡を継いだ上原は、前代未聞の帷幄上奏により単独辞表を提出して西園寺内閣を倒壊させる(続く)

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白頭狸
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