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もう一つの世界、28  かっぱ と もやし 3/9

かっぱ と もやし  3/9

 次の日、スイカと、きゅうりが「おはよう。」
と、あいさつしてきた。
 ぼくも、「おはよう。」と答えた。かっぱも、
「もやし、おはよう。」
 わざわざ、もやしといって、笑ってる。
 ぼくも、まけずにゆうたった。
「かっぱ、おはよう。」
 みんなは、かっぱのことを、ケンちゃん、ぼくのことをジンくんとよびはじめた。女の子は大山君とよんでる。そやから、かっぱともやしとよぶんは、ぼくとかっぱだけや。あっ、未希ちゃんが、はじめからぼくのことを、もやしとよびすてにしよる。まあ、未希ちゃんはかっぱのいもうとやし、かわいいからゆるしたる。
 
 二,三日すると、お母ちゃんから電話がかかってきた。
「どうや、元気にしてるか?
 学校はどないや、友だちできたか?」
 お母ちゃんは、ぼくのことをしんぱいしてたんや。
「うん、やっとなれてきた。」
「わるいなあ、一人で田舎にすまわして。」
「大丈夫や、おばあちゃんがいてる。」
「そうか、お母ちゃんは、生活するだけやからなんとかなるけど、お父ちゃんが大変みたい。」
 離婚したのに、まだお父ちゃんのことを心配してる。喧嘩してわかれたんとちがう。話し合って、仕方なしに別れたんはしってる。
―やっぱり、夫婦なんや。
 正直にいうと、いまでも大阪に帰って、お母ちゃんと,お父ちゃんと、三人で住みたいと思てる。けど、いわれへん。お母ちゃんはぼくとお父ちゃんの心配までして、ほんとうはお母ちゃんがいちばんしんどいとおもう。ぼくは、精いっぱい元気にいった。
「ぼくのことは、心配せんでええで、友だちもできたし。」
 その時、ぼくの頭の中には、川で魚を取ってるかっぱのすがたが浮かんでた。
 
 やっと、学校にも、クラスにも慣れてきたけど、ぼくは相変わらずひとりや。
 別にだれともけんかしてるわけやないで。みんなは、学校がおわったあと、この村の夏祭りの練習にでかけるから、どうしてもぼくはひとりぽっちになるんや。夜になってもときどき風に乗って、祭りばやしがきこえてくるから、みんなおそうまで夏祭りの練習をつづけてるんやとおもう。
 大阪にいてるときは、十日市いう夜店はあったけど、夏祭はなかった。いっぺん、どんなことやってるんか、みてみたいけど、ぼくはまだこの村にきたばかりやから、参加できひんとおもう。
 次の日、ぼくはおもいきって、かっぱにきいてみた。
「みんなで、夏祭りの練習か?」
「そうや。」
「どんなことやるんや?」
「盆踊りの練習や。もやしは夏祭りやったことないんか、見にくるか?」
「いってええんか?」
「みるくらいやったらかめへんやろ、山田のおっちゃんにゆうたるわ。」
 ぼくは、かっぱとやくそくして、小学校が終わると、かっぱについていった。
 村の公民館につくと、子どもと、大人が一緒になって、盆踊りの練習をしてる。別の部屋では、大人が祭囃子の練習をしてた。さすがや、村の人が総出で夏祭りをやってるみたいや。
―うらやましいなあ。
 みんなが和気あいあいと、楽しみながら練習してるのをみてたら、こっちまで自然と楽しなって、からだがうごいてくる。
  かっぱが、村の世話役さんに紹介してくれた。
「山田のおっちゃん、転校してきた友だちを連れてきたけどかめへんやろ。」
 おっちゃんは、やるきまんまんで、ねぎりはちまきして、もう浴衣を着て、あれこれさしずしてた。
「転校生か?名前は?」
「大山 仁です。」
「何年生や?」
「五年生です。」
 ぺこりと頭を下げると、山田のおっちゃんが,
「そしたら、ケンといっしょやな。どこにすんでるんや?」
「尾面川のそばの、おばあちゃんの家。」
「ああ、川田のばっちゃんの家やな。」
 川田は、お母ちゃんの結婚するまえのなまえや。
山田のおっちゃんは、大きくうなずくと、
「見るだけか?五年生やったら、踊りの組やな、せっかく来たんやからケンといっしょに踊りの練習してかえり。」
 無理やり輪の中に入れられて、みんなと一緒に踊らされた。村の子どもといっしょでうれしかったけど、踊ってみると、見てるよりっずっとむずかしい。
 手を気にしてたら、足がうごかへん。足を気にしてたら、手がうごかへん。手と足がばらばらになって身体がうごかんようになる。こわれたロボットみたいや。こんなんはじめてや。なんぼやってもうまくいけへんのに、ほかの子は器用に踊ってる。
 かっぱが見て笑ってる。
―かっぱに負けとうない。
 祭囃子にあわせて身体を動かしていると、汗がふきだし、それでも踊り続けていると、だんだん熱中してくる。みんなも真面目な顔して真剣におどってた。
―むずかしいなあ。でもおもしろいなあ。こんな気持ちはじ めてや。これやったら、小学校の体育の時間にも、盆踊りの練習をやってくれたらええのに。
 練習がおわると、おっちゃんがみんなにアイスキャンデーを1本づつくばってくれた。
―なんかとくした気分。
 小学校の体育の時間やったら、アイスキャンデーはでえへんなあ。やっぱり、いまのままのほうがええわ。
 かっぱがきいてきた。
「どうやった?」
「みてるより難しいなあ。でもおもしろかった。それに、アイスキャンデーもらえたし。」
「そうやろ、すいかもでるし、冷えたトマトもでるんやで。」
「へえ、きゅうりはでえへんのか?きゅうりがでたら、ほんまに、かっぱにきゅうりやけどな。」
「あほか、なにゆうてんねん。それやったら、もやしもだしてくれるようにいうとくわ。」
 ぼくとかっぱは、アイスキャンデーをたべながらいっしょにかえった。かっぱの家についたら、おくのほうに顕照寺がみえた。
 ぼくは、かっぱに聞いた。
「あれ、また明かりついてるんか。花ばあちゃんがまたきてるんか?」
「おかしいな、このまえ手術うまいこといったっていうてたで。」
「そしたら、だれやろな?」
 かっぱとぼくは、顔をみあわせた。
―ひょっとしたら、仏像どろぼう?
 まさかそんなことないやろうとおもうけど、だれがおがんでるんや?
 こうきしんがもくもくわいてきた。
「ちょっと、みにいこか?」    
「うん、いこ。」
 ぼくらは山門をはいると、こっそり本堂にちかずいた。 

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