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もうひとつの物語の世界17,のどか村の甚平さん2/3

のどか村の甚平さん2/3


 やがて、ひと山越えると、遠くから祭囃子(まつりばやし)がきこえてきました。山に囲まれた湖のなかに、そこだけポッカリと草原が開け、古い龍神様の社が建っていました。
 その前で村人が祭りを楽しんでいます。笛や太鼓の音にあわせ踊っている人もいます。お酒を酌み交わし、ごちそうをほうばっています。
 ただちょっと、村人の顔と身体つきが、いつもとちがっているのです。
 見ると、服は着ているのですが、みんな人間ではないのです。
―なんで?
 みんな森の生き物?
 甚平さんは、不思議な世界に迷い込み、緊張した足取りで、みんなの中にはいっていきました。
 おどろん子はあたりまえのように、
「なあ、尻尾がいるやろ。」
 みんな楽しそうに、森の生き物の姿でくつろいでいるのです。
「あそこに、村長さんがいるよ?」
 おどろん子が、イノシシ姿の村長さんをみつけて、教えてくれます。
「ほら、お鹿ばあちゃんや?」
 ほっそりした雌ジカが、甚平さんを見つけて手をふっています。
「おどろん子、みんな村の人たちか?」
「そうや、みんな祖先を忘れんように、大満月の夜にだけ、ここに集まって『昔かえり』をするんや。」
「それで『大満月の昔祭り』なのか・・・。」
 やっと、祭りの意味をりかいしました。 
 甚平さんは、この世離れした光景に、夏の夜の夢を見ているようでした。
 言葉では理解できそうですが、頭の中がついていきません。
 そのとき、きゅうに後ろから声をかけられました。
「白(はく)狼(ろう)さん、ひさしぶり。」
 甚平さんが振り返ると、服を着た熊がニコッとわらって立っています。甚平さんは、びっくりしておもわず身をひきました。が、その顔に、どこかみおぼえがあるのです。
「あっ、くま・・・もとさん?」
 のどか村に引っ越してくる前に、じっちゃんに連れられて、一度あったことがあったのです。
「ひさしぶりやなあ。亡くなった、と、きいとったけど?ちごたんやなあ。」
「あっ、いえ、わたしは、じっちゃんの孫で。」
「お孫さん?暗いから見まちごうたわ。」
「じっちゃんは、もうだいぶまえに亡くなりました。」
「そうか、でもよう似てるなあ。」
 なつかしそうに甚平さんの顔をみていました。そしてまた、顔見知りの村人をみつけると、楽しそうに話しかけていました。
「おどろん子『白狼さん』て、じっちゃんのことか?」
「そうや、じっちゃんの昔の名前や。」
「白狼って、白いオオカミのことか?」
「そうや、じっちゃんは、オオカミの長老やったんや。」
「じゃあ、わたしがつけてるこの尻尾は、じっちゃんの本物の尻尾?
 わたしはオオカミの長老の孫ってことになるのか?」 
 そのとき、大きな太鼓の音とともに、イノシシの村長さんの声が野原にひびきわたりました。
「これより龍神さまの、おでまし―。」 
 厳かに、太鼓と笛の音が流れ始めると、池の真ん中で、水面が大きく波立ち、ゆっくりと龍神さまがあらわれました。村長がひれ伏すと、村人もつづいてひれ伏しました。
 姿を現した龍神さまは、ゆっくりみんなの無事を確かめるようにみまわしています、
「今夜は、見慣れぬものがきておるのか?」
 村長は、慌てて甚平さんを呼びました。
「はい、亡くなった白狼の孫が、三か月まえから、村にきております。」
 甚平さんは、龍神さまににらまれ、信じられないままじっと頭をさげていました。怖くてとても顔をあげられません。
 龍神さまの、厳かな声がひびきます。
「白狼の孫か?村人はみなうけいれたのか?」
「はい、みな、うけいれてございます。」
 村長が、こたえると、
「ならば、なにごともなき大満月。ゆっくりと楽しむがよかろう。」 
 そして、一度大きく黄金色に輝く身体をふるわせると、山神さまの住む
弥勒山にむかって、静かに夜空を泳いでいきました。
 初めて龍神さまを見た甚平さんは、恐ろしさと、緊張のあまり身体の力がいっぺんにぬけおちてしまいました。
「良かったなあ甚平さん。尻尾をつけてて。」
 横にいたおどろん子は、うれしそうにケタケタ笑っています。 


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