家にサイだけの動物園を作りたい
僕の小学校では卒業のタイミングで、卒業生(同級生)全員の画像がスライドショー形式で出てくるDVDが貰えた。
おそらく保護者会の方が作ってくれたDVDだったはず。
そのDVDのスライドショーでは卒業生の写真が音楽と共に1枚ずつ流れていく。
スライドショーの特徴は、将来の夢が書かれた紙を卒業生ひとりひとりが手に持っていること。
つまりそのスライドショーを見れば、卒業生の顔と、小学校卒業当時の将来の夢を同時に確認することが出来るのである。
当時の記憶を遡ると、男子は「プロサッカー選手」、女子は「パティシエ」を将来の夢として挙げていた子が多かった気がする。
また将来の夢がまだ決まってなかった子は、「優しい人」という抽象的なことを書いていた子が多かった気がする。
僕は小学生ながらその子達に対して、
「具体性持たせろフワッとしたこと書いてんじゃねえ」
と偉そうに考えていた記憶がある。
生意気すぎて反省している。
ただ不思議なもので、優しい人になりたいと書いていた子に限って、みんな既に優しかった。
でも、全然優しくない乱暴者タイプの子が、
「エンジニアになりたい」
とか書いていたので、
「お前は優しい人になりたいって書けよ」
とも考えていた記憶がある。
また、
「お前みたいな乱暴者がエンジニアになったら部品とか破損させまくりだろ向いてねえぞばか」
とも考えていた記憶がある。
生意気すぎて反省している。
ちなみに僕は
「放送作家になりたい」
と書いていた。
放送作家とは簡単に言えばテレビやラジオの制作や企画を担当する人。
バラエティー番組が好きで、当時は裏方になりたかった。
でも、本当は、その将来の夢を書く紙に、もっとふざけたことを書けば良かったなと今になって後悔している。
当時その紙が配られた時、僕は大喜利的な発想を基にして、
「ここになんて書いたら面白いかなあ?」
と小学生ながらに考えた。
でも、
「仲良くない奴も将来の夢で俺がチョケてる写真見るよなぁ」
とか、
「友達の親にこの子ボケるんだぁって思われたくないなぁ」
とか、
「いつかの未来の同窓会でこのDVDが流されて、ボケた画像を大人になった同級生達に見られるのもしんどいなぁ」
とか、
何の役にも立たない自意識過剰を働かせて、色々考えて結局、本当の夢を書いた。
ずいぶん俯瞰で考えていて生意気な小学生。
表舞台に立つ度胸も無いくせに批判ばかり。
というか小学校の時点で放送作家になりたいとか言ってる奴は生意気に違いない。
でも、一体なぜその時裏方になりたかったのかと聞かれれば、小学校の段階で既に自分より面白くて人気者の友達が他にも何人かいたから。
そういう奴らが表に立てば良いと思っていた。
そのひとりがヤマシマという友達。
ヤマシマは将来の夢として、
「家にサイだけの動物園を作りたい」
と紙にでかでかと書いていた。
僕はヤマシマの夢をスライドショーで初めて見た時、本気で度肝を抜かれた。
まず、シンプルに切り口がおもしろかった。
動物園にサイしかいないというくだらなさ。
「他の動物も入れろよ!」と叫びたくなる。
家に動物園を作るというくだらなさ。
「せめて自宅以外の土地に作れよ!」と叫びたくなる。
1文の中に2つもユーモアが入っていた。
しかも後でヤマシマに聞いたら、
「サイは密猟が行われているから、絶滅危惧種に指定されてて。だから保護してあげたいんだよね。その気持ちをふざけつつ夢に込めた」
と教えてくれた。
くだらない発想の中にヤマシマなりの背景まで編み込まれていた。
一発で負けたと感じた。
オリジナリティのぶ厚さに痺れた。
小6の段階でこのセンスは頭ひとつ抜けている。
そして何より、一生残るスライドショーに渾身の夢、ともすれば他人から「なんだよコレ!」と馬鹿にされかねない夢を、堂々と、満面の笑みで書いていたところ。そこが僕は好きだった。
あとヤマシマは、足は速いし女子にはモテるし友達も多いし、単純に明るくて良い奴だった。
コイツは、スターだなと強く思った。
というか僕と仲の良かった同級生達はみんなヤマシマをスターだと認識していると思う。
ちなみに今もヤマシマに地元でたまに会うと、
「あ、俺達のスターだ!」
と僕は目を輝かせてしまう。
というかヤマシマのことを時々、
「スターはどう思う?」
などとスター呼ばわりしてしまう。
ヤマシマには、
「いまだにスターいじりしてくるのもうお前だけなんだよなぁ…」
と苦笑いされている。
多分このいじりは一生続く。
話は変わるが、つい最近会った人に、
「なんで芸人なった?裏方になるんじゃなかったの?裏方の方が向いてる気がするけどなあ」
と言われた。
そんなの、ヤマシマみたいになれなかったからだよ。
でも、心のどこかでなりたかったからだよ。
まだまだ実力不足だが自分も、
「家にサイだけの動物園を作りたい」
を超えるような会心の一撃をオーバーキルでかましたい。