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【公務員必見!】市民の心をつかむ! 成功する自治体広報の新常識~先進自治体の実践事例から学ぶ効果2倍の広報戦略~

はじめに~効果的な自治体広報の重要性について

 「広報」という言葉を聞いたとき、多くの方々は「行政からのお知らせを伝えるだけのもの」というイメージをお持ちかもしれません。しかしながら、実際の広報活動には、それ以上の大きな可能性と重要な役割が秘められています。 
 広報とは、自治体と市民の皆様をつなぐ重要なコミュニケーションツールです。適切な広報活動を通じて、市民の皆様に「この情報は私の生活に役立つものだ」「私たちの地域にはこのような素晴らしい特徴があるのか」といった気づきを提供できることは、自治体職員として最も喜ばしい瞬間の一つと言えるでしょう。 
 ここで重要なのは、単に情報を「発信する」だけではなく、その情報が確実に「届く」ようにすることです。そのためには、市民一人ひとりの立場に立って、それぞれの方々の関心事や生活様式を理解し、心に響く形で情報をお届けする必要があります。これこそが「伝わる広報」の本質なのです。  
 具体例を挙げますと、首都圏のA市では子育て支援情報の発信において、従来の広報誌による情報提供に加えて、携帯のショートメッセージ(SMS)を活用し、育児に関する具体的なアドバイスや地域の子育てイベント情報を、親しみやすい言葉で発信することで大きな反響を得ています。
 また、関東の中核市Bでは、情報伝達手段の充実を図るため、X(旧ツイッター)(名称:地域防災ナビ~X)による情報配信を行っています。配信内容は、防災行政無線の情報やその他防災に関する情報で、市民の方々の防災意識向上に貢献しています。
 本書では、このような「伝わる広報」を実現するための具体的な方法論や実践的なテクニックについて、豊富な事例とともにご紹介してまいります。 広報担当の方々はもちろんのこと、管理職の方々、若手職員の皆様など、自治体で働くすべての方々にとって参考となる内容を心がけました。組織全体で力を合わせ、市民の皆様により良い情報をお届けできる「伝わる広報」の実現に向けて、共に歩んでいければ幸いです。
 以降の章では、情報発信の手法や効果測定の方法、市民との対話の進め方など、より具体的な実践方法についてお伝えしてまいります。

1.変化する情報環境と市民ニーズの理解

 私たちが「伝わる広報」を実践していく上で、最も重要な第一歩は、情報の受け手である住民を取り巻く情報環境の変化を正確に理解することです。 近年、情報通信技術の急速な発展により、住民の皆さんの情報収集方法は大きく様変わりしています。総務省の情報通信白書によりますと、2020年には1日あたりのインターネット利用時間がテレビ視聴時間を上回る・・・情報メディアの歴史における大きな転換点を迎えているといえます。また、スマートフォンの世帯保有率は約90%に達し、あらゆる年齢層において、手のひらサイズの端末が主要な情報収集ツールとなっています
 一方で、従来の情報伝達手段であった新聞の購読率は、特に若い世代を中心に減少傾向にあります。私の同僚でも、特に20代の若手職員の中には、日常的に新聞を読む習慣を全く持たない職員も少なくありませんでした。
 このような中で、新たな情報伝達プラットフォームとして台頭してきているのが、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)です。特にLINEは10代から70代まで幅広い年齢層で利用率が95%を超え、世代を超えた情報共有ツールとして定着しています。また、InstagramやTikTokといった視覚的なコンテンツを中心としたSNSも、若年層を中心に急速に普及しています。
 具体的な成功事例として、大都市圏の政令市Cの取り組みをご紹介させていただきます。この政令市Cでは、公式LINEアカウントを開設し、防災情報や行政サービスの案内、イベント情報などを、プッシュ型で配信する仕組みを構築しました。特筆すべきは、単なる一方向の情報発信にとどまらず、チャットボット機能を活用して市民からの問い合わせにも対応できる双方向のコミュニケーション体制を整えた点です。この取り組みにより、従来の広報では十分にリーチできていなかった若い世代との接点が大きく増加し、行政サービスの認知度向上にもつながっています。
 また、首都圏近郊の中核市Dでは、市の公式YouTubeチャンネルを活用し、市政情報や地域の魅力を動画コンテンツとして発信しています。特に、市長自らが出演する市政報告や、職員が地域の名所を紹介する観光PR動画は、従来の文字情報では伝えきれなかった魅力を視覚的に伝えることに成功し、高い視聴回数を記録しています。
 このように、市民の皆様の情報収集手段が多様化する中で、自治体の広報活動もまた、従来の手法に固執することなく、時代に即した新しいアプローチを積極的に取り入れていく必要があります。
 そのためには、まず各自治体において、以下のような点を丁寧に調査・分析することが重要です:

