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魚に変える

 トーが云うには私が三歳のとき人形を斧にしたのが最初だったらしい。
「たまげたよね。いつの間にか部屋にでっかい斧があるんだもん」
 その年は森で金の角の鹿が見つかったり、ダイダラポッタラに隣の国が踏み潰されたり、街の外れに住んでた男の家からが出て季節外れの雪が降ったりしたらしい。
「ほんと怪我しなくてよかったよ」とトーは云った。「ほんとに」
 私には物を他の物に変える力がある。それは例えばリンゴをバナナに変えたり、蛇を石ころに変えたり、もっといえば水筒をホッケースティックにしたり、便箋を毛糸の手袋に変えたりできた。自分の思い通りに物を変えることはできない。必ずリンゴがバナナになるわけでもない。(リンゴを濡れた靴下に変えてトーにこっぴどく怒られたことがあるのだ)けれどもみんなこの力を面白がってくれるし、私もこの力を楽しんでいた。誰にもない私だけの力だから。

 部活終わり、ソポクラが商店街の歩道を横切ろうとしていたカマキリを指でつまんで、ねえニッコこれ変えてみてよ、と云った。
「かわいそうじゃん」
「でも蛇を石ころに変えたんだろ?」
「あれは家に入ってきたから仕方なく……」
「いいから、いいから」ソポクラは笑ってカマキリを地面に置いた。彼女の機嫌を損ねると後で面倒臭い。私は仕方なしにカマキリを見つめた。するとカマキリは風船のように薄い膜状に膨らんでパチパチと音を立てた。カマキリの風船は猫くらいの大きさまで膨れ上がると、パチンッと音を立てて割れた。カマキリはになった。
 うわっ、とソポクラがのけぞる。魚はびちびちと地面にのたうって、跳ね回って、とうとう動かなくなった。
 レンズのように丸い目を空に向けて動かなくなった魚を私たちは見下ろしていた。魚の生臭さが鼻に届いて息がしづらくなった。魚は虚空を見つめている。ソポクラはなんにも云わなかった。

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