【24/10/2】メンヘラ女の通常運行
「おはよー!今日の前髪めっちゃきれーにできたの、どぉ?!」
元気に響く、やや低めの、だけど元気いっぱいなTHE・JKボイス。
このやや低めなところがまた憎めない、聞き心地の良い発声。
ガターン!とこれまた元気な音を立てながら、自席の椅子をひっくり返す勢いで引いたかと思えば、スライディング着席をかます。
そして目の前の席に座る私の方へと、これでもかというほど前のめりに乗り出してくるのだ。
「ここ、ここ!昨日は2、3本飛び出てる毛がまじで萎えポイントだったんだけどさぁ」
右頬にかかる黒髪ロングのストレートヘアーをかきあげ、左手で前髪の真ん中らへんをつまみながら元気に話を続ける。
今日の彼女はずいぶんとご機嫌だ。
彼女は自他ともに認めるメンヘラ女子。気分の浮き沈みが本当に激しい。
とはいえ人に気を使えるメンヘラなので沈んでいるときでも周りはアーアーと生あたたかい視線で見守っているくらいには、世の中になじめているメンヘラだ。
「今日、いつもとリップが違うね?」
私は彼女の、いつもよりも光沢感のある赤みを帯びた唇を見た。
「ええさすが!わかる?昨日やっと買えたのリプモン!」
「ちょっと遅いね」
「ずっとセザンヌだったから他も使ってみたかったんだよ~」
セザンヌの500円リップもいいけどね。サテンっぽい光の感じが好きよ。
なんて私のつぶやきはすでに耳に入っていない彼女は、おもむろに取り出した鏡で相変わらず前髪をいじっている。
ひょ、と鏡の横から顔を出し、言った。
「リップの色、おそろいにしたかったからこれにしたんだよ」
あんたとね、と猫のように目を細めた笑顔を見せた後、鏡の向こうに顔を引っ込める。
まったく。
まったくさぁ。
(……好きよ)