◯地域における年齢層別のメディア利用状況

◯各種広報媒体の到達率と効果測定

◯住民からの情報ニーズの把握

◯新しい情報発信ツールの費用対効果の検証

 これらの分析結果に基づき、従来の広報手段と新しい媒体をバランスよく組み合わせた、効果的な情報発信戦略を構築していくことが、「伝わる広報」実現への第一歩となるのです。

2.効果的なターゲティングと受け手の視点に立った情報発信

 効果的な広報活動を実現する上で、最も重要な要素の一つが、情報発信の対象者を明確に定め、その方々の視点に立って情報を届けることです。この考え方の重要性は、民間企業のマーケティング手法の発展からも裏付けられています。
 総務省「令和4年版情報通信白書」によれば、生活者の情報収集行動は年齢層や生活環境によって大きく異なることが明らかになっています。例えば、20代では1日あたりのスマートフォン利用時間が平均4時間を超える一方、60代以上ではテレビや新聞からの情報収集が依然として中心となっています。
 従来の行政広報では、「市民全般」という漠然とした対象に向けて、行政側の視点から一律的な情報発信を行う傾向が見られました。しかしながら、このアプローチでは、情報が本当に必要な人に十分に届かないという課題がありました。実際、複数の自治体が実施した広報効果測定調査によると、広報誌やホームページの認知度は高いものの、内容の理解度や活用度は必ずしも高くないことが報告されています。
 この課題を解決するために重要となるのが、情報の受け手となる対象者の細分化(セグメンテーション)とペルソナ(仮想的な対象者像)の設定です。マーケティングの基本原則として知られるSTP(Segmentation:細分化、Targeting:標的設定、Positioning:位置づけ)の考え方を行政広報に応用することで、より効果的な情報発信が可能となります。
 具体例として、子育て支援策の情報発信を考えてみましょう。単に「子育て世帯向け」という大きな括りではなく、以下のように具体的なペルソナを設定します:「都内在住の32歳女性。IT企業で働くプロジェクトマネージャー。第一子(2歳)の育児中で、夫も正社員として働く共働き世帯。保育園の送り迎えと仕事の両立に悩んでおり、子どもの急な発熱時の対応に不安を感じている。情報収集は主にスマートフォンで行い、通勤時や子どもの就寝後にSNSをチェックする習慣がある。」
 このように具体的なペルソナを設定することで、以下のような具体的なインサイトが得られます:

・情報発信のタイミング(夜間や通勤時間帯)

・最適な情報伝達手段(スマートフォン対応のSNS)

・重点的に伝えるべき内容(病児保育サービス、ファミリーサポート制度など)

・効果的な表現方法(簡潔で要点を押さえた文章、図解による説明)

 実際の成功事例として、近畿圏の政令市Eの子育て支援サイト「子育てポータル」が挙げられます。このサイトでは、徹底的なユーザー調査に基づき、子育て世帯の生活動線に沿った情報設計を行っています。
具体的には:

 ◯ライフステージ別の情報整理

妊娠期:妊婦健診助成、出産準備教室など

乳児期:予防接種スケジュール、離乳食教室など

幼児期:保育所入所案内、一時保育情報など◯利用シーンに応じた機能提供

緊急時対応:24時間対応の医療機関検索

外出支援:授乳室・おむつ替えスポットMAP

生活支援:各種助成制度の申請書ダウンロード◯信頼性の向上

実際の利用者による体験談の掲載

子育て支援員による監修コンテンツ

行政・医療機関・支援団体の連携情報

 この取り組みの結果、サイトの利用者アンケートでは90%以上が「役立つ」と評価しているといいます。
 また、別の成功事例として、九州地方の政令市Fの高齢者向け情報発信が挙げられます。同市では、高齢者の生活実態調査を踏まえ、以下のような工夫を行っています:

