契約と消費者トラブル
2022年4月1日より、「民法」という法律が改正された。この改正による大きな変更点としては、「成人年齢」が20歳から18歳へと引き下げられたことであり、これは明治9年以来、約140年ぶりの引き下げとなった。
民法による「成人年齢」には①自分の意思で契約ができる、②親権者に服さない、という2つの意味がある。
ここで、成人と未成年者との「契約」の違いについて見ていこう。
まず、成人は、親の同意は必要ないが、一方、未成年者は原則として、親の同意が必要となり、親の同意がない契約については後から「取り消し」ができる。この未成年者が持っている特有の権利を「未成年者取消権」という。成人になると、この「未成年者取消権」が行使できないため、契約はすべて自己責任となってしまう。
4月からの民法改正で成人年齢が引き下げられたことに伴い、改正前は18・19歳(未成年者)は親の同意を得ていない契約は原則として取り消しができたが、改正後はこの「未成年者取消権」が行使できないため、注意が必要である。
では、そもそもなぜ民法を改正し、成人年齢を引き下げることが必要であったか?
成人年齢引下げの 意義としては、我が国における成人年齢は、明治 9 年以降、20 歳とされていた。しかし、近年、憲法改正の国⺠投票の選挙年齢や公職選挙法の選挙年齢が 18 歳以上に定められるなど、18・19 最大にも国政上の重要な事柄の判断に参加してもらうため、政策が進められてきた。こうした流れを踏まえ、市⺠生活に関する基本法である⺠法においても 18 歳以上を大人として扱うことが適当ではないかという議論がなされた。また、世界的に見ても、成人年齢を 18 歳以上とするのが主流のようで、このようなことからも引き下げられ ることとなった。そして、成人年齢が引き下げるということは、18・19 歳以上の「自己決定権」を尊重するものであり、その積極的な社会参加が期待されている。
1.契約とは?
そもそも「契約」とは、何かを簡単に説明する。
契約とは、法的な拘束力が生じる「約束」のことであるといえる。
みなさんも実は、日常生活においてさまざまな契約を無意識のうちに行っているのである。例えば、スーパーマーケットで買い物をしたり、自動販売機でジュースを 購入したり、また、バスや電車に乗るためのチケット(切符)を購入したり、スキー場に行 った際には、スキー板やストック、スキーウェアをレンタルする人もいると思う。これ らのすべての行為は「契約」に含まれてている。
このように私たちが普段の日常生活で無意 識におこなっている「行為」は契約に当たるということを理解して貰えたと思う。そし て、契約は、「誰と」「どのような内容を」「どのような方法」で結ぶかは原則、自由となっている。これを「契約自由の原則」(あるいは、私的自治の原則)という。この契約自由の原則を構成する 4 要素としては、第一に、「締結の自由」があり、契約を締結するか 否かについて、当事者が自由に判断できます。第二に、「相手方選択の自由」である。これは、 「誰と」契約を結ぶかは当事者が自由に判断できる。第三に、「内容決定の自由」である。これは、「どのような内容」を結ぶかは当事者が自由に判断できる。第四に、「方法の自由」 である。これは、「どのような方法で」契約を結ぶかは当事者が自由に判断できる。このように、「契約自由の原則」(私的自治の原則)には、4 つの要素から成立していることが分かる。
2.契約はいつ成立するのか?
契約とは何かを理解してもらった上で、続いて契約はいつ成立するのかについて「売買契約」を例に見ていこう。
まず、前提として契約はお互いの合意、つまり、消費者が「〇〇ください」と「申し込み」をし、事業者(売る側)が「分かりました。〇〇円です」 と「承諾」したときに契約が成立したと考えることができる。そして、契約が成立したら、 両者で責任(権利と義務)が発生する。まず、消費者の義務としては、購入した商品に対 して、「代金を支払う義務」があり、事業者は、消費者が支払った「代金を受け取る権利」 がある。そして事業者は、消費者が購入した「商品を渡す義務」があり、消費者は事業 者から渡された「商品を受け取る権利」がある。そして、この権利や義務を守る必要があり、どちらかが一方的な都合で「契約を取り消すこと」は基本的にできない。稀に、レ シートを店に持っていけば、返品てきるという店舗もあるようですが、これはその店舗の厚意でおこなっていることであり、なおかつ、その商品が未開封・未使用であるのが前提条件 です。なので、「レシートをもっていけば交換してもらえる」という考えてではなく、購入 する前に「本当に必要なのか」を検討し、判断する必必要がある。普段、みなさんが無意識におこなっている売買契約ですが、実は「権利」と「義務」が発生していたことが分かる。また、売買契約の場合、事業者はその商品についての情報や知識を十分にもっているのに対して、消費者はそのような情報を持っておらず、事業者が示す情報 (例えば広告)などに頼るしかない状態でもあり、その示されている情報が本当に正しいのかを見極めるのは困難だ。
このように当事者での情報の格差を「情報の非対称性」という。なので契約をする際には、本当に正しいのかを見極める力も必要となる。
3.契約書の効果
続いて、契約書の効果について見ていこう。
重要な契約を結ぶ際には、必ず契約書が必要となる。例えば、マンションの契約や携帯電話の契約、クレジットカードの契約などがある。なぜ、重要な契約をする際には、契約書が必要なのか。契約書が必要 な理由は複数あり、まず、第一に「トラブルの防止」だ。契約書を作成し、捺印(ハンコ) を押すことにより、契約の意思が明らかになり、契約が成立したことを確認すると同時に、 契約の成立はいつか、契約の当事者は誰か、などを確認することができる。第二に、「証拠能力」だ。万が一、争いが起こり、裁判になってしまった場合、契約書を作成しておくと、その契約書が証拠(武器)となり、裁判を有利に進められる場合がある。
