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現在地 2話「何者かに?」創作大賞2024漫画原作部門
▼本編
#2話 「何者かに?」
〇民宿B・外(早朝)
ジャージを着てオーバーの練習をしている壱月。
眠そうな様子の輝人があくびをしながら出てくる。
輝人「おはよう…」
壱月「おはよう」
輝人「まだ、5時だよ。昨日2試合もやって疲れてんのに…」
壱月「日課だから。勝つためにはやらないと」
輝人「…うん。まあ、そっか」
オーバーを上げ続ける壱月を見つめ続ける輝人。
輝人「ほんと、お前って昔からそうだよな。俺がバレー誘ったのに、いつの間にか俺より…」
壱月「…」
輝人「なあ、決勝、勝つと思う?」
壱月「勝つ。勝つために必要なことは全部やってるだろ。俺も輝人も」
輝人「…なあ、楽しい?」
壱月「何が?」
輝人「…いや、何でもない」
練習を続ける壱月を背に宿に戻る輝人。
壱月はオーバーを上げ続けている。
〇千葉市体育館・外
春高バレー千葉県予選決勝と書かれた看板。
〇同・中
白山高校・空志野高校と書かれた横断幕が客席にかけられている。
客席には多くの人。
〇同・ホール
入場するタイミングを待つ白山高校の選手たち。
各自気持ちを整えたり、アップをしたりしている。
光の視界には、遠くからこちらを見つめているⅩの姿。
光「…」
そこに、海がやって来る。
海「光!」
光「(驚いて)おおっ、見に来たの?」
海「見に来たっていうか、来てたよ、昨日も。まあ、男子のバレーもそうだけど、女子バレー応援しに。負けちゃったけどね」
海は、どこか元気のない光の背中を思いっきり叩く。
光「いたっ…!」
海「なんでそんなしおれた顔してんの?嬉しくないの?決勝」
光「いや、俺の実力じゃないっていうか…、自分にもみんなにも申し訳なくて…」
海「…よくわかんないけど。まあ、確かに光の実力じゃ決勝行けてないよね。普通」
光「えっ…、いや、そうなんだけどさ」
海「でも、ここまで来ちゃったんだから。もう目の前のことだけ集中してればいいんじゃない。こういうのは夢中になったもの勝ちだよ」
光「…」
入場する時間になり浩太に呼ばれる光。
浩太「光、いくぞ!」
光「はい!わかりました!」
走り出そうとするも立ち止まり振り返る光。
光「ありがとう」
海「うん。私の分まで任せたよ」
海はコートに走っていく光の背中を羨ましそうに見つめる。
海「バレーができる。それだけでもう…」
1人呟く海。
〇同・コート
白山高校と空志野高校の生徒がネットを挟んで列に並んでいる。
選手たち「お願いします!」
挨拶をして、白山高校は円になる。
浩太「正直、相手はめっちゃ強い」
葵「(笑って)正直ね、確かに」
浩太「だけど、勝とう。焦らず、自分たちのバレーをやろう」
慎吾「よし!」
浩太「いくぞ!」
浩太の掛け声に一斉に気合を入れて「おしっ!」と笑顔で答える選手
たち。
その円陣の様子を見つめる壱月。
〇同・観客席
観客席の最前列に座っている海。
海も緊張している様子。
〇同・コート
笛の合図とともに、試合が始まる。
白山高校のサーブ。
浩太がサーブを打つ。
強くサーブを打つも、空志野高校の選手に拾われ、返される。
浩太「返ってくる!」
勇気がブロックに跳ぶ。
勇気「ワンタッチ!」
葵「はい!」
返ってくるボールを葵が拾う。
慎吾「よし!」
悠馬、千明、光がスパイクの姿勢に入っている。
慎吾は、悠馬にトスを上げる。
悠馬のスパイクはコートのギリギリに落ちる。
皆が、審判を注目している。
審判は、旗を上げず、笛を鳴らす。
慎吾「よしっ!!」
悠馬「まず1点!」
光「悠馬先輩!」
ハイタッチをする光と悠馬。
喜ぶ白山高校の選手たち。
笛が鳴り、再び浩太のサーブ。
浩太「ふーー」
深呼吸をする浩太。
浩太の打ったサーブはギリギリでアウト。
浩太「すまない!」
千明「ドンマイです!」
空習志野高校のサーブ。
サーブの準備をする壱月。
一瞬、コートが静まり返る。
葵「きた…」
息を呑む葵。
壱月は黙々とコートにボールを打ち付けている。
浩太「一本取るぞ!目の前の!」
壱月がサーブを打つ。
あまりのサーブの速さに動けない白山高校の選手。
ボールがコートに落ちる。