 ◯情報の多層的な提供

広報誌:大きな文字で読みやすいレイアウト

地域包括支援センター:対面での詳細説明

町内会回覧:地域に密着した情報提供◯家族を介した情報伝達

子世代向けのSNS発信

民生委員との連携による見守り情報の共有

 このように、ターゲットを明確に定め、その特性に応じた情報発信を行うことで、行政サービスの認知度と利用率の向上につながっています。
 重要なのは、このようなターゲティングとペルソナ設定が、決して一部の市民を排除することではないという点です。むしろ、それぞれの対象者に最適な方法で情報を届けることで、すべての市民がより確実に必要な情報にアクセスできるようになります。
 今後は、デジタル技術の進展により、よりきめ細かなターゲティングと情報提供が可能になると予想されます。例えば、AIを活用したパーソナライズド情報提供や、位置情報と連動した地域特性に応じた情報発信なども検討に値するでしょう。ただし、その際には個人情報保護やデジタルデバイドへの配慮も忘れてはなりません。
 このように、効果的なターゲティングと受け手の視点に立った情報発信は、これからの行政広報において、ますます重要性を増していくものと考えられます。

3.現状把握と効果測定に基づく継続的な改善

 効果的な広報活動を展開するためには、現状の広報活動の到達度や効果を客観的に把握し、継続的な改善を図ることが不可欠です。民間企業のマーケティングでは「PDCAサイクル」という考え方が定着していますが、自治体の広報活動においても同様のアプローチが重要となっています。
 広報活動の効果測定において、最も重要となるのが適切な評価指標(KPI:Key Performance Indicator)の設定です。評価指標は大きく「定量的指標」と「定性的指標」に分類されますが、これらを組み合わせることで、より包括的な効果測定が可能となります。
 デジタル媒体における主要な定量的指標として、ウェブサイトの総ページビュー数とユニークユーザー数、平均滞在時間とページ離脱率、さらには検索キーワードとアクセス経路の分析などが挙げられます。SNSにおいては、フォロワー数や投稿の到達度、エンゲージメント率などが重要な指標となります。また、メールマガジンであれば、開封率やクリック率が有効な指標となるでしょう。
 一方、従来型の紙媒体においても、広報誌の配布部数や配布率、アンケートによる認知度と閲読率、記事の理解度と活用度など、様々な指標を活用することができます。さらに、コールセンターへの問い合わせ件数やFAQの参照回数、各種申請手続きの利用件数なども、広報活動の効果を測る重要な指標となります。 これらの指標を効果的に測定・分析するためには、適切なツールの活用が欠かせません。例えば、ウェブサイトの分析においては、Google Analyticsが広く活用されています。同ツールを用いることで、訪問者の属性(年齢、性別、地域)、アクセス時間帯、閲覧デバイス、ページ遷移のパターンなど、詳細なデータを取得することが可能となります。
 しかし、数値データだけでは明らからない部分も多々あります。そのため、市民アンケートやフォーカスグループインタビュー、SNSでの反応分析など、定性的な評価も併せて実施すること重要です。これにより、利用者の生の声を収集し、より深い洞察を得ることができます。 
