2023.7.15 中嶋勝彦vs宮原健斗
共に佐々木健介を師と仰ぎ、健介オフィスでデビューし、かつては先輩後輩の関係だった2人。18歳でできた初めての先輩として嫌でも意識せざるを得ない。しかし宮原健斗は全日本へ。かたや中嶋勝彦はNOAHへと袂を分ち関係は断絶。自分の道を信じて進み、共に団体の頂点に立ち、顔になった2人が10年の時を経て再び出会う。武藤敬司が引き寄せた2.21東京ドームの邂逅でなにを思うのか。そしてこのシングルでお互いに、なにが見たいのか。見せたいのか。そこにある2人の感情とはいったいなんなのか。
まだこの日の対戦カードは、このワンマッチしか発表されてない段階にも関わらずチケットはソールド。この一戦に対する世間の注目、そして期待はやはり相当なものだった。「満場一致で最高の男」宮原健斗は敵地NOAHのリングでも最高であり続けられるのか。そもそもプロレス、エンターテイメントに対する考え方の違いを説く宮原健斗。どっちが上か下か。真っ直ぐぶつけるよ、リング上は。そう話した中嶋勝彦。不仲説も囁かれる2人の禁断の再会。健介オフィス以来10年ぶりのシングルマッチ。
中嶋勝彦は先輩で格上だったが、それは10年も前のあくまで昔の話。満員の後楽園ホールに響き渡る大健斗コール。アウェイにも関わらず、最高の男は入場時から今の自分の立ち位置を見せつける。万雷の健斗コールが10年間で登ったその高さを嫌でもわからせる。
一方、中嶋勝彦もかつての先輩として、NOAHのトップとして引くわけにはいかない。持ち前の強烈な蹴りで試合の流れを掴みにいく。R15で過去の扉を開くとそのまま場外で宮原を痛めつける。
我が強い男は場外でやられたことは、相手にもやらないと気が済まない。試合中も会場を味方につけ巻き起こす健斗コール。なかでも場外でのヘッドバット3連発からの三三七拍子に乗せた宮原健斗コールの流れは圧巻の一言。しかし宮原に傾きかけた世界観をコーナーでの4連続のシャッタータイムで再び五分に戻す。ここでは、お互いに10年前とは違う姿をみせる。
勝彦がドラゴンスクリュー、膝へのエルボー、鋭いローキックの3連続足攻めで布石を打ち、監獄固め。対する宮原はエプロンでのパイルドライバーと健介オフィスの扉を開けはじめた。戦いはここから一気に加速する。バックドロップにラリアット。かつての師を彷彿とさせる攻防へ。しかしお互いカウント1も入れさせない一進一退の攻防が続く。
「こいよ健斗、打ってこい」そう叫ぶ勝彦はあくまでも格上、先輩のスタンスを崩さず。エルボーの硬さで増す説得力。10年経ってお互い背負うものができたが、どこか兄弟喧嘩を見ているかのようなエルボー合戦から蹴りの打ち合いへ。絶対に引けない、負けたくない気持ちの戦いに突入する。ここでもお互いの打撃の硬さはさすがの一言。この2人にしかできない戦いがそこにはあった。終止符を打ったのは勝彦の強烈な胸へのミドル。起き上がれない宮原に馬乗りになり1発で試合が決まりそうなエルボーを叩きつける。何度も何度も叩きつける姿は、健介オフィス時代の序列を思い出させるかのようなかわいがりにもみえる。過去を思い出させ心を折りにいく。しかし何度打撃を食らっても立ち上がり続ける宮原の姿に、中嶋勝彦の後輩ではなく、全日本プロレスのトップに立つ男の姿をみた。それはやはり、紛れもなく満場一致で最高の男に相応しい姿だった。
意地で掟破りのバーティカルスパイクを返すとここから宮原のタフさが光る。さっきまで打たれてまくっていたのが嘘のように光を取り戻す。30分をこえて超えて、あれだけやられて、どうしてここまで動けるのか。ラリアット、そしてブラックアウト(膝)を叩き込む。ここにきて宮原の勝ちまでみせれるのは本当に凄かった。
しかし張り手一閃。からのぶった切りキック、バーティカルスパイクで宮原の意識を刈り取り3カウント。先輩として、NOAHとして、アニキとして中嶋勝彦は中嶋勝彦を貫き通した1戦だった。
2人が見せたかったのは過去ではなく現在か。
果たしてこの2人の戦いはワンナイトドリームでおわるのか。はたまた続きはくるのか。中嶋勝彦の言葉を借りるなら「プロレスはなにが起こるかわからないからおもしろい」