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現在地 1話「もし、あの時」創作大賞2024漫画原作部門


▼あらすじ

誰もいない体育館で、黙々とバレーの自主練をする日野光。彼は春の高校バレー千葉予選で敗退したのは自分のせいだと、ショックから立ち直れずにいた。そんなある日、学校の帰り道、電車がトンネルをくぐると、周囲の人間が消え、彼の目の前にはサラリーマン風の男「X」が現れる。そしてXは突然言うのであった。「時間を3回まで巻き戻すことができます」と…。時間の巻き戻しに犠牲が伴うとわかっていながら、光は自身のスパイクをブロックされて負ける前に巻き戻すのであった。そして、巻き戻した末に負けたはずの試合で勝利をおさめてしまう。チームメイトが喜ぶ中、彼は1人葛藤の渦に飲み込まれていく。

▼登場人物


日野光(17) 白山高校2年。ポジション:アウトサイドヒッター
雪野壱月(17)空志野高校2年。ポジション:オポジット
大野海(17)白山高校2年。 光の幼馴染。
水野輝人(17)空志野高校2年。バレー部部長。壱月の親友。
 
Ⅹ(不明) 輪廻転生の神様
 
仁科千秋(17)白山高校2年。光のライバル。アウトサイドヒッター
飯田浩太(18)白山高校3年。 バレー部の部長
江口悠馬(18)白山高校3年。 オポジット
相沢葵(18) 白山高校3年。 リベロ
宇沢慎吾(18)白山高校3年。 セッター
小野勇気(18) 白山高校3年。 ミドルブロッカー
 
白山高校先生
白山高校コーチ
審判
報道陣
 
白山高校その他選手
空志野高校その他選手
黒山高校選手
川野高校選手
相馬高校選手
 
 

▼本編1話「もしあの時」


#1話 「もし、あの時」

◯千葉市体育館・外
   入り口には、“春の高校バレー千葉県代表決定戦”と文字が書かれた看     
   板。

〇同・コート
   白山高校23―黒山高校24の得点板。    
   バレーボールコートでは、黒山高校がサーブを打つ準備をしている。
   白山高校のコートには、相手のサーブを取ろうと構えている日野光
   (17)。
   部長の飯田浩太(18)が、チームの士気を高めている。
浩太「サーブとってくぞ!」
   部員たち「オー」と浩太の声に応える。   
   光は、1人深呼吸を小さくする。
光「(小声で)よしっ…」
   黒山高校の選手がサーブを打つ。
   ボールを取りに行くエースの江口悠馬(18)。
   スライディングでサーブを取るリベロの相沢葵(18)。
   ボールが高く上がる。
浩太「上がった!!」
   セッターの宇沢慎吾(18)がトスを上げる。
   そのトスに合わせて走り出す光と仁科千秋(17)。
慎吾「光!」
   慎吾は光にトスをあげる。
   光、思いっきり走って高く跳ぶ。
   タイミングはばっちり。
   コート際にいる小野勇気(18)「よし!」という表情。
   光の前に現れるブロックの選手2人。
浩太「いけーーー!光!!」
   光は、強くスパイクを打つ。

〇白山高校・校舎
   鳥が鳴く声。      
   校庭では、楽しそうに走り回って、遊んでいる学生たち。
   学生の笑い声が響いている。

◯同・教室
   席を移動して自由に昼食を食べている学生たち。
   笑顔で楽しそうにしている。    

〇同・体育館
   静かな体育館。
   その中で1人、サーブの練習を黙々としている光。
   ボールの音だけが大きく響いている。
   ドアが開き、浩太が入ってくる。
   光は、集中していて気づかない。
浩太「…」
   浩太は見守るように、しばらく、光を見つめている。
浩太「光」
   光は、ようやく浩太がいることに気づく。
光「浩太先輩…お疲れ様です…」
   どこか気まずそうな光。
浩太「…もし、お前のせいだとか思ってるなら、それは違うからな」   
光「…」
   サーブを打ち続ける光。
浩太「まぁ、三回戦までは行ったんだし」
   浩太は、光のいるコートの反対側に行き、光のサーブを受ける。
浩太「付き合うよ」
光「すいません…」
   悔しそうな表情で黙々と打つサーブ続く。
   それを受け止める浩太。