 東京都では、調査会社に依頼し、都の調査であることを伏せて重点政策の印象について都民の皆さんにご意見を伺うグループインタビューを年度後半に実施していました。私たち職員もオンラインで耳だけ参加させていただくのですが、耳の痛い意見が次々と出てきて、大変勉強になります。
 実際の成功事例として、中部地方の県Gの取り組みは特筆に値します。同県では、Google Analyticsによる詳細なアクセス解析やヒートマップツールによるユーザー行動分析、さらには市民3,000人規模のウェブアンケート実施など、多面的なアプローチで現状分析を行いました。その結果、スマートフォンからのアクセスが60%を超える一方でモバイル対応が不十分である点や、検索機能の精度が低く目的の情報にたどり着きにくい点など、具体的な課題が明らかになりました。
 これらの課題に対し、G県ではモバイルファーストの設計思想採用やAI搭載の検索エンジン導入、利用者視点での情報アーキテクチャの再構築、さらにはやさしい日本語ガイドラインの策定と適用など、包括的な改善を実施しました。その結果、サイトの平均滞在時間が2.1倍に増加し、ページ離脱率が15%減少、検索キーワードのマッチ率が30%向上するなど、顕著な改善効果が確認されています。
 効果測定に基づく改善を成功させるためには、まず明確な目標設定が重要です。例えば、公式ウェブサイトの月間アクセス数を前年比20%増加させることや、SNSフォロワー数を1年間で10,000人増加させること、広報誌の認知度を90%以上に向上させることなど、具体的な数値目標を設定することで、施策の方向性が明確になります。
 また、測定サイクルの確立も重要です。アクセス数や問い合わせ件数は日次で、SNSエンゲージメント率や検索キーワード分析は週次で、ページビュー推移やコンテンツ別閲覧状況は月次で確認するなど、指標に応じて適切な測定頻度を設定することが効果的です。
 さらに、収集したデータを組織内で共有し、関係者全員が現状と課題を理解できるようにすることも重要です。ダッシュボードツールを活用した可視化や定期的な報告会の開催により、組織全体での課題認識の共有と改善への取り組みを促進することができます。
 今後の展望としては、AIやビッグデータ分析の活用による、よりきめ細かな効果測定と改善が期待されます。AIによる自然言語処理を活用した市民の声の分析や、位置情報データを活用した地域別の情報到達度分析、予測分析による効果的な情報発信タイミングの最適化など、新たな可能性が広がっています。
 ただし、効果測定にあたっては、個人情報保護やプライバシーへの配慮を忘れてはなりません。また、数値目標の達成にとらわれすぎず、本質的な市民サービスの向上という観点を常に意識することが重要です。このように、科学的なアプローチに基づく効果測定と継続的な改善は、これからの自治体広報において必要不可欠な要素となっています。効果測定を通じて得られた知見を着実に積み重ね、より効果的な広報活動の実現に向けて、組織全体で取り組んでいくことが求められています。

