泣き叫ぶほどか台湾祭
5月4日の夜。
東京スカイツリータウンで開催中の『台湾祭』にひとりで行った。理由は『青春18×2 君へと続く道』という映画を観て台湾に魅力を感じたから。
この映画は単純に言えば、台湾人の男の子と、台湾にバックパックする日本人の女の子がボーイミーツガールする話だ。スクリーンに映る台湾の夜の街が煌びやかで印象的な映画だった。
だから鑑賞後に台湾に興味が湧き色々調べた。すると、偶然スカイツリータウンで台湾祭が行われていることを知った。台湾の夜市や食を日本で味わえるイベントらしい。
「近くで台湾の空気を味わえるイベント開催してくれて多謝!」
「多謝」は台湾言葉で「ありがとう」を指す。
ということで、台湾祭に行ってみた。
19時頃。
台湾祭に到着。
東京スカイツリータウンの4階、テラスみたいな場所に台湾祭の会場。
たくさんの出店を照らす赤い提灯。
赤く染まる夜市をごった返す人々。
ふわりと立ちこめる台湾料理の匂い。
わいわいがやがや楽しげな夜の喧騒。
そびえ立つ圧倒的高身長スカイツリー。
会場は夜の涼しさを纏いながらも熱気に包まれていた。そして僕はこの環境に大いに浮かれた。
「だめだワクワクを抑えられない台湾祭は雰囲気が良すぎるうう!やっべえひとりで来てるのにニヤニヤが抑えられないい!しかもマスク家に忘れたああ!だから笑ってるの周りにバレちゃうう!
今こそ安倍さんアベノマスク配布してくれええ!そんなことより早く旨いもん食べよううう!」
そう思い、旨いもんを探して夜市に突入。
最初に目をつけたのはダージーパイ。
ダージーパイとは巨大な台湾からあげのこと。
スパイスの香りが食欲をそそる。
購入しようとメニュー表を見た。
レギュラーサイズのダージーパイ1000円。
ハーフサイズのダージーパイ700円。
僕は迷った。
レギュラーサイズのダージーパイは顔より大きいらしい。だからレギュラーサイズをひとりで食べてしまうと、他の台湾フードが胃に入らなくなるかも。だったらハーフサイズにするか・・・?
いや待て。しかしハーフの価格設定は700円。レギュラーが1000円なのだから、ハーフの値段は本来500円にすべき。しかし、実際の価格は700円。ということは、差額の200円分、ハーフサイズの方が損。ならば、レギュラーサイズの方がいいのでは・・・?
いや待て。しかしなぜだ?なぜ差額を設けるなんてことを店側はする・・・?
あ!そうか!決まってる!ハーフの方が200円損だからという理由で、消費者にレギュラーを買わせたいからだ。ちくしょー!この店は、消費者心理を虎視眈々と狙ってきている。価格設定に踊らされてレギュラーを頼む客を増やし、売り上げと客の満腹感をパンパンにしようとしている。やられた。なんてインチキな商売なんだ。とすると、ハーフの方がいいのでは・・・??
ちょっと待て。落ち着け。よく考えたら価格設定がとか消費者心理とかどうでもいいわ。あとインチキな商売でもなんでもないわ。どこの店だってそれくらいの価格設定してんだろ。何を考えてるんだ俺は。マヌケか。とにかく、シンプルに自分の胃の丈にあったサイズを頼めばいいんだ。そして、その上で、俺は今、どっちを頼むべきなんだ??え、まじでどっち・・・???
僕はダージーパイの行列に並びながら、レギュラーにするかハーフにするか逡巡した。
どっちにしよう?どっちにしよう?
そして10分後。迷った末に注文を決行。
「ダージーパイハーフで」
さすがにレギュラーサイズだとお腹いっぱいになってしまうと予想して、レギュラーサイズを蹴っとばし、ハーフサイズのダージーパイを購入。
購入したダージーパイハーフが手元に届いた。
むしゃむしゃ食べた。
凄く美味しかった。
スパイスと醤油がビシッと効いている。
胸肉ジューシーと衣サクサクがたまらない。
美味しかったのでペロリといけてしまった。
ペロリすぎて、もう1個食えるなと感じた。
そう感じた瞬間、僕は激しく後悔した。
「やっぱりレギュラーにすれば良かった」
ハーフ作戦は失敗に終わった。
あんなに考えたのに2択を外した。
正しい購買活動は難しいものである。
その後ダージーパイの他にも、オアチェンという、牡蠣が入った片栗粉ベースのオムレツに、甘辛ソースがどろりとかかった食べ物を食べた。
また胡椒餅という、コショウが効いた肉を、ごまがびっちり乗った生地で包んだ肉まんみたいな食べ物も食べた。
あと我慢出来ずに台湾ビールも飲んだ。
ひとりで台湾祭を満喫した!楽しい!