第三に、 「特殊な効果」だ。必ず契約書を作成しておかなければ、契約が成立しない場合や(契約 が)消滅する場合がある。①保証契約(⺠法 446 条2)では、保証契約は、書面、つまり、契約書で無ければ、その効力が生じない、とされており、②贈与契約(⺠法 550 条)で は、書面によらない贈与は各当事者が自由に撤回できる、とされている。このように契約 書はさまざまな効果があり、これでなぜ契約書が必要なのかを理解してもらえたと思う。
4.未成年者取消権
はじめに言った通り、未成年者は親の同意がない契約は後から取り消すことができ、これを未成年者取消権といった。
では、なぜ未成年者はこの未成年者取消権が権利として認 められているか。それは、未成年者(2022 年から⺠法改正により 18 歳)は、成 人と比べて、取引の経験や知識が不足し、判断能力が十分でないため、未成年者はこの権利が認められている。未成年者が契約をする際は、原則として、親の同意が必要とされており、親の同意がない契約は後から「取り消し」ができる。そして、「取り消し」の効果としては、代金を支払い義務がなくなり、万が一、未成年者が代金を支払った場合は代金の返 還を請求することができます。
また、受け取った商品は返品しなければならないが、一部、 その商品を消費していても問題がない、とされている。
一方で、未成年者は、未成年者取消権が行使でき、無条件で解除できますが、一部、例外を除 いては、解除できない。その例外とは、何かを考えてみよう。
それでは答え合わせをしていこう。
① 親の同意を得て行った場合
② 未成年者でも婚姻している 場合(婚姻すれば成人したと見なされるため)
③ 未成年者が成人と偽っていた場合
④ 小遣いの範囲内の場合
これらは未成年者取消権が使えないため、注意が必要となる。
5.消費者トラブル
これまでの知識を活用しつつ、グラフ(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201801/1.html#a1)から読み取れることを考えてみよう。
【 問題 】
全国の消費生活センター等に寄せられる消費生活 相談について、年齢ごとの相談件数をみると、未成年者(18・19 歳)の相談件数と成人に なりたての若者(20 歳から 24 歳)を比較してみると、成人になりたての若者の相談件数が 1.5 倍になっている。なぜ、未成年者よりも成人になりたての若者の相談件数が多いのか?
一例としては、未成年者は、契約の知識や経験が乏しいため、「未成年者取消権」が行使できるが、成人になると「未成年者取消権」が使えなくなる。そして、成人になりたての若者は自分の意思で行った契約は解除することができないため、そこを狙った業者がいる。 このような背景から、未成年者よりも成人になりたての若者の相談件数が多いと考えるこ とができる。
6.被害に遭わないために…
では、このような被害に遭わないために、どのようにすればよいか。商品の購入やサービスを受ける際に契約を勧められた場合は、次のようなことに気をつける必要がある。
まず、①契約をする前によく考える、ということである。後々後悔しないためにも、よく考え、 自信がないときは、身内や友人など信頼できる人に相談する、とよい。
次に、②上手い話はきっぱり断る、ということである。「簡単に儲かる」、「今だけ〇〇%OFF」など、インターネットや SNS の広告や書き込み、友人な知人、SNS で知り合った人が原因でトラ ブルになる可能性が高い。こうした、広告や話を鵜呑(うの)みにせず、安易に契約し ないことが大切である。
最後に、③クーリング・オフや消費者契約法など、消費者の味方となるルールを身に付ける必要がある。
特定商取引法では、訪問販売や電話勧誘販売、定期継続的役務(やくむ)提供の契約では、クーリング・オフ制度が利用できる場合があります。 しかし、自分の意思で行った契約(通販も含む)、現金 3000 円未満の商品は、クーリング・ オフの対象とならないため、注意が必要だ。
また、消費者契約法では、「嘘をつかれた」、 「帰りたいと告げたのに帰らせてくれなかった」などで締結した契約は後から取り消すことができる。
【 最後に 】
民法改正により、成人年齢が引き下げられました。そこで私たちは自由に「契約」ができるようになりました。契約とは両者間での合意により成立したと考えることができるものでしたので、それを守る必要があります。契約をする際には、「本当に必要な商品なのか?」を自分自身で判断していくことが大切になります。
これから消費者トラブル(18・19歳)が増えていくことが予想されますが、この記事を見てなにかのお役に立てれば良いと考えております。
【 今回使用した参考文献・引用文献 】
①民法改正 成人年齢引下げ 〜若者がいきいきと活躍する社会へ〜(https://www.moj.go.jp/content/001300586.pdf)
②成人(オトナ)になったらできること(伊丹市) (https://www.city.itami.lg.jp/material/files/group/19/20220401sotonaninattara.pdf)
③18歳を迎える君へ(法務省) (https://www.moj.go.jp/content/001340211.pdf)
④契約って何だろう?(東京都) (https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/manabitai/kyouzai/main/documents/033.pdf)