4.多様な広報ツールの戦略的活用による相乗効果の創出

 現代の自治体広報において、多様な広報ツールを効果的に組み合わせることは、市民への確実な情報到達を実現するための重要な戦略となっています。一般財団法人地方自治研究機構の「自治体広報戦略のあり方に関する調査研究」(2024年)によれば、市民の情報収集手段は従来の広報紙やテレビ・ラジオから、ウェブサイトやSNSなどのデジタルメディアへと急速にシフトしており、この傾向は特に若年層において顕著です。しかしながら、高齢者層では依然として従来型メディアへの依存度が高く、世代による情報収集手段の二極化が進んでいます。
 このような状況下で、各広報ツールの特性を深く理解し、それらを戦略的に組み合わせることが、より効果的な情報発信につながります。まず、自治体のウェブサイトについて考えてみましょう。ウェブサイトは豊富な情報を体系的に提供できる優れたプラットフォームです。関東の中核市Hの事例は特に注目に値します。同市では、従来の組織別構造から、「子育て」「福祉」「防災」といったライフイベント別の情報構造に再編成し、さらにAI chatbotを導入することで、市民が必要な情報に素早くアクセスできる環境を整備しました。この取り組みにより、サイトの利用満足度は導入前と比べて35%向上したとされています。
 次に、SNSの活用について見てみましょう。SNSは即時性と拡散性に優れ、特に緊急情報の発信に効果を発揮します。首都圏の特別区Iでは、TwitterとLINEを連携させた災害情報発信システムを構築しています。避難所開設情報や被害状況など、緊急性の高い情報をリアルタイムで発信し、さらにLINEの位置情報機能と連携することで、ユーザーの現在地に応じた最適な避難所情報を提供することに成功しています。この取り組みは2022年の大規模水害時に真価を発揮し、避難指示の伝達率が従来比で2倍以上に向上したと報告されています。
 広報紙については、デジタル時代においてもなお重要な役割を果たしています。近畿圏の中核市Jでは、今年12月に従来の広報紙を完全リニューアルし、写真やイラストを多用した視覚的に分かりやすいデザインを採用。さらに、記事中にQRコードを配置し、ウェブサイトやSNSの詳細情報へと誘導する仕組みを構築しました。この「クロスメディア戦略」により、広報紙読者の約40%がデジタルコンテンツへアクセスするという成果を上げています。  
  動画コンテンツの活用も、近年急速に広がっています。関東の政令市Kでは、YouTubeチャンネルを開設し、市政情報や地域の魅力を動画で発信しています。特に注目すべきは、地元の高校放送部と連携した地域PR動画の制作です。若者目線での街の魅力発信により、チャンネル登録者の約60%が10代から30代という、従来の広報では reach が難しかった層へのアプローチに成功しています。
 メールマガジンも、ターゲットを絞った情報発信に効果を発揮します。首都圏近郊の中核市Lでは、子育て、防災、イベントなど、20以上のカテゴリー別メールマガジンを展開。利用者が必要な情報のみを選択して受信できるシステムを構築し、開封率は平均70%を超える高水準を維持しています。 
  これらの多様な広報ツールを効果的に連携させている好例として、九州地方の政令市Mの取り組みがあります。同市では「クロスメディアマトリックス」という独自の方法論を開発し、情報の種類や緊急性、対象者の特性に応じて最適な媒体の組み合わせを選定しています。例えば、新型コロナウイルスのワクチン接種に関する情報発信では、以下のような段階的なアプローチを採用しました。
 まず、広報紙で接種の概要と重要性を丁寧に解説し、ウェブサイトには詳細な実施要領や FAQ を掲載。LINE やXでは予約開始日や空き状況をリアルタイムで発信し、YouTubeでは接種会場の様子や手順を動画で紹介。さらに、地域FMラジオと連携して高齢者向けの情報提供を強化するなど、各メディアの特性を活かした総合的な情報発信を展開しました。その結果、接種率は全国平均を大きく上回り、市民からの問い合わせも効率的に処理できたと報告されています。
 四国の中核市Nでは、デジタルサイネージを活用した新しい試みを展開しています。市内の主要駅や公共施設に設置したデジタルサイネージを、他の広報媒体と連動させることで、場所や時間帯に応じた最適な情報提供を実現しています。例えば、通勤時間帯には交通情報や気象情報を中心に表示し、日中は子育て支援情報やイベント情報を、夕方以降は防犯情報や防災情報を優先的に表示するなど、きめ細かな情報提供を行っています。
 北陸地方の中核市Oでは、伝統的な町内会の回覧板システムとデジタル技術を融合させた「デジタル回覧板」を導入しています。従来の回覧板による情報伝達の確実性と、デジタルツールの即時性を組み合わせることで、特に高齢者の多い地域における情報到達率の向上に成功しています。
 このように、多様な広報ツールを戦略的に組み合わせることで、より効果的な情報発信が可能となります。しかし、忘れてはならないのは、これらのツールはあくまでも手段であり、目的は市民への確実な情報到達と理解促進にあるということです。各自治体の特性や市民のニーズに応じて、最適な媒体ミックスを検討し、継続的な改善を図っていくことが重要です。
 今後は、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)といった新技術の活用も期待されます。既に、関西の観光都市Pでは、観光案内にARを導入し、歴史的建造物の解説や観光ルートの案内を行う実証実験を開始しています。このように、テクノロジーの進化に伴い、広報ツールの可能性は更に広がっていくことでしょう。
 これからの自治体広報には、従来型メディアとデジタルメディアのベストミックスを追求しながら、市民一人ひとりに寄り添った情報発信を実現することが求められています。そのためには、各広報ツールの特性を深く理解し、それらを効果的に組み合わせていく戦略的な思考が不可欠となるのです。

