山下達郎 PERFORMANCE 2024 広島DAY2①

夏の強烈な暑さも和らぎ、やっと秋の気配を感じることができるようになったのか、街には多くの人が繰り出し、思い思いの目的に沿って足早に去っていく。

会場に着いたときには、既にチケットと顔写真の照合の最中で、ほどなくしてホールへと導かれる。ツアーグッズの売れ行きはどうやら盛況のようで、買い求める客が溢れ返り、2階へと続く階段の先へと伸びている。

今回の座席は2階の中央。達郎を真上から見下ろす感覚は初めてのことだが、ステージ全体が俯瞰できるのは素晴らしい。

会場ではいつものようにDoo-Wopが流れ、リラックスした聴衆は、思い思いの時間を過ごしているが、定刻の18時が近づくと、彼らはそそくさとスマホを仕舞い込み、メンバーの登場を待つ。

定刻で場内は暗転し、ステージ上にメンバーが登場する。

客席から向かって左から柴田俊文(Key)、鳥山雄司(G)、宮里陽太(Sax)、伊藤広規(B)、難波弘之(Pf)、右後方に3名のコーラスハルナ、ENA、三谷泰弘が位置している。

遅れた登場したのが山下達郎。ブルーのシャツに、スキニーのパンツで中央に位置すると、大きな拍手と歓声が湧き起こる。

1曲目はお馴染みのSparkle。達郎のギターカッティングはいつ聴いても絶品である。声の調子は上々のようで、達郎の高音がホールに響き渡っていく。曲の終わりに合わせて「こんばんは!広島!」と一言。

歓声をかき消すように、2曲目のシンセサウンドが迫ってくる。アルバム「Softly」の2曲目に収録されている「Love’s on Fire」。軽快にステップを踏みながら歌う達郎に合わせて聴衆の頭も揺れる。この曲がこんなにライブに映える曲だったとは驚きだ。

続く3曲目は、印象的なドラムとベースのフレーズにホンキートンクなピアノが被さる「人力飛行機」。これもアルバム「Softly」からの選曲である。イントロに被せての達郎のMC。「満員の御来場まことにありがとうございます」からの今回の会場である「広島文化学園HBGホール(旧厚生年金会館ホール)」の寸評。開場から40年が経ち、「次第に音が沁みてきていい感じになっている」とのこと。加えて「2階の端のほうはご不満でしょうが、あなたに届くよう一所懸命にやらせていただきます」の温かい言葉に2階から大きな拍手が起こる。

導入部では「今は…もう秋🎵〜」などと「誰もいない海」を挟みながら本編突入。この曲の見どころはなんと言っても鳥山雄司のスライドギター。浮遊感が充満するプレイに酔いしれる。

続くMCでは広島のホールについてさらに語る。好きなのは郵便貯金ホール。厚生年金ホールができたときは客席半分で色分けされていたらしく「とても気持ち悪かった」そうだが、色も塗り直され、最近では音も沁みてきて良くなったとのこと。

今年で71歳。60歳を過ぎた頃にはライブハウスに戻っていると予想していたそうで、こうしてホールツアーができていること、それを支えてくれたファンに感謝を伝える。ライブの本数も増え「老人虐待ここに極まれり」などと笑いを誘う。

日本や世界の情勢にも触れ、「殺伐とした状況の中、せめてライブの間だけでも和やかに過ごしてもらいたい」とのメッセージに心が安らいでくる。

そして話は「夏だ!海だ!達郎だ!」へと。若いことと比較して、歳を重ねると夏に対する印象も変わってくるらしい…

というわけで、ここから「夏の歌3連発」がスタートする。

4曲目は「夏への扉」。アルバム「Ride On Time」から。レコードだとB1に収録されていたナンバーである。ゆったりしたリズムに身を委ねながら夏の終わりを感じることにする。

それにしても懐かしい…

5曲目は「僕らの夏の夢」。重厚なピアノから始まるこの曲は、もしかしたら僕が達郎の曲の中で最も好きな曲なのかもしれない。両手を照明にかざしながら心を込めて歌詞を紡ぐ達郎。思い入れの強すぎる曲に気付けば、僕の頬を涙が伝う…

夏の曲3連発の最後、6曲目は「Sync Of Summer」。昨年の夏に発売されたシングルからの選曲が憎い。(きっと達郎ファンはもっと古い曲を予想していたのではないだろうか)

