ほんとに潔癖症?
かなり前の話。
自宅に帰るべくバスに乗車していた時のこと。
僕がバスの中でも最も後部座席に座っていた際、とある停留所で俳優の役所広司さんに似たおじいさんが乗りこんできた。
そのおじいさんは、黒のハットを被り、黒のレザーの鞄を持ち、黒のジャケットを着て、銀の杖をついていた。
どことなく綺麗で品があり、凛として垢抜けている。そんな印象を与えるおじいさん。
そのおじいさんは、僕の斜め前の席に座るや否や、鞄の中からウェットティッシュを取り出し、座席の背もたれや手すりの部分をそれで拭き始めた。
僕はそれを見て、
「この人、潔癖症だ!」
と思い、その潔癖症の度合いの強さに驚いた。
というのも自分の周りにも潔癖症の人はいるが、バスの座席をウェットティッシュで拭くほどの、重度の潔癖症の人は見たことがなかった。
だから、公共のものに身体が触れることへの嫌悪感をここまでハッキリ示す人がいるんだなと感じ、びっくりしたのであった。
しかもその後おじいさんは、座席の背もたれや手すりだけに留まらず、バスの窓まで拭き始めたのであった。
それに関しては驚いたが、同時に意味が分からないとも思った。
百歩譲って、身体とバスの接地部分を綺麗にするのは理解出来る。しかし窓は、別におじいさんが自分から触りにいかなければおじいさんが汚れることはない。にもかかわらず何故、窓の汚れを気にする必要性があるのか?
窓を拭く必要性がよく分からなかった。
僕はそれを見て
「この人、ほんとに潔癖症?」
と疑問に思った。
潔癖症というより、ただの綺麗好きのボランティア清掃員じゃねえかと感じた。
とはいえ、身体と直接触れる場所以外も気にしてしまうくらいの、潔癖症の度合いが強いおじいさんなのかなと推測していたら、その刹那、おじいさんは、窓を拭いていたウェットティッシュでそのまま口元を拭き始めた。
僕はそれを見て
「この人、全然潔癖症じゃねえわ」
と裏切られた気持ちになったのであった。
なんでバスの汚れが気になるのに口元汚すのはセーフなんだよ。
そういう出来事があった。
そして今、なぜ僕がそのようなことを書いているのかというと、先ほど部屋の掃除をしていた際、本棚のホコリを拭いたティッシュペーパーでそのまま鼻をかんでしまったからだ。
本当にうっかりしていた。
これからは、『新しい学校のリーダーズ』の『オトナブルー』を聴いて踊りながら掃除するのはやめようと決意した。
曲が楽しすぎて、掃除に集中できないから。
集中していないと、鼻が汚れるから。
そしてその決意と同時に、役所広司似のおじいさんも、いつかのバスでおんなじようなことしてたぞと記憶がフラッシュバックした。
おじいさんもうっかりしてたんだろうな。
僕は『オトナブルー』の再生を止め、代わりに役所広司さんが出ている『マルちゃん正麺』のCMのyoutube動画を流しながら掃除を再開した。
CMが楽しすぎて、掃除に集中出来なかった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?