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忘れられない思い
表紙画像はMicrosoft Designer Image Creator にて生成。
画像のプロンプトは「水彩画調 男は片付かない段ボールが積み重なった部屋で彼女との過去を思い出し悲しげな様子で古びたオルゴールを眺めていた」
Geminiの創作SSです。
忘れられない思い
「世の中に片付くなんてものはほとんどありはしない」
男は、そう呟きながら、古びたオルゴールを眺めていた。
それは、かつて愛した女性の形見だった。
部屋は、まるで時間の止まった箱庭のようだった。
埃を被った家具、色褪せた写真、
そして、開かれることのない段ボールの山。
それらは全て、男が過去に囚われている証拠だった。
オルゴールを回すと、あの頃と変わらないメロディーが流れ出す。
女性の笑顔、温かい手の感触、二人で過ごした幸せな日々。
それらが鮮やかに蘇り、男の心を締め付ける。
「もう、終わりにしなければ」
何度もそう思いながら、男はオルゴールを手放せずにいた。
それは、男が過去の幻影に執着している証拠だった。
女性が亡くなってから、男の世界は色を失った。
悲しみ、孤独、そして、後悔。
それらが男の心を蝕み、抜け殻のような状態にした。
段ボールの中には、女性との思い出の品が詰まっている。
手作りのマフラー、一緒に観た映画のチケット、
そして、最後の手紙。
それらを見るたびに、男の心は激しく揺さぶられる。
男は、自分に言い聞かせた。
彼女はもういない。
そう理解しているのに、どうしても手放せない。
ある夜、男は夢を見た。
女性が微笑みながら、手を差し伸べている。
「もう、いいのよ」
女性の声が、男の心に響く。
夢から覚めた男は、静かに涙を流していた。
そして、ゆっくりと立ち上がり、段ボールを開けた。
一つ一つ、思い出の品を手に取る。
それは、まるで女性との最後の対話のようだった。
「ありがとう」
男は、そう呟き、最後に残った手紙をそっと胸に抱きしめた。
翌朝、男は手紙以外の全ての段ボールを処分した。
部屋はまだ片付いていない。
しかし、男の心は、少しだけ軽くなっていた。
「世の中に片付くなんてものはほとんどありはしない」
男は、再びそう呟いた。
しかし、その言葉には、以前のような悲痛な響きはなかった。
それは、執着という名の重荷を
少しだけ降ろせた男の静かな決意表明だった。
おしまい
山根あきらさんのお題でした。
最後まで記事を読んで頂き、ありがとうございました🙇♂️