魔忍竜シラヌイ"朧"
「宿命だと言うのかぁぁ!!!(宿命だと言うのかぁぁ)(宿命だと言うのかぁぁ)」
「うっさい!会場内だよ!静かにしな!」
特設会場のホールに響くほどの声量で叫ぶシラヌイの頭をユラが小突く
「(あ、ユラ先生シラヌイ側にいるんだ………)」
ザシキヒメはコンゴウ派の控えだ
映えある1回戦の第1試合、シラヌイ一派の代表者とコンゴウ一派の代表者が戦う事になると知ったのだろう
よく見ると里では見かけない赤いツンツン頭のオーガと
帝国の首都を映した雑誌でも見かけないような和洋折衷のモダンな服装で、
色白で華奢だが『自称最強』みたいな赤髪の男が決して逆らわない女性がいた
「この時代に来れるのも、あと少しですからね」と色白の女性は言うが、異なる時代からタイムトラベルでもしているのだろうか
それを聞いたユラ先生が寂しそうにしている
もしかすると、あの赤いツンツン頭が『天下無双のナントカ童子』なのかもしれない
第3次星輝大戦、そう記録される大きな戦いの末
リンクジョーカーという共通の敵の前に帝国と聖域のような宿敵同士すら手を取り合った事を契機に
「そんなに悪い奴ばかりではない」と相互に理解した各国が、戦争の代用として
各国の威信を賭けた「親善試合」を定期的に開く事になった
「親善試合」とは言うが、各国家の序列が決まり待遇も暗に決まるため、選手を巡る黒い噂は絶えず、巨額の出所不明な資金も行き交っていると言われている
大会名は『ワールドグランプリ』
惜しまれつつ没案になった『ワールドカップ』の呼び名を好む者もいる
試合内容はこうだ
地球で行われる『カードファイト!! ヴァンガード』というカードゲームが協賛していて(なぜ異世界の企業がクレイの存在を把握していて、しかも協賛しているのかは謎である)
カードゲーム『ヴァンガード』の対戦
『ヴァンガードファイト』の中でスポーツとして戦い
各国の優劣をつけるというもの
この特設スタジアムは地球のカードファイトテーブルとリンクしていて、地球人が行うカードゲームにこれからザシキヒメ達は参加するのだ
と、そこまで振り返ったところで
ザシキヒメは隣から虚無の波動を感じる
「(クジキリコンゴウさんが、若い女が軒並みシラヌイ派にいる事に孤独を感じている………!!)」
変な人だけど、新しい物にも他者にも基本的には寛容で、普段は堅物でマジメだもんなぁ………
同世代だったら絶対に関わりたくないけど、そもそも根が国とか任務に誠実だからそうなるんだし………
可哀相に………
でも何故だろう、そんな自分がいないとダメになりそうなクジキリコンゴウを見ていると、ザシキヒメの心の中に虚無(ヴォイド)の波動が生じそうになる
これもコソデに借りた『まんが』の悪影響だろうか
「(いけない、リバースは己に負けた弱き者の末路………
私は違う、内なる虚無(ヴォイド)なんかに負けない……!)」
クレイを巡る虚無(ヴォイド)との戦いは、まだ続いているようだった
と、そこで
「よぉ」とシラヌイがクジキリコンゴウに声をかけてくる
「『支配の邪眼』は完成した。今の俺は魔忍竜シラヌイ"朧"。今の自分に満足し、進化を止めたお前に勝てる相手じゃない」
凄みを効かせるシラヌイに
「『反則技』を進化させたから何だ」とクジキリコンゴウ
「反則技を好む者など、『試合』をできる相手ではない」
クジキリコンゴウの眼光に、シラヌイが狼狽える
「だが」とクジキリコンゴウは続ける
「『カードファイト!! ヴァンガード』では『支配』は正当なスキルなのだな。忍としての手合わせは断るが、ヴァンガードの相手ならしよう」
「……!あぁ!吠え面かくなよ!」
1本取られたシラヌイは、自らの率いる一派の元へ戻っていく
『1回戦第1試合!コンゴウvsシラヌイ!!両選手はスタジアムに集合して下さい!!』
アナウンスが響き、栄光の『ワールドグランプリ』が幕を開ける