感覚の共有が出来る人
芸人の友達2人と僕でサウナに行った時のこと。
そのサウナ内にはテレビがあり、そこでは『東大王』というクイズ番組の最終回が流れていた。
サウナ内には裸の汗まみれが10人ほどいて、10人の視線が『東大王』に集中していた。
『東大王』を見ていてふと思ったことがある。
それは「感覚の共有」が出来ると嬉しいということだ。
例えばそれは「自分と同じタイミングで好きな人が笑ったら嬉しい」みたいなことである。
番組のなかでこんなシーンがあった。
クイズに負け、試合から脱落してしまう出演者の方がいた。
その方は、約20秒ほどの敗者コメントの中で泣きながら、
「悔しいです」
もしくは
「悔しい」
というワードをおよそ5~6回言っていた。
4秒に1回以上のペースで「悔しい」と話していた。
ぽつりぽつりと「悔しい」というワードを放つのではなく、一連のコメントのなかで「悔しい」「悔しいです」をバンバン放っていた。
「悔しいです」を畳みかけていた。
クイズに負けるのがよっぽど無念だったんだろうなぁと感じた。
でも僕は、その敗者コメントを見て、あろうことかニヤニヤしてしまった。
なぜなら「悔しい」という発言の数が多すぎたから。
さすがに多いと思った。
「悔しい」の数量が。
ちなみに断って言っておくが、僕は決して、人が勝負に負けて純粋に涙を流している姿を、馬鹿にして嘲け笑うような人間ではない。むしろそういう人を好ましく感じて抱きしめたくなるタイプだ(ほんとか?)。
だから出演者の方が悔しがっていること自体を笑った訳では決してない。
そことは切り離して、回数の多さに笑ったのだ。
数量の違和感、個数のズレに笑ってしまった。
明らかに豊富な悔しさの数。
正直それが出演者の方には申し訳ないのだけれど面白かった。
ニヤニヤしてしまった。
ただとはいえ、そのシーンは別にオモシロの場面として編集、放送されている訳では無かったので、そのシーンが流れた時、サウナ内の空気が弛緩し、客の笑みがこぼれるというようなことはなかった。
皆が概ね真剣なまなざしで『東大王』を見ていた。
芸人の友達ふたりを除いては。
このふたりは僕が、
「悔しいの回数ちょっと多いな~」
と内心で思ったタイミングとほぼ同時にニヤつきはじめた。
僕は、
「そうだよね!やっぱり今のシーン笑っちゃいけないけどちょっとだけ笑っちゃうよね!違和感あるもん!」
という思いを込めてふたりに黙って目配せをした。
ふたりは、
「いや、今のは笑うだろ」
という目で僕を見返してきた。
僕はそのまなざしを受けて安心した。
「良かった。笑ってるの自分だけじゃなかったんだぁ~」
と感じて嬉しくなった。
どうやら僕は、感情を他者と共有出来ると嬉しくなって安堵する人間らしい。
思えば、小学生中学生の頃からそうだった。
授業中の静かにしなければいけない状況でも、例えば先生が少し噛んだり、教壇に軽くつまずいたりすると僕はすぐ、仲の良いクラスメートに目配せしていた。
「今のヘンだったよな笑?」
という感覚を共有するために目線を黒板から外した。
友達もニヤニヤしていた。
それで僕はより一層ニヤニヤした。
つまり、多くの人が気づいていないものの、
「今の瞬間、なんか引っかかるものあったよな」
を秘密裏に共有する感覚が好きだった。
「この感覚、他の奴は分からなくてもお前なら分かってくれるよな?」
その感覚が、分かってもらえることが嬉しかった。
そしてそういう奴とはたいてい馬が合ったし、仲良くなった。
感覚の共有度、理解度、解像度が深い奴のことを気の合う奴と呼ぶと思う。
逆に言えば、理解されない感覚を持ったままコミュニティに属していると宇宙人化して孤独なんだろうと思う。
それはまるで、相容れない奴と相部屋になっているようなものである。
でもその日は、気の置けない友達ふたりと相部屋になった。
相部屋というか、相サウナ。
修学旅行の宿泊部屋のメンツが仲の良いクラスメートばかりだった時の心持ち。
面白いことでも、喜怒哀楽の感情でもなんでも、感覚の共有が自然と出来る奴とは自然に仲良くなるのだから、そういう奴のことは大事にしたい。
ちなみに『東大王』では、
・「ミスター東大王」
・「頭脳王2連覇の天才」
・「IQ165の天才」
などと、出演者ひとりひとりに仰々しいキャッチコピーがつけられるのだが、とあるひとりの出演者だけは、
・「ミスター難読漢字」
というややショボめのキャッチコピーがつけられており、友達2人はそれを知った瞬間にも盛大にニヤついていた。
出演者同士の賢さは拮抗していたので、だからこそキャッチコピーの強さも拮抗させてあげてよと思った。出演者は全員カッコ良かった。
そして、僕は笑う友達2人を見て、
「あぁやっぱりこの人達は信用出来るな」
と身に染みて感じたのであった。
追記。
『東大王』最終回SPのTverの動画です。
シンプルにクイズ番組としてとても面白かったので是非。