緊急時 重要問題についての合意が、どういった過程で形成されるかを知るのに良い資料
元文部科学技官が福島第一原発事故での放射能問題と除染に携わった実体験をベースに研究者の葛藤を活写した渾身の作!
第4回「エネルギーフォーラム賞」受賞作
作品紹介
平成23年3月11日(金) 午後2時46分 三陸沖の海底を震源とするマグニチュード9.0の地震が発生しました。東日本大震災です。これにより東京電力福島第一原子力発電所で発生した原子力事故への対応が、専門家の視点から描かれています。当事者の視点で描かれている為、焦点はごく限定的です。
当初 私は福島第一原発事故のドキュメンタリー作品(あるいは小説・パニック小説)だと思って、手に取ったのですが、それは誤解でした。
確かにドキュメンタリー的な側面は強いのですが、それより「意思決定のプロセス」を比較的わかりやすく描いた作品だと理解した方が良さそうです。
株式会社エネルギーフォーラム
1955年1月 創業者 酒井節雄氏が電気事業の健全な発展を通じて国民の福祉向上に貢献することを目的に株式会社 電力新報社を創立し、月刊「電力新報」を創刊しました。その後、同社は月刊「エネルギーフォーラム」として展開され、我が国のエネルギー問題に関する唯一最高の権威ある総合誌
となりました。
この作品は「ALARA(アララ)の原則」(放射線防護の最適化原則)を、関係者に受け入れさせるまでの議論と経緯を描いています。
表題の「1ミリシーベルト」とは、食品の安全基準や工程の被ばく基準である「放射性セシウムの基準値」について「ALARAの原則」を適用し「平常時の年間20ミリシーベルトという基準から緊急時の基準 年間1ミリシーベルトに引き下げたこと」を指したものです。
※アララ【ALARA】の解説《as low as reasonably achievable》
国際放射線防護委員会が1977年の勧告で示した放射線防護の基本的な考え方を示す概念で、「合理的に達成可能な限り低く」を意味する略語。放射線を利用する場合、社会的・経済的要因を考慮しながら、人体への被曝をできるだけ少なくするよう努力することを意味する。→放射線防護の三原則
感想(まとめ)
緊急時においては子を持つ親など一般生活者、政治家、科学者に代表される専門家の見解が飛び交います。特に放射能について正しく理解している者は少ないのが実情です。更にメディアによる偏向的報道により、政治家や、一般生活者が正しい判断を下すことは非常に困難です。またこの本で扱われている問題は非常に限定的、かつ専門用語も多く、なおさら理解しがたいものとなっています。(官僚的視点に基づいた作品)
SPEEDIの不使用、指定廃棄物、減容施設、限定された除染、避難に係る賠償の範囲など 次々と問題が発生する中、不安に晒される一般生活者に「ALARAの原則」を受け入れさせるのは至難の業だったでしょう。
被曝リスクに過剰反応するあまり例えば「高齢者を住み慣れた環境から引きはがしたことで寒さと孤独の中で死に至らしめたケース」が存在します。
「被災リスク」は放射能による被曝のみならず「総合的に判断しなければならない」ということです。
ただ『緊急時 重要問題について、政府や、専門家による合意がどういった過程で形成されるかを知るには、良いテキストになっている』と思いました。(それ以上でも、以下でもありません)
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