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もう一つの世界,29  ファミリーロード、3/11

ファミリーロード、3/11

 午前中に診察があり、主治医の長谷川先生と1カ月ぶりに 話すことが出来た。
「どうですか調子は?」
「ええ色々ありますけど、なんとか折り合いをつけながら 生活しています。」
「たとえば、どんなことですか?」
 拓哉先生はまだ若い先生だが聞き上手だ。
「涼二の妄想がひどくなったんですけど、なんとか話し合っておさまりました。」
「どんな妄想ですか?」
「涼二がガールフレンドと付き合うのを、家族が反対してるって。」
「うまく解消しました?」
「ええ。」
「どうやったんですか?」
「先生が言ってた褒め殺しです。」
「ああ、あれでうまくいったんですか。きっと 谷口さんのもっていき方が上手かったんでしょうね。」
「時間はかかりましたけど、なんとか。」
「どれくらいかかりました?」
「一時間ぐらいです。考えながら喋るのって本当に難しいです。」
「そうですね。谷口さんの場合は、基本的に子どもさんへの愛情を持っているので上手くいくんだとおもいます。口先の言葉だけでは、なかなか上手くいきませんから。」
 拓哉先生はカルテを見ながら、
「谷口さん自身はどうですか? 薬飲んでいますか?」
「はい、別に問題なく過ごせてます。」
「ふらつきとか、しんどさはないですか?」
「はい、ありません。今の薬があってるみたいです。」
「量的にはすくないほうですから、副作用もないとおもいますけど、何かあったらいつでも診察にきてください。なにもなければ、また1カ月後にしましょうか。」
 長谷川先生はカルテに書きこむと、
「そうそう、この前相談されてた娘さんの幻聴は、その後どうですか?」
「聞こえているのか、聞こえていないのか、今は何も言ってこないんですけど、どうなんでしょうか、やっぱり一度診察を受けた方がいいんでしょうか?」
 長谷川先生はしばらく考えて、
「そうですね、幻聴があっても普通に生活出来てれば、本人が診察を受けたくなければ、あえて診察にこなくてもいいと思います。幻聴があっても、それだけでは病気といえませんから。普通に生活してる人もいますから。ただ生活に支障がでるようになったら、早めに相談して診察をうけてください。」
 長谷川先生の診断を終えると、八重子はほっとしてデイケアにもどり、昼食まで顔なじみのメンバーさんと久しぶりに雑談を楽しんでいた。


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