もう一つの世界、28 かっぱ と もやし7/9
かっぱ と もやし7/9
家に帰ると、おばあちゃんが声をかけてきた。
「えらいおそかったな、お母さんから電話あったよ。ジンと話したがってたで。」
「えっ、なんで?」
「なんやとおもう?」
おばあちゃんはうれしそうや。
「なんや、はよゆうてや。」
「お母さんが、夏祭りに休みがとれたから、こっちに帰ってくるって。お母さん、ジンに直接言いたかったみたいやけど、ジンがおそいからゆうといてって電話がきれた。もうちょっとはよ帰ってきたら、よかったのに。また、電話してくるゆうてたで。」
―話したかったなあ。
ぼくが盆踊りの正式メンバーに入ってるゆうたら、絶対おどろくのに。それに、仏像泥棒を捕まえたといったら、もっとおどろくやろなあ。
―いいたかったなあ。
ぼくは、自然と顔がゆるんでくるんがわかった。
―もうすぐお母ちゃんにあえるんや。
思ったら、急にうれしくなって元気がでてきた。ぼくも、明日は元気に学校行ける。さっそくかっぱにいわな。二人で元気になってあそべる。なんかうきうきして、なかなかねられへんかった。
―お星さん、ありがとう。
ついゆうてもうた。
昨日の夜はこうふんして、なかなかねられへんかった。
眼をこすりながら学校へいってたら、とちゅうで木本にあった。ぼくは、Tシャツおはようといいかけて。あわてて大きな声で「おはよう。」とだけいった。
ぼくが、木本のことをTシャツとよんでるんは、だれもしらん。ぼくだけのひみつや。
木本は、なにがあったんやとおどろいてた。
でも、ぼくの笑顔を見ると、木本もうれしそうにへんじした。やっぱり、元気なのはええな。まわりも元気にする。でもTシャツはなんか元気ない。それに、いつもは真理ちゃんといっしょやのに、一人でわざわざ遠回りしてる。
「どうしたんや?なんで遠回りして学校にいくんや?真理ちゃんは?」
木本の顔がいっしゅんくらなった。
「けんかしたんか?」
木本は、だまって首をよこにふった。
「じゃあなんでや?真理ちゃんの家の前をとおりたないから、遠回りしてるんやろ?」
木本は、こんどはうなずいた。
「ふーん、なになやんでるんや?」
いつもの、強気な木本はどこいったんや。やっぱり女の子やな。ちょっとかわいい。
「ようわかれへん。」
「でもなんかあるやろ?」
「うーん、祭りの練習のことかなとおもうんやけど。」
そういえば、真理ちゃんは祭りの練習に参加してない。いつもみんなで、そろって練習にいくのに、真理ちゃんだけ、一人で帰ってる。
「なんでや?」
「去年、祭りに参加するのをことわったから、今年は誘えへんかってん。それで、おこってるんかなあとおもうんやけど。」
女心は難しい、ぼくにはようわからん。
「それやったら、いまからでも誘ったらええやん。」
「いまから・・・・、よけい誘いにくいわ。このまえ、誘おうおもて声をかけたら、知らんふりされて、無視されたから、よけいに声をかけにくいねん。」
「ぼくが、真理ちゃんに声かけたろか?」
ぼくは元気や。いつもやったらぜったいわへんことを、ついゆうてもうた。
木本が、びっくりしてぼくの顔をみとる。
「もやし、どうしたん?なんかええことあったん。」
ぼくはつい、ゆうてもうた。
「夏祭りに、お母ちゃんが帰ってくるんや。」
「へえ、もやしのお母ちゃんが。」
さいきん、みんながぼくのことを、もやしと呼びよる。それだけやない、いつのまにかかっぱのことも、かっぱとよぶようになってる。まあええけどな。
木本も、うれしそうやった。
「そやから、お母ちゃんにぼくの元気な姿をみせなあかんねん。木本も、一緒に元気になれへんか。」
「うん。」
