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もう一つの世界、28  かっぱ と もやし 5/9

かっぱ と もやし 5/9

 そのとき、お寺の前の道で大きなブレーキの音がして、車がとまった。泥棒は、あわててなにかさけぶと、裏の林の中ににげこんた。同時に車のドアーのあく音がして、三、四人の大人が寺にかけこんできた。手に大太鼓のばちをもっている。ほんまにばちあたりな仏像泥棒や。
 小さい影も遅れてはいってきた。
―かっぱや。
 ぼくは、大きな声でさけんだ。
「かっぱ、こっちや、こっちやで。」
 かっぱがかけよってきた、かっぱのおっちゃんもいてる。
「泥棒はどこや?」
「裏の林の中ににげていった。」
「仏像は大丈夫か?」
「うん、まだつんでない。」
 山田のおっちゃんは、いそいで本堂に上がっていった。
 しばらくしておりてくると、
「あぶなかったなあ。ご本尊をおろして、布でくるんであるわ。もう少しおそかったら、盗まれてたな。」
 しばらくして、サイレンをならして、警察官もかけつけた。
 ぼくは、唯一の目撃証人や。
「犯人はなんにんやった?」
「二人です。」
「どっちのほうに、にげた?」
「裏の林の中へにげていった。」
「どんな服装や?」
「作業服みたい、でも、暗かったからようわかわへん。」
「そうか、顔はみたか?」
「後姿しかみえへんかった。」
「なんか、特徴はなかったか?
 なんでもええからおもいだせへんか。」
ぼくは、靴のことをいった。
「ふたりとも、運動靴をはいてた。」
 警官は、僕にたずねながら、無線で一つ一つ報告している。
 そのうちに、連絡を受けた村の大人がどんどんあつまってきた。みんな手に手に、警棒や鍬や、なんか武器のかわりになるものをもってる。
 さすが、村の団結力や。なにかあったらすぐにかけつけてくる。
 みたら、かっぱも小さな太鼓のばちをもってた。
「かっぱも戦うつもりか?」
「そうや、もやしをたすけなあかんやろ。」
 こうふんしてわらってる。
 ぼくは、そんなかっぱがおかしかった。
―ええやつやなあ。
 ぼくのことを心配してくれてうれしかった。
 
 本堂の中を調べてた警官がぼくをよんだ。
 山田のおっちゃんも、ついてきてくれて、警官とはなしてる。
 山田のおっちゃんは、みんなを集めた。
「警戒中のパトカーが、お寺の反対側の県道で、あやしい二人組をつかまえたそうや。作業服で運動靴や。でも、二人は仕事帰りやとゆうてるそうや。」
 気の短いかっぱのおっちゃんが、
「こっちへつれてこんかいな。わしがきいたる。」
 すると、村の大人たちも、
「そうや、やっさんのいうとおりや、そいつらを、とっちめなあかん。わしらの顔に泥を塗ってこのまますまされへん。」
 だんだん、こうふんしてきてる。
 若い警官が、困って村人をなだめていた。
 やがて、パトカーがとうちゃくして、中から二人組がふてくされた顔をしておりてきた。しかし、村の大勢の大人たちを見ると、おどろいて、警官の後ろに隠れよった。
「大切な仏像をとったんは、おまえらか?」
 後ろから、声がとんできた。
 かっぱのおっちゃんが、泥棒に詰め寄って、
「こら、なんかいわんかい。」
 それでも、なにもいわず、そっぽをむいている。警官が、山田のおっちゃんをなだめてる。逮捕したいけど、二人組が泥棒やという証拠がなにもないから、逮捕できないとせつめいしていた。
 僕はまた警官によばれた。
「どうや、わかるか?仏像泥棒の二人組か?」
 聞かれて、体中の血がいっぺんに頭にのぼった。
―どうしょう、なんも考えられへん。
 暗かったし、後姿しかみてないし。泥棒やとおもったら、そうやし。ちがうとおもったらちがうし。明るいとこでみたら、よけいにわからんようになった。
―作業服も、靴もどこにでも売ってるし。そうや、靴や!
 ぼくは、山田のおっちゃんに、ぼそぼそとつぶやいた。おっちゃんは、警官にまた、ぼそぼそとつぶやいた。
 二人組は、あくまでしらを切って、「泥棒と違う、仕事帰りや。」といいはってた。
 警官はしずかに二人組にこえをかけた。
「まあ、その岩にこしかけてみ。」
 二人を腰掛けさせると、
「そしたら、靴をぬいでくれるか。」
 ふたりは、なんでやと不服そうに靴をぬいだ。そのとき、一人の靴の中から小さな紙切れが落ちた。警官は、拾い上げると、
「これはなんや?」
「しらん。たまたまはいってただけや。」
 いったい何が始まるんやと不安そうにこたえた。
 村人もこれから何が始まるんやと、静かにみまもっていた。
 警官は、ニヤリと笑うと、紙きれをみせて、
「名前と、電話番号がかいてあるな。」
「仕事仲間の名前と電話番号や。」
 泥棒は、不安そうに警官をみてる。
 警官は、とぼけた顔をして、
「ほう、仕事仲間の名前か?山本 健人?」
 大きく名前をよぶと、かっぱが、へんじした。
「はーい、お巡りさん、呼んだ?」
「そうやな、山本 健人やな。この子がお前たちの仕事仲間か?」
 泥棒は、あわてて言いなおした。
「ちがう、ちがう。同じ名前やけど、別人や。」
 警官は、またおかしそうにいった。
「電話番号も書いてあるけどなあ。」
 かっぱは、ちらっとみて、いいよった。
「なんや、うちの電話番号や。」
 警官は、泥棒をみすえ、
「どうや、この紙切れが証拠や。お前らをみはってたもんが、お前たちの靴の中にこの紙切れをいれたんをしらんやろ。まだしらをきるつもりか。」
 二人組はびっくりして、警官をみあげた。
「車のキーも、とってある。指紋をしらべたらすぐわかることや、どうや、仏像をぬすもうとしたんやろ?」
 二人組は、うなだれて、
「すみません。」とみとめた。
 ふたりは、その場で手錠をかけられ、パトカーにのせられた。
 ぼくとかっぱは、大満足や。
 警察官も、山田のおっちゃんもほめてくれた。
「よう知らせてくれたなあ。表彰もんやな。あとはわしらがかたずけるから、もう家にかえってゆっくりやすみ。」
 ぼくとかっぱは、ほめられて、ばんばん頭をたたかれた。痛かったけど、気分はさいこうやった。
 帰り道、ぼくも、かっぱもこうふんして、ずっとしゃべりっぱなしやった。達成感があって、かっぱと一緒やったら、何でもできそうな気がしてた。
 わかれしなに、かっぱが、
「もやし、よう頑張ったなあ。泥棒がつかまったんは、おまえがいたからや。」
 かっぱが、ほめてぼくをみとめてくれよった。ぼくも、いいかえした。
「そんなことない、かっぱがみんなよんできてくれたからや。かっぱと、もやしはええコンビや。」
 ぼくがにっこりわらうと、かっぱもにやっとわらいよった。



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