〇同・教室(夕)
   放課後。
   スクールバッグに荷物をつめる光。
   「部活行くぞ~」「帰ろう!」などの声が聞こえてくる。
   光に近寄る担任の先生。
先生「光、バレーの大会も終わったんだろ。そしたら、ほらこれな。忘れん  なよ」
   先生が光に渡したプリントには冬の補講スケジュールが記されてる。
先生「お前はほんとバレーのことしか頭にないんだから。将来のこと考えてちゃんと勉強しとくんだぞ」
光「(不貞腐れ気味に)はい…」
   光は、小さくため息をつき、教室を出る。

◯同・廊下(夕)
   光は、体育館の方に歩き出そうとするも後ろから大野海(18)に
  止められる。
海「光!」
   駆け足で光に近寄るが、足がもたれて、途中でふらつく海。
光「ちょっと、大丈夫かよ。無理すんな」
   ふらついた海を支える光。
海「これくらいは大丈夫。ところで、どこ行こうとしてたの?」
光「えっ、それは」
   うろたえる光。
海「(ため息つきながら)体育館でしょ」
光「…」
海「迎えにきて正解だったわ。帰るよ」
光「いや、バレーの練習したい…」
海「休憩も練習のうちって言うでしょ。やりすぎは故障のもと。バレーでき  なくなるの、嫌でしょ」
光「…わかったよ」
   光は海の足をちらっと見る。

◯電車・車内(夕)
   人がまばらにいる車内。
   隣に座る光と海。
海「わっ、やっぱり千葉の予選突破したの、空志野高校だって!」
   海は、スマホでネットニュースで千葉県予選の決勝動画を見ている。
海「あのチームは、なんてたって、ユース入りしてる雪野壱月がいるからね。強いわ…」
   海のスマホを覗き込む光。
光「(心の底から思わず)すごいな」
海「ね…」
   目を輝かせる光を微笑ましく見つめる海。

◯体育館・ロビー(夕)
   地域新聞やバレー雑誌などいくつかの報道陣が集まっている。
   その中心にいるのは、雪野壱月(18)。
報道陣「今回の千葉予選大会、決勝の感想はいかがでしょうか?」
壱月「特に…、ないです」
報道陣「え?」
壱月「感想はないですけど、事実として、練習した結果がしっかり返ってきた。全てを犠牲にした分、予選突破した。それだけだと思います」
   インタビューを受ける壱月を遠くから寂しそうに
   見守る水野輝人(18)。
輝人「壱月!召集だって!」
壱月「ん」
   壱月は報道陣から立ち去る。

