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やっぱり家族っていいな


谷塚さんと2人して涙目になって、そんなことを言い合いながら廊下を歩いた。

谷塚さん。


同じ法人グループで働いていて、もっとも仲がいい。


名前も顔出しもOKをもらっているので、noteにも頻繁に出させてもらっている。


谷塚さんは老人介護施設の責任者で、自分はケアマネジャーという立場。


谷塚さんが働いている施設には、自分が担当している利用者さん5名が入居していて、月に一度の定期訪問をしている。


この日は、谷塚さんも一緒に利用者さんの部屋を訪室してくれるという事になった。


おそらく暇だったんだと思う。






遊んでるようにしか見えない





ちなみに今回のnoteの主役は谷塚さんではない。


今回の主役はMさん。



Mさん
中学時代バドミントンで何度も全国優勝している。


現在50代後半。


自分とMさんとは10年もの付き合いになる。


今は施設に入居しているが、在宅で生活している頃から担当させてもらっている。


Mさんは、40代と若くして脳出血を発症し体に麻痺が残ってしまう。


そんなMさんの介護をしていたのが、Mさんのお母さん。


当時70代半ばのお母さんが、40代半ばの息子さんの介護をしていた。


体力的にも、精神的にもきつかったと思うが、Mさんのお母さんは介護を続けていた。



Mさんのお母さんが80歳になる頃に、転倒して腰を痛めてしまった。


それでも暫くはMさんの介護を続けていたが、痛めた腰は治るどころか悪化していく一方。


家での介護が難しくなってしまい、Mさんのお母さんも、Mさんも、泣く泣く施設に入居することを決めた。




Mさんが入居してから数年。


Mさんのお母さんは面会に来ていない。


来ていないというより、会いたくても来れないでいる。


体が思うように動かないから。



実はMさんにはお子さんが3人いるが、どのお子さんとも会えていない。


お子さんが現在どこで何をしているかも分からない。


もう何年も会えていないのに、Mさんにお子さんの年齢を聞くと、すぐに現在の年齢を答えることができる。


自分からお子さんの事を一切口に出すことはないが、いつでもお子さんたちのことを思っているというのが分かる。



「Mさんとお母さんを会わせたいね」


前々から谷塚さんと2人で話していた。


この日も、2人でそんな事を言いながらMさんの部屋に入った。


「お母さんと会いませんか?」


自分がMさんに尋ねる。


「めんどくせーから、いいよぉ(笑)」


照れくさいのか、笑いながら断るMさん。


「会わないでいると、後で絶対に後悔することになりますよ」


いつになく自分が真面目に伝えると、Mさんから笑みが消えて静かにうなずいた。


自分とMさんが、そんなやりとりをしている間に、谷塚さんは自分のスマホからMさんのお母さんに連絡していた。




電話に出るMさんのお母さん。


Mさんのお母さんに事情を説明したあと、Mさんに電話を渡そうとすると拒否をするMさん。


「じゃあ、スピーカーにしますね」


谷塚さんはそう言い、スピーカーに切り替える。


スピーカーから流れるお母さんの声を聴いたと同時に泣き出すMさん。









もう一度促すも拒否


話の流れで、Mさんのお母さんを車で迎えに行き、Mさんと会わせる約束をした。


それに加え、Mさんの娘さんとも連絡が取れるという事が分かり、Mさんの娘さんも一緒に来れるかもしれないという話になった。


何年も会っていなかったお母さんと娘さんに会えるなんて、どれだけ嬉しいだろう。


最後の最後にもう一度電話で話すように促すと、Mさんは電話を受取り、お母さんと電話で話した。




「しっかりやってるか?」


いきなり説教を始めるお母さん。


素直に聞くMさん。


会話した時間はほんの数十秒。


でも、そこには素敵な親子関係が見えた。



嬉しそうにするMさんの背中を見ながら部屋をあとにした。


廊下を歩いている途中、Mさんの気持ちを想像すると目頭が熱くなった。


気を抜くと涙が溢れそうだ。


「いいなぁ!やっぱり家族っていいなぁ!」


ごまかすように天井を見上げながら大きめの声で言った。


「ホント、ホント!家族っていいなぁ!!」


同じテンションで答える谷塚さん。


ふと谷塚さんの方を振り返ると、谷塚さんも目に涙を浮かべている。


中年オヤジ2人が涙目になって、老人介護施設の廊下を並んで歩いている姿なんて滑稽でしかないだろう。


それでも二人にとっては、今日という日が最高の一日になった。


Mさん、お母さん、娘さんにとって思い出の一日になるように、谷塚さんと2人で力を合わせて企画しますからね。

期待しててくださいね。

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