始まりのおとぎ話

彼女は、白い世界で一人、本を読んでいた。
おそらく、辛いことから逃げるために。

幼い彼女は、周囲に否定され続けて生きてきた。
無能だと、死んだ方が良いと言われた

彼女は、それに異論をはさむ気も無かった。
むしろ、そう言われるのは当然だと感じていた。お荷物の自分は、死んだ方がマシ。
しかし、寂しかったのかもしれない。それとも、死んだ後の移行先にするつもりか。

彼女は、自分のカケラを材料に、自身を肯定してくれるセカイ(幻)を作り出した。
彼女は、自分の勇気、恐怖、不信、依存、異常、羨望、知識…
たくさんの物を材料に、セカイを彩った。

白かった世界は、様々な物に彩られ…いびつで、しかし鮮やかだった。

まだ幼い彼女は、それで満足できた。
自分の作ったセカイをまもるため、神々を作り出し、守らせる。

それから、ただセカイを見下ろし、眺めるのが、彼女の楽しみとなった

しかし、時が経ち、彼女は知識をたくわえ…
彼女は、このセカイで満足できなくなる

今の彼女から見たセカイは、彩りすぎて、どす黒く…収集がつかないように思えてしまった。
矛盾、破綻、薄っぺらい。
いつしか、彼女は、自分をおいていくハッピーエンドの本も、不完全な自分のセカイも、楽しむことができなくなった。

最後には、セカイを捨てようと考えはじめる。

しかしながら、まだセカイへの想いを捨てきれなかったのだろう彼女は、自分の感情を複製し、新たな自分を作った。

彼女は新しい自分を語りべとし、二つの仕事を与えた。
一つは、自分が消えた後のセカイの見守り役。
一つは、自分が去った後、創造神の後任探し。
…もし見つからなければ、創造神を失ったセカイが、勝手に消えるだけである。

しかし、そんなことは杞憂に終わる。
創造神だった彼女がセカイから去った後、後任が見つかったのだ。

…彼女が、今何をしているか。それは誰にもわからないが。
今、この世界では、後任が世界をまとめ、管理している。

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