もうひとつの童話の世界、14 こころの かけら 3/3
こころの かけら
その日の午後、カイトの隣の席のナミ、いつも元気なヤマト、それにナミと仲良しの陽子が、ほんとかな?と、わざわざ発掘現場にやってきました。
「カイト、お前ほんとうに発掘してんねんな。かっこええなあ。」
ヤマトの言葉に、カイトが恥ずかしそうに黙ってうなずくと、ナミも、
「おとなしいカイトがこんなことしてるなんて、知らんかったわ。ちょっと見直したわ。」
陽子も、ニコニコうなずいていました。
三人は、一通り見学すると、感心して帰っていきました。
次の日のホーム・ルームでも、カイトの遺跡の発掘のことが話題になりました。
ナミが話をすると、みんなはもっと詳しく発掘のことをしりたいと言いだし、だれが言い出したか、クラスでカイトの発表会をやることが決(き)まりました。
カイトはびっくり。勝手に決められて、なにをどうしていいかわかりません。発表がゆうつで、重荷を背負った子ネコのような気分で現場にいきました。
橋本さんが 、心配してたずねてきます。
「どうしたんや?学校でなにかあったんか?」
カイトが困って相談すると、
「そうか、でもおもしろいやないか。
よっしゃ、おれが発表の仕方を教えたるから、クラスのなかから手伝いを2・3人募集(ぼしゅう)して連れておいで。」
橋本さんは、うれしそうで、やる気満々です。
次の日カイトは、橋本さんに言われたとおり山田先生に相談しました。
先生は、ホームルームの時間に、
「カイト君が、発表の手伝いを2・3名募集しています。誰か手伝ってくれる人はいませんか?」
みんなにたずねてくれました。
すると、いちど発掘現場にやってきたナミと、陽子と、ヤマトが手を上げて、手伝ってくれることになりました。
カイトは、手伝いがきまってほっとしましたが、いざ、話すとなると何を話していいのか、緊張してうまく喋(しゃべ)れません。
「あ、ありがとう。それで、で、できればなんやけど、今日の帰りに、発掘現場にいきたいねんけど、ええかなあ?」
三人がうんと言ってくれるか心配です。
しかし3人は「いいよ。」「なにしたらええの?」「カイト、しっかり教えてや。」と気楽に答えていました。
現場につくと、橋本さんは、笑顔で四人を事務所に迎え入れました。
「それでは、3年4組の龍(りゅう)華(げ)遺跡(いせき)発表会にむけて、第一回打ち合わせをおこないたいとおもいます。まずは段取りを説明します。」
まるで、正式な会合のように、おごそかに言いました。でも、目が笑っています。子どもたちに教えるのが楽しくて、学校の授業のように黒板をもちだしてきました。
『発表に必要な5W1Hです。
5w いつ?
どこで?
誰が?
何を?
どうした?
1H どのように?
この順番で発表すればOK!』
そして、こんどはそれぞれの名前を一人ずつ黒板にかくと、その横に、
1、ナミ君(くん) 文化財発掘調査とは、
2、ヤマト君 縄文時代とは、
3、陽子君 弥生時代とは 、
4、カイト君 遺跡発掘、銅鐸と土偶
「1番から4番までを分担して、それぞれが発表します。」
とたんに、みんなから大きなため息がもれました。
「えー、一人ずつ発表(はっぴょう)するの?」
「そんなんきいてないよ。」
「どうやって調べたらええの?」
カイトだけが、大変だと思いながらも、これで自分の発表が少なくなったと、内心よろこんでいました。
橋本さんは、みんなの困(こま)った顔をおもしろそうにながめています。
「大変やと思うやろ。ところがどっこい、隠し技があるんや。」
急にくだけた言いかたをすると、楽しそうにひとり笑っています。
「ほら、これや。」
みんなに、市の文化(ぶんか)財(ざい)調査(ちょうさ)研究会(けんきゅうかい)のパンフレットをみせました。
「ここにかいた1から4までが、全部おんなじようにのってるやろ。」
みんなは、慌(あわ)ててパンフレットをもらうと、自分が発表する所を熱心に読んでいます。
「よかった、これを発表したらええんや。」
三人ともほっとした顔で、橋本さんをみました。
橋本さんは、大きくうなずくと、べつの本もとりだしました。
「ひとり一冊ずつとって。
