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竜の叫びと魅惑の唐揚げ

 20240522。


 中日×巨人戦を東京ドームに観に行った。


 その日の夕方17時、夜から入っていた予定が急に消え、さてどうしたもんかやることなくなったぞと思い、スマホのメモを開いた。

 僕のメモの中には、やりたいことリストや行きたい場所リストがある。暇な時は大抵それを見て、なにか今からやれることがないか探す。

 また、「東京 開催中 イベント」や「死ぬまでにやりたいこと ランキング」とGoogleで調べて、なにか今からやれることはないか探す。

 そして発見した。
 18時から東京ドームで、中日ドラゴンズ×読売ジャイアンツのナイター戦が行われていることを。

 しかしその情報を発見した時点で既に17時半。
 自宅から東京ドームまで20分程かかるので、
「試合開始までに到着間に合わないかも・・・」
と考えつつも、スマホを操作する親指がぐんぐん動いて止まらない。

 きっと、
「球場で試合を観るなんてひさしぶりだなあ!」
という、懐かしさを味わうことへの衝動がむくむくと立ちのぼってきたからだろう。

 結局、その時点で1番安かった2000円の指定席Cのチケットを予約した。

 2階席の三塁側の指定席。
 僕は中日ファンなので、中日ファンの割合が多い三塁側を確保した。
 せっかくなら、仲間と一緒に観戦したい。

 ブルーのシャツに袖を通して準備万端。

 プレイボールに間に合わせるべく東京ドームへ急いで向かった。





 しかし、急いでいると言いつつも、その道中でコンビニに寄り道をした。
 空腹を満たすべく、ホットスナックの唐揚げを200円で買い、コンビニの傘立ての横ではむはむ食べた。

 「いや、時間無いんだから直ぐに東京ドーム向かえよ!」
 「唐揚げは球場にもあるだろそこで買えよ試合始まるぞ!」

 そういう反論が聞こえてくる。
 その反論、確かに正論なのだけど、でもちょっと待ってくれ。
 コンビニに寄った理由がちゃんとあるんだよ。

 それは、コンビニで食欲を満たしておかないと、球場の売店で500円くらいする、球場価格の高額な唐揚げを間違いなく買ってしまうから。
 
 僕はお金をそんなに持っていない。だからそんな奴にとって、唐揚げの500円は手痛い出費すぎる。でも球場内の浮かれた雰囲気に当てられれば、節約家の理性なんぞ一発で吹っ飛ぶ。唐揚げに500円を喜んで払ってしまう。だから僕は球場での散財を防ぐため、コンビニで200円の唐揚げを食べる必要があったのだ。要は唐揚げ欲を事前に発散したかった。
 そうでもしないと球場で破産してしまう。



 でも、それくらい球場の唐揚げって魅惑的なんだよなぁ。



      *



 その後球場に着いた。結局6時過ぎに着いた。
 ほぼ到着と同時に試合が始まった。
 ドーム内に熱気と楽し気が充満していた。


 到着後、座席につく前に、球場内の売店を見つけた。

 腹減った人いらっしゃいなんでもござれの売店の前には、長蛇の列と飲食物の看板とジャンクフード特有の油の匂い。


 ビール、唐揚げ、フライドポテト、枝豆、たこ焼き、ホットドック、などなど。


 ぜんぶ旨そうでよだれジュルルル。

 
 でも僕は、それを横目に見ながら必死で購買欲をうりゃーと押さえつけた。


 だって僕には金が無いのだ。


 我慢しろ我慢しろ我慢しろ我慢しろ貴様さっきコンビニで唐揚げ食べただろうが!