軽快なリズムに心も軽くなる。

続くMC。昨年発売したレコード盤(RCA時代のカタログ)の売り上げがSONYで1位だったそうだ。そして、昨今の傾向としては、外国人が達郎のアルバムを聴いている割合が高くなり、数年前に東京の中古レコード店で会った外国人からは「BOMBER」をライブで演ってほしいとリクエストされ、実際にその年のライブで演ったそう。

このRCA時代の話を広げて次の曲紹介に繋げる話術は、実に見事としかいいようがない。

70年代にシングルカットするために書いた曲はレコード会社の意向でボツになったが、その曲を今日演奏できるということはまさに「ザマァ見やがれ」の心境だとか。(場内が沸く)

続いて「このような洒落た物言い」が通じない世の中にもチクリと一言添えて…

そして始まった7曲目は、これまた懐かしい「Paper Doll」。(これをシングルカットしようと考えていたということ)

ゆったりしたリズムに思わず頭を揺らしてしまう。この曲のハイライトはなんと言っても、鳥山雄司(G)、宮里陽太(Sax)のソロバトル。交互に繰り出される白熱のソロに釘付けになる…

達郎がアコギを持って前に出る。この優しいイントロは「ポケット・ミュージック」(8曲目)。さっきまでのバトルが嘘のように優しい雰囲気に包まれていく。

拍手に包まれてバンドメンバーが退場。達郎は1人鍵盤の前で話し出す。開演前のBGMの曲を開場と同時にホールに入って調べる人がいるそうで、ある時、ちょっとしたいたずら心で「調べてもわからないような曲」を並べたところ、それはそれで面白くなかったとか。

この流れからDoo-Wopのバラード曲が「循環コード」で作られていることに触れていく。

80年代当時は「循環コード」で作られた達郎の曲を「またかよ!」と揶揄する評論家もいたそうだが「彼らはどこへ行ったのか?(笑)」だってさ。もちろん場内は大喝采。

弾き語りコーナーで取り上げられる曲はどうも悲しい曲が多いそう。だが、それでも今回は「悲しい中にも一筋の光明を見つけたい」と選んだ末にやはり悲しい曲だった…なんて裏話を挟みながら次の曲。

9曲目は弾き語りで「シャンプー」。こうしてエレピ1台で聴くと、あらためて達郎の声がよく出ていることに気付かされる。

ここで唐突に一言。

「今日は、いいお客さん」(場内大拍手)

初日の昨日、金曜日のライブではPAの調子が悪く、音が揺れたそうで、今日のライブに向けて機材を入れ替えたとか。

ここで会場が明るくなり「今日初めて達郎のライブに来た人」のチェック。2階からだと良くわからなかったが、思ったより少ない印象。周囲にはどうやら年季の入った聴衆が集まっているようだ。

続いてアカペラコーナー。今年はアルバム「Big Wave」発売40周年。かつて20周年、30周年の際には、リマスタリングしてアルバムを再発していたのだが、昨年はRCA時代のアナログ盤制作の仕事で忙しく、何もできなかったそうで、その分、ライブで楽しんでいただきたいとのこと。

また、今回使用する音源は、アルバムが出た当時のツアーで使っていた音源を探し出してきたそうで、難易度高めらしいが、そもそも1人多重録音していること自体が高難度だと思う。(途中で「友達がいないから1人で多重録音した」という話があった気がする…笑)

10曲目は「ONLY WITH YOU」、そして11曲目は「I LOVE YOU…part II」。先に達郎が歌い、その後にオケが被さってくる演出。これは確かに難易度は高い。(音が外れたらはっきりとわかってしまうからね…)

そして、クリスマス・スキャットが流れ、12曲目は「クリスマス・イブ」。この曲では照明の美しさに目を奪われる。幻想的で実に美しい。曲の最後には流れ星が一筋…。会場は万雷の拍手に包まれた。

間髪いれずにピアノのイントロが厳かな雰囲気を作り出す。13曲目は「蒼氓」。アルバム「僕の中の少年」からのナンバー。

「生き続けることの意味 それだけを待ち望んでいたい」

気がつけば、周囲にはハンカチでこぼれ行く涙を拭う人たちの姿…

いつもより長尺な鳥山のギターソロが胸を打つ。ラストの達郎の雄叫びに、心を動かされないものはいないだろう。鳥肌。音楽が波となり、会場全体に感動が広がる。

(以上前半①終了。②へと続く)

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