ひき肉です
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
2023年、夏
凄まじい暑さの日本で1人の少年が声を上げた。「ひき肉です!」彼は自分の名前をひき肉と呼称した。一見、訳の分からない名前だが、その名前には深いストーリーがあったのだ。それはひき肉が小学生になる頃の話、彼には弟がいた。とても愛くるしい5歳児だ。ひき肉はその弟を溺愛していた。育児を手伝ったり、公園に遊びに行ったり…。ひき肉にとってそれはどれもかけがえのない大切な時間だった。ある日の昼頃、ひき肉はいつものように弟と公園へ遊びに行った。その日はひき肉の友達も一緒にいて、とても賑やかな雰囲気だった。心做しか弟もその雰囲気を楽しんでいるような気がした。
「かくれんぼをしよう」
弟はくすぐるようなかわいい声で言った。弟はかくれんぼが大好きだった。小さい子の頼みだとみんな快諾した。幸い公園には身を隠す遮蔽物は多くあり、かくれんぼにはもってこいの場所だった。鬼は公正なジャンケンのもとひき肉になった。ひき肉は隠れる場所の目処は立っており、すぐにほとんど見つけた。しかしおかしい、弟が公園のどこを探しても一向に見つからない。ひき肉は悪い想像をする。公園から出てすぐ隣、車通りは少ないが道路がある。まさかと思いひき肉は走って確認する。
「……っ!」
そこには頭から血を流して倒れている弟がいた。すぐに駆けつけて安否を確認する。
「息してない!」
泣き出しそうになる目を擦りながら、救急車を呼ぶ。
「弟がっ…」
震える声で場所を伝える。
すぐに救急車が来たが、その時点で弟は息を引き取っていた。それは小学生でも分かるほどの命の儚さだった。
その時ひき肉の内側からふつふつと湧いてくるものがあった。『怒り』だ。弟の死因は轢死、でも加害者はその場にいなかった。ひき逃げだ。この事件はあまり人目につかない場所で起きてしまった為、犯人が特定されることなく現在も逃走を続けている。
ひき肉は情報提供を募るために、インターネットで活動を始めた。それが『ちょんまげ小僧』だ。しかし、ひき肉は自分一人で活動する自信がなかった。なので、その時かくれんぼをしていた友達を集めて、グループで活動する事にした。ひき肉はこの事件を伝えるために自分のハンドルネームを轢き逃げにしようとした。しかし、弟を守れなかった後悔と犯人への怒りで口を噤んでしまう。
「ひきにく…ひきにく…」
どう頑張っても、ひき肉と聞こえてしまう。ひき肉は必死だった。もうハンドルネームなんてどうでもいい。俺の名前は『ひき肉』だ。決意が固まったのは早かった。
いち早くこの事件を解決したかったのだ。ひき肉は考えた。どうすれば情報が広く伝わるのか。インターネットで有名になれば良いのだ。ひき肉は亡くなった弟を脳裏に秘め、今日もちょんまげ小僧の一員として活動する。