5.市民との対話を通じた行政サービスの質の向上


 「伝わる広報」の究極の目的は、市民の生活の質を向上させ、より魅力的な地域社会を築くことにあります。地方自治法第1条の2が示すように、地方公共団体は住民の福祉の増進を図ることを基本とし、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担っています。この役割を効果的に果たすためには、広報活動を通じて得られた市民の声を、実際の施策の改善に活かしていく仕組みづくりが不可欠です。
 総務省の「地方自治体における住民参加の実態調査」(2023年)によれば、近年、市民との対話を重視する自治体が増加傾向にあり、特にデジタル技術を活用した新しい対話の形が注目されています。従来型の対話手法に加えて、オンラインプラットフォームの活用やソーシャルメディアを通じた双方向のコミュニケーションが活発化しています。
 先進的な事例として、湘南地域の中核市Qの「デジタル市民会議」が挙げられます。同市では、従来の対面式の市民会議に加えて、オンライン会議システムとデジタル投票システムを組み合わせた新しい市民参加の仕組みを構築しました。特筆すべきは、参加者の年齢や職業に偏りが出ないよう、無作為抽出による市民選出を行っている点です。また、会議の様子はリアルタイムで配信され、視聴者からのコメントも随時受け付けています。この取り組みにより、従来は参加が難しかった子育て世代や就労世代の意見も広く集められるようになり、より包括的な市民対話が実現しています。
 首都圏の特別区Rでは、「地域ソーシャルリスニング」という独自の取り組みを展開しています。SNS上での市政に関する書き込みや意見をAIで分析し、市民ニーズの把握や課題の早期発見に活用しています。例えば、公園の整備に関する市民の不満がSNS上で増加していることを察知し、速やかに現地調査と改善を実施するなど、市民の声にタイムリーに対応することに成功しています。
 近畿圏の中核市Sの「地域ミライラボ」は、市民と行政が共に未来の街づくりを考える実験的なプラットフォームとして注目を集めています。このプロジェクトでは、市民、企業、大学、行政が協働で地域課題の解決に取り組んでいます。例えば、高齢者の買い物支援をテーマにしたワークショップでは、地域の大学生が高齢者へのインタビュー調査を実施し、その結果を基に地域スーパーマーケットと連携した移動販売サービスの試験運用につながりました。
 九州地方の政令市Tでは、「1万人の声を聴く市民総参加事業」を展開しています。従来のアンケートやパブリックコメントに加えて、市内100カ所での出張市民対話集会、オンラインフォーラム、SNSを活用した意見収集など、多様な手法を組み合わせて市民の声を広く集めています。特に注目すべきは、集められた意見をオープンデータとして公開し、その対応状況を定期的に更新している点です。この透明性の高い運営により、市民からの信頼度が向上し、参加者数も年々増加しているとされています。
 中部地方の政令市Uの「デジタル市民室」は、行政手続きのオンライン化に関する市民の意見を継続的に収集し、サービス改善に活かしている好例です。利用者がシステムの使いにくい点を報告できる「改善提案ボタン」を各手続き画面に設置し、寄せられた意見を毎月の改善会議で検討しています。この取り組みにより、オンライン手続きの完了率が導入前と比べて25%向上したと報告されています。
 近畿圏の中核市Vでは、「やさしい日本語」を活用した市民対話を推進しています。外国人住民や高齢者、障がいのある方など、誰もが理解しやすい言葉で行政情報を提供し、意見交換を行う試みです。市民通訳ボランティアの育成や多言語翻訳アプリの活用など、技術と人的支援を組み合わせることで、多様な市民との対話を実現しています。
 四国地方の中核市Wの「市民討議会」は、無作為抽出で選ばれた市民が特定のテーマについて集中的に討議を行う取り組みです。参加者には事前に専門家による講義や現地視察の機会が提供され、十分な情報と知識を得た上で議論に参加できるよう工夫されています。この「情報提供型市民対話」の手法は、複雑な政策課題に対する建設的な意見形成に効果を上げています。このような市民との対話を効果的に展開するためには、以下のような要素が重要となります。まず、対話の機会を多様化し、様々な立場の市民が参加しやすい環境を整備することです。次に、得られた意見や提案を確実に施策に反映させる仕組みを構築することです。そして、その結果を市民にフィードバックし、対話の成果を可視化することです。
 さらに、職員の対話力向上も重要な課題です。関東の政令市Xでは、「市民対話ファシリテーター養成講座」を開設し、効果的な対話の進め方や意見の引き出し方について、職員の研修を行っています。この取り組みにより、市民との対話の質が向上し、より建設的な意見交換が可能になったと報告されています。
 市民との対話は、単なる意見聴取ではありません。それは、市民と行政が共に地域の未来を考え、より良いまちづくりを実現していくためのプロセスです。デジタル技術の進展により、新たな対話の可能性が広がる中、各自治体には、地域の特性や市民ニーズに応じた独自の対話の仕組みを構築していくことが求められています。
 今後は、AIやビッグデータ分析などの新技術を活用しながら、より効果的な市民対話の手法が開発されていくことでしょう。しかし、技術に頼るだけでなく、対面でのコミュニケーションの価値も大切にしながら、バランスの取れた対話の仕組みを築いていくことが重要です。「伝わる広報」の真価は、このような市民との真摯な対話を通じて、より良い行政サービスを実現していくところにあるのです。