◯電車・車内(夕)
   ニュース動画を見ている光と海。
光「(心の底から)いいな…、何者かになれた人って」
海「ん?」
   ぽつりと話し始める光。
光「…あの時さ、俺とあと、千秋がスパイク打とうと、走ってたんだよね」
海「ああ、試合の最後?」
光「そう。もし、あの時、千秋にトスが上がって、スパイク打ってたら、どうなってたんだろうって。千秋の方が、全然俺よりも…」
海「でも、慎吾先輩は、その時、光がベストだと思ってトス上げたんでしょ」
光「それに、もし、俺がちゃんとブロック見て、もう少し右にスパイク打てたらって…」
   いじける光にいら立ちを隠せない様子の海。
海「もし、もしってさ…。そんなの負けた人は、「もし…、あの時ああすれば」ってみんな思ってる。それを思わないで済むのは勝った人の特権」
光「…」
海「気持ちはわかるけど。でも、光がそんな感じなの、らしくないよ」
   電車が止まり、扉が開く。
海「じゃあね、今日は寝な!とにかく!」
   海、少しキレ気味に電車を降りていく。
   ドアは閉まり、再び電車は発車する。
光「らしくないか…」
   電車がトンネルに入り、車内は真っ暗になる。
   トンネルを抜け、車内が明るくなると、先程まで車内にまばらにいた   
   人達がいなくなっている。
光「えっ?」
   光、驚いて辺りを見回す。
   そして、光の目の前に、サラリーマン風のスーツ姿の男性Ⅹが突然現  
   れる。
   光の前に座っている。
光「わっ!」
Ⅹ「どうも」
光「えっ…、どうも?」
Ⅹ「驚いてます?」
光「えっ…何ですか?…誰ですか?」
Ⅹ「質問多いな~。まぁ、そっか、えっ〜と簡単に言うと、私は輪廻の神です。ほら、輪廻転生の輪廻。まぁ神様って言われるのも照れるから、みんな馴染みのある山田太郎とでも呼んでください」
光「…」
   Ⅹの陽気な様子に呆気に取られている光だったが、
   気を取り直し、携帯を取り出して、電話をかけようとする。
   しかし、圏外でつながらない。
Ⅹ「繋がらないですよ。ここ現在と過去の狭間の空間なので」
光「(聞き返すように)え?」
Ⅹ「でも、残念だな。怪しまれないように、なんか、電車に乗ってそうな、それっぽい格好してきたんだけど。いわゆる毎日満員電車に乗って頑張るサラリーマン風に」
   可愛くいじけて見せるⅩ。
光「は、はあ…。わかりました。わかりたくないけど、とりあえず、わかりました。あなたがその…、輪廻の神様?まぁ、自称山田太郎だとして、何してるんですか?」
Ⅹ「(急に取ってつけたような笑みで)やり直したい?」
光「……え?」
   驚きのあまり一瞬無言の時間。
Ⅹ「君が、あのトンネルをくぐる時、もし…って、強く思ったから私、呼ばれたんです。やり直したいですか」
光「(訝しげに)……やり直せるんですか?」
   疑わしい目でⅩを見つめる光。
Ⅹ「ええ、やり直せますよ。あなたが願うのであれば、おおせのままに」
光「何ですか、それ。やり直しなんてできたら、そんな人生…」
   混乱している光。
Ⅹ「でも、実際にできるんです。ちなみに3回っ!」
光「3回って、ランプの魔人じゃあるまいし」
Ⅹ「そうですね。でも、ランプの魔人とは違って……、代償が伴います」
   先程までの軽い調子は消え、Ⅹから笑顔がなくなる。
光「代償…?」
Ⅹ「あなたがチームと共にバレーにかけた時間、その記憶の全てを失う」
光「…」
   驚きのあまり呆然とする光。
Ⅹ「何かを得るには何かを犠牲にしなければいけませんから」
光「(呟くように)犠牲にした分…」
   壱月のインタビューを思い起こしている光。
   先程まで呆気に取られていたが、息を呑み、覚悟を決める。
   深呼吸する光。
光「(動揺しながらも)…わかりました。お願いします」
Ⅹ「それでは後悔なきよう」
   電車が白い光に包まれる。

◯千葉市体育館・コート
   一気に辺りの景色が変わる。
光「はっ…」
   光は目を開く。
   白山高校23―黒山高校24の得点板。    
   バレーボールコートでは、黒山高校がサーブを打つ準備をしている。
   浩太が、チームの士気を高めている。
浩太「サーブとってくぞ!」
   部員たち「オー」と浩太の声に応える。 
   その中で、1人動揺を隠せない光。
光「まじか…」
   光は、部員たちに遅れて「お、おー!」と声を出す。
   その様子を千明が不自然そうに見る千明。
   黒山高校の選手がサーブを打つ。
   悠馬と葵が走り、葵がボールを取る。
   そのボールから慎吾がトスの体制に入る。
   動揺していたが、切り替えて走りだす光と、千明。
   トスは光の方に上がる。
光「(小声)右…」
   光は思いっきりジャンプし、意識的に右にスパイクをする。
   光の打ったボールは、相手コートに落ちる。
   その瞬間、コート内で歓声が上がる。
光「…」
   落ちたボールを呆然と見つめる光。
   そんな光に抱き着く、先輩たち。
勇気「光、ナイスプレー。いつもがむしゃらなのに、よくブロック見て打てたな」
   光を褒めちぎる勇気。
光「…あ、ありがとうございます」
   光、笑顔を作って嬉しそうにするも釈然としない表情。
浩太「はいはい。24対24でデュースだ。先に2点取って1セット取るぞ」
   悠馬を宥める浩太。
   少し離れたところで光を見つめる千明。

〇同・観客席
   試合までの空き時間、観戦席で試合の様子を見ている
   空志野高校の生徒。
輝人「おお、白山高校2セット目勝って、3セット目までもつれこんだぞ」
   試合はまだ終わっていないが、1人、立ち去る壱月。
   それに気づき、後を追う輝人。
輝人「壱月、どこ行くんだよ」
壱月「バレーの練習しないと…」
輝人「もう少し見てってもいいんじゃないか。この後、相手になるかもしれないし」
壱月「いい。見ても変わらない」
輝人「…そっか」
   立ち去る壱月の背中を寂しげに見つめる輝人。

