20話
アカシは小さなテーブルを挟んで、目の前の綾女の顔を見つめた。彼女は穏やかな表情ながらも、どこか鋭い目をしている。
「交渉とは?」とアカシは肩をすくめて尋ねた。
綾女は微笑みながら答えた。
「あなたに協力してほしいの」
「協力?」
「私の娘のことよ。見た目の通り、美しい子なの。大学内でも人気があってね、噂じゃファンクラブまであるとか……。でも、実際にナンパされたり、ストーカー被害に遭ったりして困っているの。」
「それで?」アカシは眉をひそめる。
「あなたの能力を使って、その脅威から娘を守ってほしいの。これが、私のお願いよ。」
「俺が……ボディガード?」
「ええ、そんなところね。だから娘とは一緒に住んでほしいの。」
アカシは驚いた表情で言った。
「一緒に住むって……その娘さんの意思は?無理矢理じゃないのか?」
綾女は軽く笑った。
「大丈夫よ。さっき話をして、本人も承諾してくれたわ。」
「あっさりだな……」アカシは少し拍子抜けしたが、何か裏があるのかと勘ぐった。
綾女はさらに言葉を続けた。
「それに、家も引っ越してもらうことになるわ。指定した場所で暮らしてほしいの。その生活費や必要なものはこちらがすべて負担するから安心して。」
アカシは少し考え込んだ。能力を使って守るだけなら、そう難しいことではない。しかも、生活費もすべて持ってもらえるとなれば、自分にとっても悪い話ではない。
「わかった。協力しよう。」
「ありがとう。」綾女はほっとしたように微笑んだ。
具体的な話し合いを終え、アカシは帰り道を歩いていた。今日一日、いろいろなことがあったが、ひとまず大きな問題は解決したように思える。
「これからどうなるかはわからないけど……まあ、なんとかなるだろ。」
彼はそう自分に言い聞かせながら、夜道を一歩ずつ踏みしめていった。
だが彼はこの時は思わなかった。
これは今後の騒動の始まりであったこのに。