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炭素除去予算:誰が二酸化炭素除去のお金を出すの?

 気候変動の原因とされる二酸化炭素濃度は確実に高まっています。下記は、気象庁が発表している気象庁の観測点における大気中二酸化炭素濃度及び年増加量の経年変化のグラフです。

Source:気象庁(2024)

 グラフのとおり、日本で観測される二酸化炭素濃度はここ30年ほどで、およそ1.2倍ほどになっています。そしてこの濃度はますます今後増加することが予想されます。日本では2021年1月の通常国会で菅義偉首相(当時)が施政方針演説の中で2050年カーボンニュートラル実現を目指して必要な予算措置をしていくことを宣言。その後さまざまな施策が講じられています。

 そうした中、オックスフォード大学スミス経営環境学院のベン・コールデコット准教授らが、気候変動対策に役立つ新しい「炭素除去予算(CRB)」についての研究論文を今年(2024年)7月に発表しました。

 CRBは、炭素吸収源や炭素吸収技術といった二酸化炭素除去(CDR)能力の利用可能量を評価し、配分し、管理するための一つの概念です。CRBは、温暖化を安定させるために必要なグローバルネットゼロ排出を達成するために重要であり、CDRはその中で不可欠な役割を果たします。しかし、現在のCDR供給量は限られており、技術的および経済的な課題が存在します。また、CDRの実施と負担は地域や主体によって不均等に分布しています。これを公平に配分しつつ、支払い義務をバランスさせるために、CRBによるマネジメントが模索されています。

CRBの配分と支払い義務については、以下の点が考慮されます。

  1. 歴史的排出量に基づく配分:過去の累積排出量に応じてCRBを配分する。この場合、歴史的に多くの排出を行ってきた国やセクター(例:アメリカ、EU、石油・ガス産業)に対してより多くのCRBが割り当てられます。

  2. 一人当たりの排出量に基づく配分:世界人口に基づいてCRBを均等に配分する。この場合、人口が多く一人当たり排出量が少ない国(例:インド)が多くのCRBを持ち、逆に小さな人口で高い一人当たり排出量を持つ国(例:カタール)は少ないCRBを持ちます。

  3. 発展途上国のニーズに基づく配分:発展途上国に対してより多くのCRBを配分し、開発途上のための追加リソースを提供する。ただし、これには発展途上国への資金移転が伴わない限り、実現が難しいです。

  4. 支払い能力に基づく配分:経済的リソースが多い主体に対してより多くのCRBを割り当てる。これは、炭素価格や市場メカニズムを基に調整されることが考えられます。

 CRBは、グローバルネットゼロ目標を達成するために重要なツールであり、その公平な配分と支払い義務の設定が求められます。これにより、各主体が持続可能な方法でCDRを拡大し、温暖化対策を効果的に進めることが可能となります。

 しかし、誰が究極的にこれまでの開発のツケを払うのかという議論は、常に大国間の利害の衝突を見てきました。

 誰もが納得できる結論を得るのは困難が予想されます。しかし、緩やかであっても確実に二酸炭素濃度は上がってきています。どのように、これに対応する資金を、誰が捻出するのか。今後とも模索が続いていくのかもしれません。

Reference
Caldecott, B., & Johnstone, I. (2024). The Carbon Removal Budget: theory and practice. Carbon Management, 15(1), 2374515.

Bibliography
University of Oxford. (2024). Oxford researchers propose ‘Carbon Removal Budget’ to tackle climate change. Available at: https://www.ox.ac.uk/news/2024-08-06-oxford-researchers-propose-carbon-removal-budget-tackle-climate-change (Accessed: 6 August 2024).

※NOTEの内容は、すべて個人の責任で執筆されており、所属機関の見解を示すものではありません。


 

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