空志野チームの観客席から歓声が上がる。
葵「はやっ…」
動揺する選手たち。
〇同・観客席
試合を見ている海。
海「動画で見るのと、生で見るのじゃ全然違う…」
驚きよりも、感心している様子。
〇同・コート
呆気に取られている白山高校の選手をよそに、
壱月は黙々と次のサーブの準備を始める。
輝人「ナイス、壱月」
壱月「ああ」
ボールを落ちたところをじっと見つめていた光。
光「…すっごい」
目を輝かせる光。
千明「え?」
光「すごい」
笑っている光。
夢中になっている様子。
重い空気から何とか立て直す白山高校の選手たち。
浩太「よし、次くるぞ!」
葵「おう、次は、取る!」
×××
白山高校1―空志野高校5の得点板。
まだ、壱月のサービスエースは続いている。
浩太「次!」
まだ、諦めずへばりつく白山高校の選手たち。
輝人「珍しい…」
そんな白山高校の選手を見つめる輝人。
壱月がサーブを打つ。
それを拾いに行った光が、偶然不格好にヘディングのように拾う。
光「いたっ!!」
驚く壱月。
〇同・観客席
試合を見ている海、「え」という表情。
〇同・コート
光の体は倒れ、持ち直せない。
光「誰か!!」
ネットから離れたボールを浩太が拾い相手チームのコートへ。
ボールは高く上がっている。
輝人「チャンスボール!」
輝人はトスを上げようとするも、壱月はサーブを返された動揺から
次の動きが遅れている様子。
違う選手にトスを上げる輝人。
空志野高校の選手が打ったスパイクを勇気と千明が止める。
歓声を上げる白山高校の選手。
勇気「よっしゃ!!!」
慎吾・悠馬「ナイスブロック!」
千明「ありがとうございます!」
葵「光、ナイス頭!よく拾った!」
光「え、あ、はい!」
浩太「光、頭大丈夫か」
光「大丈夫です」
壱月、呆然と相手コートを見ている。
輝人「どうした?」
壱月「いや…」
輝人「いや~、俺も驚いた。壱月のボールにあんなにくらいついてきたの、久しぶりだよね」
壱月「ああ。すぐカバーに動けなくてごめん。次はしっかり取られないようにする」
白山高校の選手たちを見つめながら、
嬉しそうに笑う壱月。
〇同・観客席
試合を見ている海。
海「取り越し苦労か…」
光の笑顔を見ながら微笑む海。
〇同・外(夕)
日が夕暮れになり始めている。
カラスが鳴いている。
〇同・コート(夕)
2セット目、白山高校19―空志野高校24の得点板。
疲労している様子の白山高校の選手。
〇同・観客席(夕)
試合を見ている海。
海「ここ取られたら2セット取られる…」
不安そうな表情。
〇同・コート(夕)
空志野高校の選手がサーブを打つ。
葵がボールを拾い、慎吾がトスを上げ、
悠馬がスパイクを打つも拾われる。
輝人がトスを上げ、壱月は勢いよく上から下に叩き付けるように
スパイクを打つ。
千明と勇気のブロックの合間を破り、コートに落ちる。
浩太と葵は、ボールを拾おうと床に転がるも届かない。
浩太「すまない!」
葵「…強くて速いだけじゃない、ボールがどこに落ちるかギリギリまで読めない」
立ち上がりながらなんとか踏ん張る葵。
疲れから息切れしている光。
そんな光の視線の先に表れるX。
体育館の端で光の方を見つめている。
光「はあはあはあ。ボールの軌道さえ読めれば…まだ…」
千明「…え?」
光、Xの方を見つめる。
インターバルで、選手たちは、ベンチに向かう。
Xを見続ける光。
千明「…光?」
いつまでも動かない光を不思議に思い少し遠くから光を呼ぶ千明。
X「やり直しますか?」
光「…」
自分自身、何を考えているかわからず怯えている光。
X「その代わりチームでやってきたバレーの記憶は失います」
光「記憶…」
苦渋に満ちた顔で千明とベンチに集まるメンバーを見渡す。
千明「…?」
その時、観客席から声が聞こえてくる。
海「光!!」
光は顔を上げる。
そこには身を乗り出す海の姿。
海「私の分まで、楽しんでって言ったよね?」
海は、人目憚からず、大きな声で叫んでいる。
光「ああ…」
光、情けない自分自身に笑い始める。
光「そっか…、俺、今、ここにいるのか…」
光はとびっきりの笑顔を取り戻し、グッドサインをする。
千明「…光、ベンチ行くぞ」
光「うん」
光、清々しい笑顔でベンチへ走り始める。
それを見守る海。