創作SS:あの日から10年
表紙画像はMicrosoft Designer Image Creator にて生成。
プロンプト「水彩画 喫茶店の店内は相変わらず薄暗く、埃っぽいような懐かしい空気が漂っている。奥のいつもの席に目をやると、案の定、彼はそこにいた。」
Geminiの創作SSです
あの日から10年
喫茶店のドアを開けると、かすかなベルの音が時を告げた。
店内は相変わらず薄暗く、
埃っぽいような懐かしい空気が漂っている。
奥のいつもの席に目をやると、
案の定、彼はそこにいた。
初めて会ったのは、この店だった。
10年前の、まだ肌寒さが残る春の日。
就職活動に疲れ果て、たまたま入ったこの店で、
彼は隣の席で分厚い哲学書を読んでいた。
話しかける勇気はなかったけれど、
なぜか目が離せなかった。
帰り際、落としたハンカチを拾ってくれたのがきっかけで、
私たちは言葉を交わすようになった。
「あれから10年も経つんですね」
私が声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げた。
少し白髪が増えたけれど、優しそうな眼差しはあの頃と変わらない。
「ああ、君か。本当に、あっという間だったな」
彼は少し照れくさそうに微笑んだ。
テーブルの上には、飲みかけのコーヒーと、古びた手帳が置かれている。
私たちは近況を語り合った。
彼は相変わらず本が好きで、
今は小さな出版社で編集の仕事をしているらしい。
私はというと、紆余曲折を経て、小さな雑貨屋のオーナーになっていた。
話が途切れると、静かな時間が流れた。
窓から差し込む夕日が、店内にオレンジ色の影を落としている。
あの頃、私たちは将来について熱く語り合った。
夢や希望、不安や焦燥。
全てが未確定で、けれど輝いていた。
「あの時、君がハンカチを落としてくれなかったら、
今の僕はなかったかもしれない」
彼は唐突にそう言った。
「私もよ。
あの時、勇気を出して話しかけてくれなかったら、
今の私はなかった」
私たちは顔を見合わせて笑った。
10年という月日は、私たちを大きく変えたけれど、
この喫茶店で出会った時の、あの不思議な繋がりは、
今も確かに存在している。
店を出ると、すっかり夜になっていた。
冷たい夜風が、過去の記憶を洗い流してくれるようだった。
私は空を見上げた。満月が、優しく私たちを見守っている。
また、いつか、この場所で会えるだろう。
そう思いながら、私は夜の街を歩き出した。
おしまい
山根あきらさんのお題でした。
最後まで記事を読んで頂き、ありがとうございました🙇♂️