〇同・コート
   悠馬がスパイクを打つ。
   そのボールがコートに落ちるとともに鳴る笛の音。
   得点板は、白山高校24―黒山高校22の表示。
   白山高校の選手は歓声を上げる。
   膝から崩れ落ちる黒山高校の選手。
   その姿を呆然と見つめる光。
光(M)「運命の3セット目を制したのは俺たちだった」
   何とも言えない感情に襲われている光の表情。

〇同・外(夕)
   外は日が暮れ始めている。
海「急がないと!」
   海は時計を見ながら慌てて中に入って行く。

〇同・観客席
   観客席に入って来る海。
海「ギリ間に合った…」
   海は、慌てて、空いている席に座る。

〇同・外(夕)
   「第四回戦を始めます」とのアナウンスが鳴り響いている。

〇同・コートA(夕)
   第四試合が始まる。
   審判の声が響く。
審判「白山高校と川野高校の試合を始めます」
   選手たちは「お願いします!」と挨拶をする。
慎吾「また、トス上げるからな。さっきみたいに冷静にスパイク打てよ」
光「はい…」
   慎吾にボソッとアドバイスされる光。
   いつも以上に緊張した面持ち。
×××
   白山高校と川野高校の得点板には、3セット目で23―24の文字。
   汗だくで疲れている様子の選手たち。
光「まただ…」
   顔が強張る光。
浩太「3セット目、取ってくぞ!」
   その時、コーチによってタイムアウトが取られる。
   コーチのもとに集まる選手たちは、
   水分補給しながら指示を聞いている。
コーチ「ちょっと、緊張しすぎだ。もっとリラックスしろ。サーブは葵が必ず拾え…それで…」
   コーチの奥に立ち、光の視界に入って来るX。
   光はコーチ越しにXを見つめる。
   Xに気を取られ、何も聞こえてこない光。
X「あと、2回ありますよ」
   光に微笑みかけるX。
   タイムアウト終了の合図を知らせる音
   が鳴り、意識をⅩから逸らす光。
浩太「光、大丈夫か」
光「は、はい!」
   コートに戻る選手たち。

〇同・コートB(夕)
   空志野高校が相馬高校と試合をしている。
   得点板は2セット目、空志野高校20―相馬高校10の文字。
   力強いスパイクを打つ壱月。
   相馬高校の選手はボールを取れず、得点板は21―10に。
   ローテーションし、壱月のサーブの番になる。
   相馬高校の選手は「うわ…」という表情を浮かべている。
相馬高校選手「あんなボール取れたらラッキーだ!落ち込むなよ!相手がアウトするの待つしかない!」
壱月「…」
   壱月、ジャンプサーブを打つ。
   勢いがすごく、相手チームは動けない。
   壱月、2本目のサーブを打つ。
相馬高校選手「…」
   相手チームは「もう無理だ」と苦笑いを浮かべている。
   壱月、3本目のサーブを打つ。
   勢いが強すぎてコートからギリギリ出てしまう。
審判が旗を上げて笛を鳴らす。
相馬高校選手「助かった…」
   安堵の表情を浮かべている。
壱月「はあ…」
   誰にも聞こえない大きさでため息をつく壱月。
   その姿はどこか寂しそう。

〇同・コートA(夕)
   試合再開の合図の笛が鳴る。
光「よしっ!変なこと考えない」
   自分に言い聞かせる光。
   相手の選手がサーブを打つ。
浩太「葵!」
   葵がレシーブの体制に入る。
葵「取ります!」
   ボールが上がり、慎吾がトスを上げ、悠馬がスパイクを打つ。
   しかし、相手に拾われてしまう。
悠馬「戻って来るぞ!」
   一同、はい!と返事をする。
勇気「止める!」
   勇気と千明がブロックに跳ぶも、相手のセッターがツーアタック
   をして、ネット間際に落とす。
   光、それに気づいて、走り始めるものの、反応が遅く遅れる。
   取れずにこぼれ落ちるボール。
光「くっ…」
   相手チームから湧き上がる歓声。
   スライディングし、寝転がった光の視線の先にはⅩの姿。
Ⅹ「どうします」
   歓声でⅩの声は光には聞こえていない。
光「(迷いながらも悔しそうに)もう…、もう一回…」
   自分が情けなくなる光。