その後食事を終え、飲みかけの台湾ビールを片手に持ちながらぷらぷら歩いていると、急に子供の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
「嫌だ!嫌だ!今日じゃないと嫌だああああ!」
男の子(幼稚園児くらいの子)が、近くにあったベンチに座りながら大声で泣き喚いていた。
そばにいたお母さんは
「わかるけど、しょうがないよ」
と、男の子をなだめていた。優しく接していた。
けど男の子は
「今日が良い!今日が良かったああああ!!!」
と泣き叫ぶのをやめなかった。絶叫大爆発。
一体なにを泣くことがあろうか?
疑問に思った僕は男の子に近いベンチに座り、叫び声に聞き耳を立ててみた。
すると分かったのだが、どうやらその男の子は、東京スカイツリータウンにある「カービィカフェ」に行きたかったらしいのだが、予約がいっぱいで入れなかったらしい。
そのせいで大号泣していたのだった。
本当に、一切話を盛っているわけじゃなく、男の子は15分くらい泣き叫び続けていた。小さい身体のどこにそんな泣き叫び続けるパワーがあるんだ?というくらい泣いていた。
この男の子は、よほどカービィカフェに行きたかったんだなぁとその執念に目を丸くした。
お母さんがどれだけなだめても、
「絶対今日が良い!」
と言って聞かず、お母さんが、
「大阪の天王寺にもカービィカフェあるよ」
と伝えても、
「嫌だ今日が良い!!今日行くの!!!」
と言って聞かなかった。
妥協案で、地理的にだいぶ遠い大阪の「カービィカフェ」に行こうと提案するなんて、ずいぶんな譲歩ママだなぁと思ったが、そんなことはお構いなしでわぁわぁぎゃあぎゃあ泣いていた。
カービィカフェへの想いが溢れまくっていた。
泣く男の子の顔を見ると、鼻水が垂れていた。
ぐちゃぐちゃの顔面にびちょびちょの鼻水。
それを見て、少し笑いそうになってしまった。
子どもを笑うなんて俺は性格が悪いのか?
人として良くない良くないと思いながら、残りのビールをごくっと飲み干した。
ぬるかった。
家に帰ろうと思った。
台湾祭からの帰りの電車内でふと考えた。
泣き叫ぶ子どもを見て、鼻水をびちょびちょに垂らす子どもを見て、半ば馬鹿にしたような気持ちで笑ってしまった自分の中には、
もし2度と行くことが出来なかったら泣き叫んでしまうほどの場所や、
もし2度と叶えられなかったら泣き叫んでしまうほどの願いや、
もし2度と手に出来なかったら泣き叫んでしまうほどのモノが、
果たして存在するのだろうか?
そして、泣き叫ぶほどの何かがある人は、充実感のある日々を送るのかなと考えた。
やっぱり泣き叫んでしまうほどの何かが無い生活ってのはつまらないよな。あと寂しいよな。
だからあの男の子も、カービィカフェに辿り着けず悲しくて辛いだろうけど、同時に、実は幸福の渦中にもいるのではないか?そう考えた。
それにどれだけ泣き叫んでも、
「わかるけど、しょうがないよ」
と言って一生懸命話を聞き続けてくれるお母さんもいるみたいだし。
お母さんの聞く姿勢とっても素敵だったな。
「それを2度と得られなかったら、泣き叫んでしまうほどの何かがあるのか?」という視点で、生活を考えるのはおもしろいなと思った。
ちなみに自分は泣き叫んでしまうほどの何かがパッと思いつかなかった。
少しだけガッカリ。
そんな奴が泣き叫ぶ子どもを笑う資格なんて無いのかもしれない。
でも、「泣き叫ぶ」とまではいかないものの、「泣く」くらいの何かなら、いくつもあるような気がした。
で、1番多く頭に浮かんだ、これを失ったら泣くという「何か」は、自分の場合は「人」だった。
この人いなくなったらキツいぜ~って人が何人もいた。なんか知らんけどその人達の顔写真を集めてポスターにしてみたくなった。しないけど。
そしてもし、他の誰かのポスターに、自分の顔が貼られていたら嬉しくて多謝。