ひとり一冊読むだけやから、むずかしないやろう。みんなでやったら楽しいし、自分のところだけやろうとしたらあかんで。読んだらお互いに話しあうんや。みんなで声掛けして、助けあって、話しあう。これが考古学の基本やからな。」
カイトだけが、こまっていました。
「カイト君は、出土品の説明と、自分の体験談を話すんや。
発掘してるとき、土偶の顔を発見したとき、そしてみつけた破片を完成させたときの自分の気持ちを、ひとつづつすなおに話したらええからな。」
分担が決まると、みんなは来週の月曜日のホームルームの発表にむけて、午後から発掘事務所にやってきては、本を読(よ)んだり、説明文をかいたり、忙しい時間をすごしました。
仲間がいるのがお互いのはげみになりました。
カイトも不思議とみんなと話すことができました。
ここでは、みんなに声かけすることが大切で、お互いにたずねあったり、助けあったり、自然とみんなの会話がふえて、気持ちが一つになっていきました。
カイトは、他人と話すのが苦手で、一人で始めた発掘作業なのに、気づくと友だちが三人もできていました。いままでばらばらだった自分のこころのかけらが、土偶のかけらと同じようにひとつひとつ、つながっていくのを感じていました。
さあ、月曜日のホームルームの時間がやってきました。
四人は黒板の前に横一列にならび、最初にナミが、一歩前にでて、全体の考古学について説明しました。
次にヤマトが縄文時代について。三番目に陽子が弥生時代について説明しました。
橋本さんが貸(か)してくれた、時代年表図と地層図をつかって発表していきます。一人が発表につまると、後ろにいる他の者が、助けて代わりに答えます。
そして、最後にカイトの番がきました。緊張して、声がうわずっているのが自分でもわかりました。
カイトにとって人前で話すのは、一番苦手なことです。緊張のあまりすぐ耳が赤くなって、口の中が渇(かわ)いてきました。
そのとき、ナミが後ろからやさしく声をかけてくれました。
「わたしらがついてるからね、練習したとおりにやればいいんよ。」
カイトは、ナミを見て小さくうなずきました。いちど大きく深呼吸して、ゆっくりと話し始めました。
初めは、学芸員の橋本さんがお父さんの幼馴染で、発掘に誘ってくれたこと。最初に土偶の顔を発見して驚いたこと。その夜の夢に土偶の顔が出てきたことも正直に話しました。・・・そして最後に、
「ぼくは、他の人と話すのが苦手なので、一人で発掘している時は、楽しんで作業ができました。しかし、何かが出てきた時は、必ずみんなに声をかけて知らせる。それがルールで、チームワークで作業していくことが大切だと知りました。そのことが、ナミ、ヤマト、陽子の三人に発表を手伝ってもらううえですごく役立ちました。準備で話すことが一杯あって、三人と助け合って作業するのがこんなに楽しいとは思いませんでした。これからは、もっと自分から 他(ほか)の人に話しかけたいと思います。」
カイトは正直に自分の気持ちを発表できて、やっと緊張感から解放されました。
すると、それまでニコニコと発表を聞いていた山田先生が、
「すばらしい発表でした。
これなら大丈夫(だいじょうぶ)。
じつは、この前の職員会議で、四人の発表のことを報告したら、教頭先生が自分たちの地元の大発見なので、全校生徒の前でも発表してみたらと言われました。
それで4人の発表をきいていたのですが、よくまとまっているし、わかりやすかったです。それと最後のカイト君のかんそうで、考古学の楽しさがすなおにつたわってきました。これなら、全校生徒のまえでも、十分発表できるとおもいます。ぜひ、次の全校生徒のまえでの発表もがんばって下さい。」
聞いたとたん、四人はびっくりしてとびあがりました。
「そんなんきいてないよ!」
カイトは、また重荷と不安に押しつぶされそうになります。
しかし,ヤマトだけが、
「地元の大発見を、全校生徒の前で発表するんか。
カイトみたいに新聞にのれへんかなあ・・・。」
と、とつぜんへんなことを言いだしました。
ナミはヤマトの言葉に、
「ヤマトはほんとにめげへんなあ。」
と、あきれかえっています。
しかしヤマトの気楽さに、4人ともいっぺんに気持ちが軽くなりました。
「ヤマトってほんとおもしろいなあ。」
カイトは、この三人となら、全校生徒の前でも、また発表できそうな気がしてきました。