木本は、ちょっと元気になった。
学校に着いたら、お母ちゃんのことを、かっぱにいった。 かっぱもよろこんでくれた。あとは、真理ちゃんを練習にさそうだけや。
かっぱに相談したら、簡単にひきうけてくれた。昼休み、一人ですわってる真理ちゃんに近づくと、
「真理っぺ、放課後ようじあるか?」
さすがかっぱや、二人は親戚同士やから、普段から仲がええんや。
「ないけど、なに?」
「山田のおっちゃんになあ、夏祭りの盆踊りにもっと、小学生を集めてこいっていわれたんや。」
真理ちゃんは、ちょっと困ったかおして、
「ええけど、でも・・・。」
ちらっと、木本のほうをみてる。かっぱは、横にいてるぼくをゆびさして、
「転校生のもやしでも参加してるのに、ほかの子はどうしたんやって、怒られたんや。な、頼むわ。」
「うーん、ええけど。」
かっぱは、強引にいいよった。
「そしたら、きまりな。そうやこっそり行って、向こうでみんなをおどろかそ。」
「でも、優香ちゃんおこれへんやろか。」
心配そうにたずねてきた。ここはぼくのでばんや、
「Tシャツか、だいじょうぶや。」
「Tシャツって、だれのこと?」
「木本のあだなや。ぼくがかってにつけた。」
「なんでTシャツやの?」
真理ちゃんがびっくりしてる。
「一番最初に言い出したんは、かっぱや。」
「おれが!」
今度は、かっぱがおどろいてた。ともかく真理ちゃんのことがさきや。
「Tシャツも真理ちゃんのことしんぱいしてたで。そやから、こっそりいって、向こうでTシャツをおどろかそう。」
真理ちゃんは心配してたけど、かっぱのおかげでいくことになった。
あとでかっぱがきいてきた。
「なあ、何でおれがいちばんやねん。」
「かっぱがいうたんやで、木本は黄色いTシャツ着てる子やって。」
「おれ、そんなことゆうたんかなあ?」
かっぱは、もうすっかりわすれてた。でも、ぼくはおぼえてるで、なんせ、初めてこの小学校に転校してきた日やからな。木本にゲーム機をつげぐちされて、はじめて北野先生におこられた日や、それも2回もやで、ぜったいわすれへんで。
放課後、ぼくとかっぱは、用事あるからと、みんなをさきにいかせた。
「ちがう道いこか。それで先にいってみんなをおどろかそ。」
僕とかっぱは元気や。そやから、真理ちゃんもTシャツも元気になってほしい。公民館にさきまわりして、練習場所にかくれてた。
みんなは後からゆっくりやってきた。ぼくらは急に扉のかげからとびだしておどろかした。いちばんびっくりしたんが、Tシャツや。
「真理ちゃん、きたん!」
嬉しそうにかけよってきた。真理ちゃんも嬉しそうに、
「うん、優香ちゃんきてよかった?」
まだちょっとしんぱいしてる。
「もちろんや、誘いたかったけどよういわんかってん。」
二人は手をつないでなかなおりしてる。女の子は一瞬でなかなおりや。そのとたん、真理ちゃんがいいよった。
「優香ちゃんしってる。もやしが優香ちゃんのこと『Tシャツ』ってあだなでよんでるの。」
「しらん。なんでTシャツやの。」
かっぱは、笑いながらぼくがいったことを、そのままTシャツにいいよった。そのとたん、
「あんたまだ、そんなことをねにもってるの。」
って、おこられた。
―なんでやねん、
二人の仲を心配して仲直りさせたのに、なんでぼくが二人から怒られなあかんねん。
ふたりが元気になって、なんでぼくが、へこまなあかんねん。
練習の帰り道も、かっぱはおもしろがって木本のことをTシャツとよんでた。そのたびに、木本はぼくをにらんでた。ええねん、ぼくがわるもんになって、木本と真理ちゃんの仲がもどったらそれでええねん。ぼくは男の子や、つらいのんはがまんできる。