おわりに:共に創る「伝わる広報」の未来へ向けて


 この文章を通じて、「伝わる広報」の理念と実践について、様々な角度から考察してまいりました。デジタル技術の急速な進展や、市民ニーズの多様化など、自治体広報を取り巻く環境は大きく変化しています。このような変化の中で、市民の皆様に確実に情報を届け、双方向のコミュニケーションを実現することは、これまで以上に重要な課題となっています。
 「伝わる広報」の本質は、単なる情報発信の技術向上にあるのではありません。それは、市民の皆様の目線に立ち、一人ひとりの生活実態や情報ニーズを深く理解し、最適な形で必要な情報をお届けすることです。そして、その過程で得られた市民の声を丁寧に受け止め、行政サービスの改善に活かしていく。このような双方向の関係性を築いていくことこそが、「伝わる広報」の真の目的なのです。
 実際に、ここで紹介した多くの自治体が、この理念に基づいて革新的な取り組みを展開しています。例えば、中国地方の中核市Yでは、市民との対話を重視した「共創型広報」を展開し、市民レポーターによる地域情報の発信や、市民編集委員による広報誌の企画など、市民と行政が一体となった広報活動を実現しています。また、中部地方の中核市Zでは、地域SNSを活用した「リアルタイム市政モニター制度」を導入し、日常的な市民の声の収集と、それに基づく迅速な行政対応を可能にしています。
 これらの事例が示すように、「伝わる広報」の実現には、時代の変化に柔軟に対応しながら、継続的な改善を重ねていく姿勢が不可欠です。それは同時に、職員一人ひとりの広報マインドを育み、組織全体のコミュニケーション力を高めていく取り組みでもあります。
 また、「伝わる広報」は、地域の未来を築くための重要な基盤となります。適切な情報発信と丁寧な対話を通じて、市民との信頼関係を深め、協働のまちづくりを進めていく。このプロセスこそが、より豊かで魅力的な地域社会の実現につながるのです。
 今後は、AIやビッグデータ分析、AR/VRといった新技術の活用により、広報活動の可能性はさらに広がっていくことでしょう。しかし、どれほど技術が進歩しようとも、「市民目線」「対話重視」「継続的改善」という基本姿勢は変わることはありません。むしろ、技術の進歩によって、これらの理念をより効果的に実現できるようになるのです。
 デジタル社会の進展により、情報の伝達手段は多様化し、市民の情報行動も大きく変化しています。このような時代においてこそ、「伝わる広報」の理念は一層重要性を増していくと考えられます。なぜなら、情報過多の時代だからこそ、本当に必要な情報を、必要な人に、適切な形で届けることが求められるからです。
 今回紹介した様々な手法や事例は、あくまでも参考事例です。重要なのは、各自治体が自らの地域特性や市民ニーズを十分に理解した上で、独自の「伝わる広報」を構築していくことです。その過程では、試行錯誤や困難に直面することもあるでしょう。しかし、市民の皆様に寄り添い、より良い情報発信を追求し続ける。その真摯な姿勢こそが、信頼される自治体広報の基盤となるのです。
 皆様の「伝わる広報」への取り組みの一助となれば幸いです。各自治体における創意工夫と実践を通じて、より良い地域社会の実現に向けた広報活動が全国に広がっていくことを、心より願っています。市民の皆様との対話を重ねながら、共に成長し、進化を続ける「伝わる広報」の未来に、大きな期待を寄せています。


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