藤原新也さんのフジワラ地蔵
2023年1月、世田谷美術館で藤原新也さんの写真展があった。
藤原さんは1970年代から主に海外の旅の写真や文を発表し続けてきた。一貫した姿勢で撮り続け、書き続けていることに説得力があるのだろう。90年代以降はぼくもいろんな国を旅してきて、藤原さんの写真や文に影響を受けてきたと思う。
最終日に行くと、藤原さん本人がいてサイン会をやっていた。ファンというのも変だしサインや握手を求めるのもガラではないが、同行者が望んだので列に並んだ。順番が来てサインが済むと、同行者は遠慮してかすぐに振り返って帰ろうとした。その背に、藤原さんはグイと握手の手を差し出してきた。ホラホラ握手してもらいなよ、とうながすと、藤原さんはぼくにも手を差し出してきた。あたたかく湿り気を帯びた大きな手だった。目の前でニコニコと黙っているので、藤原さんの本はほとんど読んでいます、ぼくもいろんなところを旅してきましたみたいなことをいうと、遊び仲間を見るような澄んだ目で微笑んでいた。背を向けられても手を差し出そうとする、暖かく柔らかい大きな手は、写真や文から伝わる藤原さんそのものだった。
…というわけでスマホに藤原さんの写真が残った。そう、地蔵とはあんな感じかもと思い、藤原さんの著書「メメント・モリ」にならって一言入れてみた。