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渡り廊下の木陰から

 ある日、職場のストレス度チェックの調査票を出しに、古いほうの学校へ行きました。1階の事務室に提出して、帰る前に、新しいほうの学校で早くも始まった考査のテスト用紙を、ついでにプリントアウトしてしまおうと、職員室へ上がりました。

 すると、大きな太鼓の音が、

 「ドン!

 グランドで体育大会の練習が始まったみたい。

 非常勤講師なので、今まで実際に見たことはないのですが、この学校では、ワイルド科、素直科、クール科、おしゃれ科の4つの科対抗で、優勝を競い合うと聞いています。今までで一番多く優勝しているのはワイルド科だそうです。今年はどうかな?面白そうだから、学校を替わる前に一度見せてもらいたいような気もしています。


 とりあえず、プリントアウトして、帰ろうと職員室から出て、……、でも、廊下を下駄箱のあるほうとは反対側のグランドが見えるほうに歩いて行って、渡り廊下からグランドを見下ろしました。グランドは東側にあるので、とても眩しいから、大きな木の影に隠れながら、渡り廊下の手すりに寄りかかって、こっそりひとりでしばらく見ていました。

 太鼓の音に合わせて、体育委員長の某少年が号令をかけて、大きな大きな校歌(?それとも伝統の歌?)の大合唱が始まりました。このくだりは、声は大きいけど、やらされてる感が拭えませんでした😊。

 へ~。と思って見ていると、今日のこの時間は、各科代表(15人×3学年)=45人の大縄跳びを練習するらしいです。体育の先生が、マイクでそう言っています。
 用具係が縄を用意したり、ちょっともたもたして、暑いせいかスローペースで事が進んでいきます。ただ、いよいよ入場となると、ビシッとしたかけ声ときれいに揃った駆け足で、ちょっと壮観。で、それぞれの科が、入れ替わりながらの大縄跳びが始まりました。


 こんなにのんきに、こんな半分校舎の中から、体育大会が見られるのは非常勤講師の特権です。担任を持ってたりしたら、こうは行かないですよ~。
 このまだ暑い最中に、要所要所で点呼を取ったり、係の仕事があったり、本番だったら教員団のリレーで走らされたり、借り物競走の借り物にされたり、どこかでふらふらしている生徒を呼びに行ったり……。
 
 とか思いながら、案外ジャンプが続かないワイルド科ににたにたしたり、逆に、案外どんどんカウントの声が続いていって、見ている少年たちや先生たちを、おー!!っと盛り上げているクール科に、小声で「おー」と微笑んだりして観覧しました。


 こうやって、少年たちを上から眺めているこの気持ちは、昔正規で働いていた頃の気持ちとは違って、……、こういう気持ちを何と言ったらいいのか。自分の子どもの運動会とも違うし、またどこかよその運動会とも違う……、今年の学年、去年の学年が入り乱れているのも面白く、とても楽しく温かい気持ちにはなるんだけど。

 言うなれば、転勤した後、試合会場で、前の学校の子たちがやっているのを合間に見るような感じ、が一番近いです。ですが、これはあまり人に伝わるような例えではありませんね。
 どちらも、馴染みのある子たちが次々出てきて、一生懸命やってるのを遠目に見ている感じというか……。もっと踏み込んで言うなら、懐かしさに胸が温かくなるのだけど、一抹の……。

 早く帰ってテストを仕上げなくちゃいけないから、次にやるという百足競走までは見ずに、渡り廊下からフェイドアウト……。

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