〇民泊A・和室(夜)
   一つの部屋に集まって空志野高校の試合のビデオを見ている。
悠馬「やっぱり、かっこいいな~、雪野壱月」
葵「このサーブ取れたらかっこいいよね」
勇気「それな」
慎吾「いや、そいつもすごいけど、セッターの水野輝人もマジでうまい」
浩太「なあ、一応聞くけど、予選の決勝行けて満足してないよな?」
慎吾「…いや、まさか」
   慎吾と悠馬と葵と勇気は、はははっと誤魔化すように笑っている。
浩太「かっこいい~とかうまっ!とか思っててもいいけど、俺たちは明日、その人たちに勝ちに行くんだからな」
慎吾「わかってるよ、(ふざけて)憧れるのはもうやめるってね」
勇気「それ絶対わかってないだろ」
   盛り上がっている先輩たちを後に部屋から出る光。
   その姿を見つめる千明。

〇同・外(夜)
   民宿の前のベンチでボールを上に投げては、キャッチしながら、
   今日の試合のことを考えこんでいる光。
   そこに上着を持った千明がやって来る。
千明「光、そんな薄着じゃ冷えるぞ」
   千明は、光に上着を投げ、隣に座る。
光「お、ありがとう」
千明「…どうした?」
光「ん?」
千明「らしくないよ、なんか」
光「…らしくない?」
千明「誰よりもバレー楽しんでる光が、コート上で、しかも試合中に、考え事してるなんて、らしくない」
   ボールを上げるのを止め、手元にあるボールを見つめる光。
光「なあ、考えたことある?このまま何にもなれないまま、終わるんじゃないかって」
千明「は?」
光「俺さ、小さい時から、スポーツは割と何でも出来たんだよね、走るのも跳ぶのも投げるのも。ほら、よく小学生の時モテるタイプ」
千明「(笑いながら)自分で言うなよ」
光「でも、1番にはなれなかった」
千明「…」
光「どこに行っても、何しても自分より出来る人はいて…。バレーも同じ。バレーが好き、バレーがやりたい。バレーが楽しい。そこは変わらない。でも、同年代で自分よりすごい人はたくさんいて、このまま何者にもなれずに終わっちゃうんじゃないかなって、時々不安になる」
   ボールを再び上に投げ始める光。
千明「…何者かになりたいとか、なれないとか、そう思った時点で終わりなんじゃないかな」
   ボールを上げていた光、キャッチをミスり、ボールが転がっていく。
光「…」
千明は、ボールを取りに行く。
千明「光の言う、その何者?ってやつになれた人って、何者かになりたいとか思ったことないんじゃないかな。多分、夢中で好きなことやってたら、そうなってただけだと思うんだよね」
光「…」
   少し重くなる空気。
千明「(軽い調子で)まあ、わかんねえけど、俺は凡人だし」
   千明、拾ったボールを光に投げる。
   それをキャッチする光。
千明「でも、得体のしれない、その何者を目指すより、今、目の前のことに夢中になる方が光らしいと思うけどね、俺は」
   「優しいライバルからのアドバイスでした~」と言って
   宿の中に入って行く千明。
光「目の前の…」
   再び高くボールを上に投げ始める光。

〇同・和室(夜)
   戻って来る千明。
   布団に入りながら数学チャートなどを広げ勉強をしている悠馬。
   今日の試合の動画を見ている浩太と勇気。
   爆睡している葵、慎吾含めた生徒たち。
浩太「どうだった?」
千明「まあ、色々複雑そうですけど、俺は大丈夫だと信じてます」
悠馬「そっか」
千明「はい…」
   目を見合わせ微笑む浩太と悠馬。
千明「というか、こんな時にも勉強してるんですか、悠馬先輩」
悠馬「まあ…」
浩太「来週、模試あるからな。悠馬は医学部志望だし、大変だ」
悠馬「バレーで大学行けるほど甘くはないからな」
   軽い調子で笑う悠馬。

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#創作大賞2024 #漫画原作部門

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