 10分後。





 「すいませんビールと唐揚げください」
 




 気がついたら売店に並んで注文していた。
 しかも再び唐揚げを注文。
 



「貴様ビール飲むのはまだしも唐揚げはコンビニで食っただろせめて唐揚げ以外を頼めよ!!!」
とお感じになった皆様へ。



 ごめんなさい我慢できませんでした。



 というのも、
 コンビニの唐揚げによって触発された胃袋が、
「おいおいもっと唐揚げ食わせてくれよお」
とか言うもんだから、
「揚げ物とビールでくっと1杯やったら最高だぞ」
とか言うもんだから、
「試合観戦しながらの食事って乙なもんよ」
とか言うもんだから、
魔がさして売店の唐揚げを買ってしまいました。どうか許してください。
 だけどこれはしょうがないことだと思います。


 球場の浮かれた空気に流されて財布の紐がだらりんだらりん。


 ビール900円。
 唐揚げは500円どころか750円した。
 オイオイ高すぎやしねえか?


 で、唐揚げを買ったことによってバチが当たったのか、1回裏のジャイアンツの攻撃で、丸選手にいきなり先頭打者ホームランを打たれた。

 僕はそのホームランを、売店で唐揚げとビールを受け取った直後、球場の通路に常設されているモニターで目撃した。

 敵に先取点は入れられるし、生でホームランは見れないし散々だった。


 ふざけんな読売巨人軍!


 
 でも、そこからは座席で集中して試合を観戦した。

 時々可愛いビールの売り子に目を奪われ、何度か大事なプレーを見逃したけど。




      *




 試合を観ながらふと考えたことがある。


 それは、
「球場で、生で、中日ドラゴンズの試合を観るのはいつぶりだろう?」
ということだ。


 記憶では小学校卒業くらいまで、中日の試合を観に行っていた記憶がある。でも中学に入ってからは観に行ってないはず。そして現在自分は22歳なので、おそらく10年ぶりくらいだった。

 僕は中学まで野球部だったのだが、最も野球熱が高かったのは小学5~6年生の時だった。だからその時期によくナゴヤドームに父親と訪れていた。

 父親は熱心なドラゴンズファンだったので、当時よくナゴヤドームに連れて行ってくれた。

 ふたりで中日を応援した。

 試合を観ながら父親はビールを飲んでいた。
 僕はジュースを飲んでいた。

 普段は無口な父親も、ナゴヤドームでは多少いつもより饒舌に喋っていた気がする。

 そういえば、試合が中盤に差し掛かると父親から千円札を渡され、
「自分のセンスでなんかつまみ買ってこい」
と、部活の先輩がするようなノリで買い出しに行かされていたことを思い出した。
 きっと酔ってたんだろうな。
 でも小学生だった僕は、酒を飲んだことがないので、一体どれがセンスの良いつまみなのか分からず、無難に唐揚げとかを買っていた。
 今考えれば、「相手チームのファンに向けて売られている球場弁当」などを、ふざけて父親に渡したりすれば良かったなと感じる。
 そうすれば、
「なに買ってんだばか!センスあんじゃねえか」
とか言って親子の会話を盛り上げられたのかな。
 それとも無口な父親のことだ。
「お、おぅ・・ありがとう・・・」
とか言って全く盛り上がらなかったのかな。
 今となってはもう分からない。


 
 置きにいった唐揚げを渡すつまんねぇ子供。
 無難な唐揚げをチョイスした。
 でもその唐揚げを父親は旨そうに食っていた。
 僕も旨いなーとか思って食べた。
 でもなんであんな球場の唐揚げって旨いんだ?
 別に普通の味なんだけどなぁ?





 あの頃父親がよく食べていた唐揚げと、よく飲んでいたビールを、大人になって自分も味わった。なんならコンビニで買った唐揚げの方が美味しかった気もするけど、僕はその日、観戦しながら食べて飲んでしあわせだった。



 その日の中日は4対2で逆転勝利した。
 やっぱり球場の音圧と空気感は最高だな。
 ナゴヤドームで勝つとこも見たくなった。
 また近いうちに応援しに行こう。

 


 外野席で揺れる青い旗を見ながらバンザイバンザイした。

 帰り道は『燃えよドラゴンズ』を聴きながら歩いた。

 僕の胸がジーンと痺れた。

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